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クローズアップ2010:米での新車販売急減 広がる「トヨタ離れ」 店内に客まばら

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>

 米国などでの大規模リコール(無償の回収・修理)問題がトヨタ自動車を揺るがしている。リコール対象車種の一時販売停止などのあおりで、1月の米国での新車販売は前年同月比15・8%減の9万8796台に落ち込んだ。単月では11年ぶりに10万台を割り込み、08年秋のリーマン・ショック以上の逆風となった。1日に米国で改善策を発表した後も、ハイブリッド車「プリウス」への苦情が多数寄せられていたことが発覚。同社のイメージダウンは避けられないが、信頼回復のめどは立っていない。【大久保渉、ワシントン斉藤信宏】

 ■「アクセル不安」

 2月上旬、首都ワシントンから北西に約30キロ離れた米メリーランド州のトヨタ販売店は、客が数人いるだけで静まりかえっていた。残雪の中にリコール対象の「カローラ」が並ぶ店先で、セローム・ツェガール販売部長は「トヨタ車が良いことは、乗っている人はみな知っている。リコールの影響は大きくない」と強がってみせた。だが10年間、トヨタ車に乗るリック・ポールさん(58)は「次に買い替える時は分からない」と言う。「高速道路では、どうしても(不具合を起こした)アクセルが気になる」

 米国ドライバーは、無料の高速道路を通勤や買い物で毎日のように利用する。多くは時速65~70マイル(105~113キロ)で走行し、安全へのこだわりは強い。

 「トヨタの顧客は死の恐怖におびえている」。トヨタ販売店の3軒隣にある米ゼネラル・モーターズ(GM)販売店のダグ・ダガー社長が声を上げた。GM販売店は、車の購入者への1000ドル(約9万円)の現金払い戻しなど、トヨタ車ユーザーを狙った販売促進策を導入した。「既に2、3件問い合わせが来た。これからどんどん増える。米国の自動車市場は大きく変わるはずだ」。GMは、ライバル社のつまずきを反転攻勢の好機にしようとしている。

 米調査会社によると99年以降、米国内でトヨタ車のアクセルの不具合は2262件報告された。うち815件が事故につながり、負傷者341人、死者19人を出した。1日の対策発表後、米メディアは米国トヨタ自動車販売社長が「心からおわびする」と謝罪する映像を繰り返し放映した。不具合の原因も「電気系統に絡む欠陥との指摘もある」と報じ、問題がさらに広がる可能性を伝える。こうした空気が、米国で一層のトヨタ離れを招く恐れもある。

 ■対応の遅れ響く

 混乱拡大の背景には、トヨタの対応が後手に回ったこともある。トヨタは1月21日に「カローラ」などのリコールを発表。26日に対象車種の販売中止と生産一時停止を発表したが、改善策発表は1日にずれ込んだ。

 トヨタは昨秋、フロアマットがアクセルペダルに引っかかる恐れがあるとして、米国でマット交換など、自主改修措置を取ったが、より強制力のあるリコールにならなかった経緯はきちんと説明しなかった。このことが米国で「抜本対策を先送りした」(米議会関係者)などの疑念も呼んだ。2日、名古屋市で会見した佐々木真一副社長(品質問題担当)は、説明や対応に問題があったことを認めた。

 ◇プリウス問題、追い打ち

 トヨタの豊田章男社長は年初の記者との懇談で「嵐は嵐でも暴風雨は抜けた」と述べ、09年6月の社長就任以来「どん底」と表現していた業績が上向きつつあるとの見方を示した。だが、今回の大規模リコール問題で状況は一変した。目玉車種のハイブリッド車(HV)「プリウス」の安全性にも疑問が投げかけられ、「これほど顧客に心配をかけたのは初めて。大きな影響が出るのでは」(佐々木副社長)と、かつてない逆風に対応しきれないでいる。

 09年3月期に4000億円超の連結営業赤字を計上したトヨタだが、景気対策で各国が打ち出した新車買い替え補助を追い風に販売は急回復した。

 世界新車販売の4分の1以上を占める米国でも昨夏以降業績が持ち直し、09年12月は前年比3割増の18万8000台、10年も増加を見込んでいた。4日発表予定の09年4~12月の連結営業損益は黒字を確保する見通しで、業界には「10年3月期にも黒字化を達成」との観測まで流れた。

 だが、米国の新車販売は急減し、追い打ちをかけるように3日、プリウスの「ブレーキが利きにくい」との苦情が日米で寄せられたことが判明。佐々木副社長が直嶋正行経済産業相、前原誠司国土交通相に事情を説明する事態となった。

 直嶋氏は記者団に「(リコールまで)行かない気がする」との見通しを示した。だがプリウスは、日本国内で09年、販売台数で首位に立ち、世界80カ国以上で発売される予定で、トヨタにとって業績回復の切り札だ。もし安全性に疑問符がつけば、トヨタのダメージは計り知れない。

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 ■品質を巡るトヨタの対応の経緯■

【07年】

3月     米国でピックアップトラックのアクセルペダルの戻りが悪いとの苦情を受けたが、「安全面で支障はない」とリコール見送り

【09年】

 8月28日 米カリフォルニア州でレクサス車暴走による4人死亡事故発生。「アクセルペダルがフロアマットに引っかかり、戻らなくなった」のが原因と報道

10月 5日 米道路交通安全局(NHTSA)にフロアマットの取り外しなど安全対策実施を通知

下旬     NHTSAがペダル形状に問題の可能性があると指摘

11月25日 米国で8車種計426万台を対象にペダルを無償交換するなどの自主改修を発表

【10年】

 1月21日 米国で8車種約230万台のリコール発表

   26日 リコール車種の販売・生産一時停止を発表

2月 1日 アクセルペダルの改善策を発表

   2日 リコール対象がカナダ、欧州、中国など約445万台に

   3日 米国で新型「プリウス」のブレーキの不具合を疑わせる苦情が100件以上寄せられていることが発覚。日本でも苦情・事故情報判明

毎日新聞 2010年2月4日 東京朝刊

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