一撃一冊

2108-01-01

★脳味噌にハンマーを振り下ろせ!★

2008年1月1日~

2012-11-06

『アメリカの影』加藤典洋


アメリカの影 (講談社文芸文庫)


 江藤淳の『成熟と喪失』および一連の占領研究を精細に追跡することで、彼の戦後言説空間への強烈な批判意識とその背後に隠されたアメリカへのナイーブな思いとの落差に、戦後社会の変容を読み解き、また、原爆投下を可能とした“無条件降伏”という思想それ自体を問うことで、日米関係の“原質”に迫る。文学者としての鋭い直観と斬新な視座から日本の戦後をとらえ直した、鮮烈なデビュー作。

2012-11-05

『日本の無思想』加藤典洋


日本の無思想 (平凡社新書 (003))


 著者は戦後日本のタテマエとホンネという考えを、その背後にあるニヒリズムを隠蔽する欺瞞装置と考え、その由来を日本近代以来の「内と外の分断」、近代全体がもつ「親密なるものと公共性」、さらには日本の古代人の屈服の姿から掘り起こす。言葉とは信念を伝えるものなのだけれど、日本ではこの言葉が信じられていない。日本にはこの言葉が力をもつ空間=公的なものがないからだ。著者が本書でなしたいことは、言い古されたこの「公的なもの」を、僕らが初めて聞いたことのように新たに語り直すことなのだ。カントマルクス福沢諭吉の公-私観を経て、戦後日本人はいかに語ることができるかの方向を示す。

2012-11-04

『僕が批評家になったわけ』加藤典洋


僕が批評家になったわけ (ことばのために)


 批評に背を向けても、私たちは生きられる。だが、もし批評がこの世になかったら、私たちの思考はいまよりもっと貧しいものになっていたのではないだろうか。批評とは何か。批評のことばはどこに生き、この世界とどのように切り結んでいるのか。批評という営みが私たちの生にもつ意味と可能性を、思考の原風景から明らかにする。

2012-11-03

『夏姫春秋』宮城谷昌光


夏姫春秋〈上〉 (講談社文庫) 夏姫春秋〈下〉 (講談社文庫)


 鄭の美しい公女への、乱世の英雄たちの愛執。中原の小国鄭(てい)は、超大国晋と楚の間で、絶えず翻弄されていた。鄭宮室の絶世の美少女夏姫は、兄の妖艶な恋人であったが、孤立を恐れた鄭公によって、陳の公族に嫁がされた。「力」が全てを制した争乱の世、妖しい美女夏姫を渇望した男たちは次々と……。壮大なスケールの中国ロマン、直木賞受賞作。


 歴史と人間の拮抗、気品高い中国古代ロマン。覇権を奪いあう諸王たちの中から、楚の荘王が傑出してきた。夏姫を手中にして逡巡した楚王は、賢臣巫臣(ふしん)に彼女を委ね、運命の2人が出会った。興亡激しい乱世に、静かに時機を待った巫臣は、傾国の美女を、驚くべき秘密からついに解き放ち、新しい天地に伴うのであった。気品にみちた、長編歴史小説。全2巻。

2012-11-02

『砂漠の囚われ人マリカ』マリカ・ウフキル、ミシェル・フィトゥーシ/香川由利子訳


砂漠の囚われ人マリカ


 現代モロッコで20年間監禁されていたのは、国王の養女だった。国王の養女から一転して虐待と飢餓牢獄へ。マリカがたどった数奇な運命と奇跡の脱出劇。モロッコで発禁、フランスでは大ベストセラーとなった衝撃的自伝。

2012-11-01

『母に心を引き裂かれて 娘を苦しめる“境界性人格障害”の母親』クリスティーヌ・A・ローソン/遠藤公美恵訳


母に心を引き裂かれて―娘を苦しめる“境界性人格障害”の母親


「なぜ私を否定するの?」「どうして他のきょうだいばかり可愛がるの?」「私は生まれてこなければよかったの?」――娘たちへ、苦しみを乗り越えるために。

2012-10-31

『3歳で、ぼくは路上に捨てられた』ティム・ゲナール/橘明美訳


3歳で、ぼくは路上に捨てられた


 母親に3歳で捨てられ、父親に5歳で殴り殺されそうになったティム。その後、彼は障害を負ったまま、2年半の闘病生活を送る。だが10歳で、心優しい養父母と出会い、ようやく心の平穏を取り戻す。しかし、幸せな日々は長くは続かなかった。養父の甥に放火の罪を着せられ少年院に送られてしまう。過酷ないじめ。脱走を決意した12歳の誕生日。二人の若者に声をかけられ、男娼となった13歳。だが、ティムは変わろうとする。17歳で、フランス最年少の石材加工職人の資格を得て、ボクシングの国内チャンピオンの栄光も手にする。そして、20歳で出会った身体障害者たちとの交流をきっかけに、人生の再スタートを決意する――。フランスで50万部のベストセラー。奇跡的に愛を取り戻した少年の物語。

