きょうの社説 2010年2月7日

◎県中央病院建て替え 医療の質向上へ決断のとき
 谷本正憲知事が県議会で示した県立中央病院(金沢市)の建て替え方針は、知事選に向 けてのマニフェスト(公約)と受け止めてよいのだろう。公立病院の4分の3が赤字に苦しむなか、県立中央病院は健全経営を維持してはいるものの、既に築33年が経過して老朽化が激しく、石川県の基幹病院としての役割を果たせなくなってきている。公約であるなしにかかわらず、救急やがん、周産期医療といった高度専門医療を安定的に提供していくために、施設の更新を決断すべき時期にきているのは間違いない。

 県立中央病院は医師132人、22に及ぶ診療科目を擁し、一般の医療機関では対処で きない高度専門医療を提供している。このうち、がんの診療はこの5年間で、手術療法が約1・4倍、化学療法が約2倍、放射線治療が約1・2倍に増えた。救急救命センターへの救急搬送患者数は、同じく5年間で約1・7倍に増えており、地域の基幹病院としての重要性は高まるばかりである。最新の医療機器の導入は、地域医療の質向上はもとより、優秀な医師や研修医を確保していくためにも必要だ。

 経営に関しては、08年度の経常収支比率が105・1%(07年度の全国平均95・ 1%)、医業収益に占める職員給与費が49・0%(同56・2%)、病床利用率が81・4%(同78・9%)と良好な水準にある。県の試算では、建て替えに際して、300億〜400億円の財政支出が必要になる。これらの多くは起債で賄うとしても、県財政への負担は軽くない。

 医療の「安全・安心」を守っていくには、必要な投資なのだろうが、経営が傾いてしま ってはどうにもならない。県は有識者を交えた委員会で、県立中央病院の経営改善方針を示す「改革プラン」を策定した。同プランに沿って収支状況を厳しく点検し、健全経営を貫いてほしい。

 県立中央病院の建て替えは、低迷する地域経済の刺激策になる。受注減に苦しむ建設業 界には恵みの雨になるだろう。むろん、健全な競争入札の下で行われるのが大前提であり、県民の疑惑を招かぬよう細心の注意が必要になる。

◎テロ再指定見送り 深まる武器密輸の「闇」
 オバマ米大統領は、現在の北朝鮮はテロ支援国家の要件を満たしていないとして、再指 定を見送る方針を米議会に伝えた。北朝鮮を6カ国協議に復帰させるための政治的配慮が背景にあるとみられるが、再指定見送りで北朝鮮の「テロ支援容疑」が晴れたわけではなく、北朝鮮の武器密輸をめぐる謎は深まっている。

 オバマ政権は今後の安全保障戦略の指針となる「4年ごとの国防計画見直し」の中で、 二つの大規模紛争に同時に対応する伝統的な「二正面作戦」を見直し、テロ攻撃などさまざまな脅威に柔軟に対応できる国防体制への転換を打ち出した。この安保戦略の実を挙げるには、闇の中にある世界の武器密輸ビジネスの阻止にもっと力を入れなければならない。

 昨年12月、タイ・バンコクの空港で貨物機から大量の北朝鮮製兵器が押収された事件 は、武器禁輸の国連制裁決議にかかわらず、北朝鮮が外貨獲得のため武器密輸に動く一端を示している。押収された武器は多連装ロケット砲や携行式地対空ミサイル、対戦車ロケット砲など約35トンに及ぶ。

 貨物機の行き先はイランで、カザフスタンの武器商人が暗躍しているとされるが、事件 の全容はまだ解明されていない。アジアと中東、アフリカなどの紛争地域を結ぶ武器の密輸ルートがあることは確かであり、昨年7月には、北朝鮮製武器を積んでイランに向かっていたバハマ船籍の貨物船がアラブ首長国連邦(UAE)で拿捕(だほ)される事件もあった。武器の入ったコンテナは中国・上海で積み込まれたと伝えられる。

 また、韓国メディアによると、北朝鮮は貨物船の臨検に対応し、中国、ロシアの陸路を 通って武器を輸出しているという。

 北朝鮮製だけでなく、大量の密輸武器がテロ組織や武装勢力に渡り、国際社会を脅かし ている。米国内では、眼前の対テロ戦争に追われ、武器密輸対策を二の次にしたことで闇の武器ビジネスの肥大化を許してしまったという反省の声も聞かれる。武器の密輸を防ぐ国際社会の取り組みを一段と強化する必要がある。