社説ウオッチング

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社説ウオッチング:小沢幹事長不起訴 「政治責任」指摘で一致

 ◇毎日・朝日・読売、民主の対応にも苦言 日経・東京、目立つ検察への注文

 小沢一郎民主党幹事長は本当に「勝った」のだろうか? 党大会で検察との対決を宣言し、そして起訴を免れたのだから「勝った」ようではある。だが、長い目で見て十分な勝利と言えるのか。

 小沢氏は支援者の間では絶大な人気を誇る。天下取りに近づいた戦国武将のように、その剛腕と知謀が信仰にも似た支持を集めているのは間違いあるまい。

 しかし、民主党による政権交代を心から歓迎した国民のうち相当多くの人々が、砂をかむような苦い思いに今とらわれているのも、また事実であろう。閉塞(へいそく)感の暗雲を晴らしてくれる清新な世変わりを期待したのに、その党の最高実力者の資金管理団体が収支報告書に巨額の虚偽記載を続けていたことが分かった。秘書らが逮捕され、小沢氏も焦点のカネに関する説明で言を左右にした。古い政治がよみがえったような既視感がある。勝ったとしても、小沢氏の痛手は深いと見なければなるまい。

 不起訴決定後の毎日新聞世論調査で、小沢氏は幹事長を辞任すべきだという回答が減りはしたものの69%という高い比率を占めている。今後どう推移するか分からないが、続投支持が圧倒的多数になるとは考えにくい。続投不支持の声が高くても、小沢氏は政治的師匠だった田中角栄元首相と同様に「選挙結果こそ世論だ」と考え、自らの指揮で夏の参院選に圧勝することにより権力の正統性を確保しようとするのだろうか。

 さて、小沢氏不起訴を論じた主要紙の社説である。毎日など3紙が小沢氏の「政治責任」を見出しにとった。文中では他の3紙も「政治的責任」「道義的責任」などに言及している。小沢氏が不起訴によって刑事責任追及を免れたものの、政治責任は回避できないという指摘で一致しているわけだ。

 当然ではある。小沢氏の政治資金に関して現職国会議員を含む元秘書ら3人が起訴された。本人については虚偽記載への直接関与の明確な証拠を捜査では得られなかったということであり、必ずしも「潔白」を意味しない。政治責任論に共通する重い現実だ。

 ◇続投容認論なし

 では幹事長続投はどうか。毎日は1月の党大会の時点で「説明欠く続投は許さぬ」との見出しの社説を掲載し、以来その姿勢を変えていない。その際の朝日社説は続投の可否に直接言及しなかったが、今回は「(政治改革などについて)責任を果たすことができないのであれば、潔く幹事長を辞任するべきである」と書いた。現時点で、他の4紙を含め続投容認論は見当たらない。

 こうした厳しい論調の背景には小沢氏への不信がある。毎日、朝日、読売の3紙は、小沢氏の説明が二転三転した事実を指摘した。例えば07年に表面化した土地購入について、当時は「政治献金の有効活用」と説明していたが、昨秋には購入資金が「銀行からの借り入れ」と変わり、さらに小沢氏の「個人資産」となった経緯に関する疑念の表明だ。

 一方、日経は小沢氏が家族名義の口座に関し「私のお金であり、女房や子どもに贈与した認識はない」と述べたことについて「贈与税を逃れる目的だったのではないかという疑念が残る」と書いた。

 ◇5紙「国会で説明を」

 これらを含め、常識では納得し難い数々の疑問点の存在を6紙すべてが指摘し、東京を除く5紙が国会での参考人招致などに応じるべきだと求めている。

 小沢氏本人に対してだけでなく民主党への苦言も目立った。毎日は「政治とカネ」の問題と決別しようという声が民主党内からほとんど聞こえないと批判し「既に国民を失望させつつあるという政治的責任」を「党全体で冷静に考える時ではないのか」と提言。朝日も「民主党自身の自浄能力」を求めた。読売は、政府・民主党内で「検察捜査への介入と受け取られるような不穏当な言動が繰り返されてきた」と指摘し、不毛な対立の再燃をいましめた。

 ◇産経、激しい批判突出

 ここまで6紙のうち主に4紙の論調を紹介してきたが、それは産経と東京の姿勢に、別途考えるべき側面があるからだ。産経は小沢氏批判の筆致が最も激しく、社説に書く頻度も突出して高い。最近1週間だけとっても、「小沢氏の土地購入 原資の疑惑さらに深まる」(1月30日)▽「小沢氏再聴取 議員辞職が責任の取り方」(2月2日)▽「小沢幹事長 国民が納得できる処分を」(同4日)--そして今回という展開だ。

 一方、1月の民主党大会や小沢氏聴取の際には他紙と比べてさほど異色な点のなかった東京の社説は今回、検察への注文に力を入れた。見出しにある「国民の疑念」とは、小沢氏より検察に対する疑念に重みがあるようにも読める。

 毎日を含む他紙の社説もすべて検察への注文を含んでいる。日経は政治責任に関する論述とは別に「検察は『厳正公平』に説明を」という見出しを立て、疑念を晴らす努力を検察に求めた。

 だが東京はもっと踏み込んだ。「民主党は、国民に選ばれた国会議員による『政治主導』を目指しており、捜査は『脱官僚主導』をつぶすための、検察の『暴走』との憶測も呼んだほどだ」「事件を通じて『メディアは検察と一体か』との批判がかつてないほど聞かれた。報道の公正さへの問い掛けの重みも、われわれは受け止めねばならない」

 確かに報道機関は謙虚であるべきだ。同時に、強大な政治権力への監視と適切な批判は、今後も怠ってはなるまい。【論説委員・中島哲夫】

毎日新聞 2010年2月7日 東京朝刊

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