2012-10-30

『囚われの少女ジェーン ドアに閉ざされた17年の叫び』ジェーン・エリオット/真喜志順子訳


囚われの少女ジェーン―ドアに閉ざされた17年の叫び (ヴィレッジブックス)


 ジェーンが4歳のとき、母の再婚相手として、リチャードという男が現れた。虐待はその日から始まった。殴られ、蹴られ、「色つき女」と呼ばれる。食事につばを吐かれ、食べさせられる。窒息死への恐怖でおもらしするまで枕を顔に押し付けられる。「ご奉仕」と称して命じられる、身の毛もよだつ行為。結婚しても、娘が生まれても、別の家で暮らし始めても、終わらない地獄の日々――。4歳から21歳までの17年という長い年月にわたり、義父からの虐待に耐え続けた女性が、ついに勇気を出して告発し、勝利と幸福を勝ち取るまでの真実の記録。

2012-10-29

『精神と物質 分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか』立花隆、利根川進


精神と物質―分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか (文春文庫)


 本書は立花隆による利根川進への20時間にわたるインタビューの集大成である。利根川ノーベル生理学医学賞を単独で受賞したのは1987年。この分野では単独受賞だけでも珍しいが、選考委員のひとりが「100年に一度の大研究」というコメントを発したこともあり、受賞後、日本のジャーナリストが大挙して押しかけた。しかし、いずれも初歩的な質問に終始し、業を煮やした利根川は一度だけ本格的なインタビューに応じることにした。その相手が立花隆だったというわけだ。


 とにかくおもしろい。ノーベル賞の対象となった研究「抗体の多様性生成の遺伝学的原理の解明」の内容がわかるだけでなく、さまざまな実験方法や遺伝子組み換え技術などのディテールが書き込まれているおかげで、仮説と検証を積み重ねて一歩一歩真理に近づいてゆくサイエンスの醍醐味が手に取るように伝わってくる。利根川定説を覆す仮説をひとり確信し、文字通り世紀の大発見に至るくだりには思わず興奮してしまった。利根川の研究歴をなぞる構成で、運命的な出会いや科学者の生き方といった人間的な側面も興味深い。


 ワトソン、クリックによるDNAの2重らせん構造の発見に始まった、分子レベルで生命現象を究めるという分子生物学の飛躍的な発展は、物質から生命、精神へと自然科学の方向転換をもたらした。ヒトゲノムの解読もそのひとつだ。いずれは生命現象のすべてが物質レベルで説明できるとの予測すらある。本書は利根川の偉業とともに、人類の知の歴史における一大事件である分子生物学草創期のあらましを書き留めた記念碑的名著である。

2012-10-28

『遺伝子があなたをそうさせる 喫煙からダイエットまで』ディーン・ヘイマー、ピーター・コープランド/吉田利子訳


遺伝子があなたをそうさせる―喫煙からダイエットまで


 遺伝するのは容貌や体質だけではない。日日の行動や習慣も、じつは遺伝子の影響を受けている。スリルを求めるか、心配症か、怒りっぽいか、カフェインニコチンに依存しやすいか、セックスの頻度が高いか……。こうしたことはみな、特定の遺伝子がかかわっていることがわかっている。本書は、ごく身近な例をあげながら、日常生活のさまざまな側面で、どんな遺伝子がどんな働きをしているかを具体的に解き明かし、「生まれか育ちか」をめぐる問題に新たな光を投げかける。そして、人はだれでも特定の遺伝的傾向をもって生まれるが、それをどう活かすか、また弱点をどうカバーするかは、後天的に獲得する性格によって変わってくると説く。自身の見方や人生観が変わる、興味の尽きない一冊。

2012-10-27

『脳死・クローン・遺伝子治療 バイオエシックスの練習問題』加藤尚武


脳死・クローン・遺伝子治療―バイオエシックスの練習問題 (PHP新書)


「成人で判断能力のある者は、自分の身体と生命の質について、他人に危険を加えないかぎり、自己決定の権利を持つ」というのが、従来のバイオエシックス(生命倫理学)の原則であった。しかし、私の遺体についての決定権を持つのは私なのか家族なのか? クローン人間の製造はなぜ規制されなければならないのか? 等々、最新技術が提起する様々な課題は、もはや、従来の自由主義個人主義では判断ができない。本書では、これらの問題の複雑な論点を整理し、バイオエシックスの新たな枠組みを提示する。

