小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体「陸山会」による土地購入をめぐる事件で東京地検特捜部が強制捜査に踏み切って20日余。小沢氏の不起訴決着までの間、政界は捜査の行方に翻弄(ほんろう)された。鳩山由紀夫首相も「盟友」を擁護しつつ、鳩山官邸は「ポスト小沢」へと一時動いた。
「輿石東参院議員会長や山岡賢次国対委員長を(幹事長に)上げるのが一番いい。もしものときのため、考えておいてください」
鳩山首相に周辺グループからこんな幹事長人事案が寄せられるようになったのは1月末。同23日、小沢氏が東京地検の事情聴取を受け、聴取後の記者会見で「与えられた職責をまっとうしていきたい」と幹事長続投に意欲を示していた。
しかし、事情聴取が被告発人として黙秘権を告げられた「被疑者聴取」で行われ、調書2通に署名したことが明らかにされると状況は一変した。立件の可能性を排除できないのは明白だった。
首相の周辺グループが練った後継幹事長の人事案は「小沢氏と関係が良好で、小沢グループが認めうる人材」が前提条件だった。内閣への影響を避けるため閣僚を候補から外し、小沢氏に近い党幹部を軸に進んだ。輿石、山岡両氏のほか海江田万里選対委員長代理らの名前が浮上した。
「ポスト小沢」の動きが水面下で進む中、鳩山首相の言動にも変化が生まれ始めた。
「あれはちょっと言い過ぎた」。首相が周辺に自戒を込めて漏らしたのは、自身が1月16日に小沢氏に「(検察と)どうぞ戦ってください」と激励の言葉を贈った直後のこと。これ以来、発言のトーンを弱めていく。
官邸では首相の発言ぶりが議論された。幹事長続投については「現在は」「今の段階は」と前置きするようになり、事件の展開も「仮定の質問にはお答えできない」と慎重な言い回しに変わった。石川知裕民主党衆院議員らの拘置期限となる2月4日が近づくにつれ「言い方を抑えるよう打ち合わせた」と首相周辺は明かす。
しかし、鳩山首相が「ポスト小沢」の人選に深く関与した跡はなく、進言を聞き置くだけにとどめていたようだ。周辺らの人選も小沢氏の在宅起訴が念頭にあり、逮捕という最悪のケースの危機管理に備えたフシはない。
今夏の参院選をにらみ、選挙実務は引き続き小沢氏に任せるしかない。しかし選挙を考えると、幹事長は退いてほしい。人事案の背景にあったのは、ご都合主義の思惑だった。
毎日新聞 2010年2月7日 東京朝刊