このところ日本相撲協会の甘すぎる体質については苦言を呈してばかりいたが、今回の朝青龍問題の毅然とした対応には正直いって驚いた。4日の理事会では暴行問題の調査委員会の中間報告だけかと思いきや、本人を召喚し一気に「引退」まで進展した。仮病サッカー問題や、力士暴行死事件などの対応とは大違いだった。
場所中にもかかわらず明け方まで飲んで泥酔し、知人男性とトラブルを起こし警察沙汰になったあげく協会への虚偽報告。これまでの数々の非行と合わせれば、引退は当然で自業自得だろう。今後の人生に汚点が残る除名や解雇にしなかったのは、協会のせめてもの“武士の情け”だろう。
酔ってはトラブルを繰り返すハチャメチャな私生活には品格のかけらもなかったが、土俵ではときに大技を見せて大向こう受けした。こと土俵に関しては抜群の存在感があった。会見では涙をぬぐい「横綱を誇りに思った」と話した。その気持ちを最初からもって、力士生活を送っていたら強い横綱として尊敬されたろう。残念ではある。
朝青龍の抜けた穴は大きい。土俵では当分、白鵬の独走が続いて興行収入にかなりの影響が出るかもしれない。半面、巡業のさぼり放題など、朝青龍がまん延させた「何をやっても許される」という悪しき風潮は一掃されるだろう。「朝青龍には勝てっこない」と及び腰だった力士たちの目もこれでさめ、土俵が締まれば引退はプラスに作用する。
貴乃花新理事の誕生で、わずかながら変化の予兆を感じさせる相撲界。朝青龍抜きで迎える3月の春場所は、力士も親方衆も危機感をもって臨み、地に堕ちた大相撲の信頼回復に努めてもらいたいものだ。(今村忠)