2012-10-26

『遺伝子が明かす脳と心のからくり 東京大学超人気講義録』石浦章一


遺伝子が明かす脳と心のからくり―東京大学超人気講義録


 東大にはこんな面白い講義があった! やる気・不安・性格も遺伝子が支配していた!? 東京大学文系学生を対象として行われた大人気の講義をついに公開! 科学を全くやっていなくてもわかりやすい内容で、心や知能などに科学的にアプローチするというテーマ、身近な問題から核心に迫っていく展開、時折織りまぜられる興味深い余談、ジョークなどで読むものをひきつけます。さらに、風邪薬で寿命が延びる? 牛乳を飲めば不安解消? 記憶力を上げる薬? など目からウロコの情報もいっぱい! 読んだら絶対人に言ってみたくなる内容が盛りだくさんの全8講義。

2012-10-25

『現代免疫物語』岸本忠三、中嶋彰


現代免疫物語 (ブルーバックス)


 一度かかった病気には二度とはかからない。私たちの体には驚くべき力が備わっている。しかしそれは時にアレルギーや拒絶反応という形で私たちに牙をむく。不思議な二面性を併せ持つ免疫という仕組みを工夫を凝らした「物語」仕立てでやさしく語る。

2012-10-24

『DNA複製の謎に迫る』武村政春


DNA複製の謎に迫る (ブルーバックス)


 私たちの体の細胞が分裂するとき、細胞の中では必ず、DNAが複製される。生命現象の根幹を担うこの反応は、一糸乱れぬ正確さで行われると考えられがちだが、じつは思った以上に不完全で、結構“いい加減”なのである。そして、まだまだ、よくわかっていない。本書は、いまなお多くの謎が残る「DNA複製」の世界に的をしぼり、そのしくみをわかりやすく解説する。

2012-10-23

『新・分子生物学入門 ここまでわかった遺伝子のはたらき』丸山工作


新・分子生物学入門―ここまでわかった遺伝子のはたらき (ブルーバックス)


 クローン遺伝子治療などの今日の話題の震源にある分子生物学はヒトゲノムDNA塩基配列まで明らかにし、生命を遺伝子のはたらきから解こうとする。その最新の成果と全容を、誰にでもわかるようにやさしく紹介。

2012-10-22

『医者、用水路を拓く アフガンの大地から世界の虚構に挑む』中村哲


医者、用水路を拓く―アフガンの大地から世界の虚構に挑む


「100の診療所より1本の用水路を!」パキスタンアフガニスタン1984年からハンセン病アフガン難民の診療を続ける日本人医師が、戦乱と大旱魃(かんばつ)の中、1500本の井戸を掘り、いま、全長13キロの用水路を拓く。白衣を脱ぎ、メスを重機のレバーに代え、大地の医者となった著者が、「国際社会」という虚構に惑わされず、真に世界の実相を読み解くために記した渾身の現地報告。



2012-10-21

『彼岸の時間 “意識”の人類学』蛭川立


彼岸の時間―“意識”の人類学


 田口ランディ氏激賞。あの世とこの世をつなぐリンクはどこにあるのか。シャーマニズム、葬送儀礼臨死体験タントラ瞑想サイケデリックス……。世界のあらゆる境界でフィールドワークを行い、“意識の神秘”を解体する試み。科学的な角度からも意識の変容について迫り、なぜ人々がそれを求めてきたのかを探究する。脳・文化・身体をつなぐ圧倒的なダイナミズム。

2012-10-20

『異空間の俳句たち 死刑囚いのちの三行詩』異空間の俳句たち編集委員会編


異空間の俳句たち 死刑囚いのちの三行詩


 いのちってなんだろう。死刑囚の独房という「異空間」でよまれた「異質な時間」の世界……。極限の世界。いのちとは、生きるとは、別れとは……。生と死、臨界の声があなたの心を揺さぶる。昭和・平成の死刑囚秀句アンソロジー

2012-10-19

『書簡集 空と祈り 『遺愛集』島秋人との出会い』前坂和子


書簡集 空と祈り―『遺愛集』島秋人との出会い


 人間・島秋人の原点がここにある。死刑囚としての罪の意識と人としての生きる悲しみに苦悩しながらも、生かされることのすばらしさを語る島秋人。彼の短歌に感動し、花の差入れと文通を最後まで続けた女子学生・前坂和子。暖かな思いやりと優しさにあふれた往復書簡集。