出版社/著者からの内容紹介
コンピュータのキーボードは、どうしてあんな不思議な順番に並んでいるのだろう。左上からQ・W・E・R・T・Yと並んでいるアレだ。
「タイプライターのキーボードがQWERTYだったから、コンピュータのキーボードもそれをまねたんだよ」
オーケー、確かにその回答は正しい。でもそれは、答の一部にしか過ぎない。それならば、タイプライターのキーボードがQWERTY配列だったのは、どうしてなんだろう。
「タイプライターのキーボードは、元々はABC順に並んでたんだ。でも、タイピストのスピードが上がるにつれて、タイプライターの性能がついていけなくなり、印字をおこなうアーム同士が絡まるトラブルが増えていった。そこで、アームの衝突を防ぐために、タイピストがなるべく打ちにくいようなキー配列をデザインしたんだ。それがQWERTY配列だよ」
これと似た回答を、読者も一度くらいは耳にしたことがあるだろう。でも、この回答は嘘だ。全くのガセネタだ。
タイプライターのキー配列が現在と同じQWERTYになったのは、1882年8月のことだが、その時代のタイプライターにアームなんていう機構はない。アームを有するフロントストライク式タイプライターが発明されたのは、9年後の1891年6月で、実際に普及するのは20世紀に入ってからだ。1880年代に存在していないはずのアームの衝突を防ぐために、タイプライターのキー配列をQWERTYにした、なんてのは全くナンセンスだ。
では、タイプライターのQWERTY配列は、本当はどのようにして決まったのだろう。それはどのように普及していって、そしてどのような形でコンピュータのキーボードに採り入れられたのだろう。あるいは、「タイピストがなるべく打ちにくいようなキー配列」なんていうガセネタを最初に流したのは誰で、このガセネタはどう広まっていったのだろう。本書では、これらを明らかにすべく、1840年代から1980年代まで、約140年間の歴史を旅することにしよう。
(「まえがき」より)
確かにこの本には、キー配列に関して、かなりショッキングな事柄が、かなりセンセーショナルに書かれています。これまで「タイピストがなるべく打ちにくいようなキー配列」なんていう、いわば「アンチQWERTY説」を信じ込んできて、それをバラマキ続けてきた人にとっては、絶対信じたくない内容です。信じたくない人にとっては、この本に書かれているのは、絶対に目にしたくない事実でしょう。その結果、この本を「読ませたくない」という拒否反応を示す人がいても、それはそれで仕方のないことです。
ですが、新聞やメディア、あるいはインターネットサイトで、都市伝説ともいえる「アンチQWERTY説」が発信され続けるのは、技術史の研究者である私にとっては耐えがたい。ですから私たちは、この本を書いたのです。読むか読まないかは自由ですが、たとえ読まないにしても、QWERTY配列に関する「ガセネタ」を、今後、紙面やインターネットに載せるのはやめていただきたい。
(京大記者クラブでの著者スピーチより)
内容(「BOOK」データベースより)
タイプライターの父、クリストファー・レイサム・ショールズによる発明から、私たちが毎日触れるコンピュータのキーボードに至るまで、図版124点余、開発時のエピソード満載で、キー配列140年の謎を解明する。