横綱・朝青龍の暴行事件について書いて欲しいと担当記者に依頼されて「困った」。というのも、実は私も朝青龍関のことを言えないほど酒癖が悪いらしいのである。この「らしい」というのは、本人に自覚がなく、知人・友人の証言を聞いて前夜の狼藉を知ることが多々あるから。当然といえば当然だが、人は記憶がなくなるほど飲むと、その人間の素が無意識に出てしまうものらしい。
基本的に礼儀正しく、明るい酒飲みであると自負する私なのだが、前後不覚まで酔うと、空手の先生に戻って空手の練習を始めてしまうのだ…。
私のローキックを受ける羽目になる友人たちには本当に申し訳ないことである。
若い時は、酒が強くてめったに酔うこともなかったが、胆石で胆のうを摘出してからは、急激に酒が弱くなってしまった。だから、今は悪酔いモードに突入する前に、深酒を極力しないようにしている次第である。
自身の酒癖もさることながら、実はもうひとつシタリ顔で事件について語ることができない「困った」事情がある。それというのも、実は朝青龍関とも被害者の男性とも酒席を何度かともにした顔見知りだからなのだ。
事件の内容については、連日連夜スポーツ紙やテレビで報道されているのでこの場では割愛させていただく。
被害者の男性とはもう5年近く会っていないが、若いころは修羅場を潜って生きてきた男である。当然、肝も据わっており機転も利く。たとえ相手が横綱でも、酔って暴れる相手に、素直に「ゴメンナサイ!」というタイプではない。対する朝青龍関もあの通りの暴れん坊。
考えるに、笑ってしまうぐらい、お互いツッパリあった揚げ句、あれよあれよと騒動が拡大してしまったということであろう。本来なら一夜明ければ、電話1本で笑って済む話がこんな展開になるとはガキ大将がそのまま大人になってしまったようなご両人たちもまったく思っていなかったんではないか。
横綱は天下の公人なので、厳しい処分が下されるのは致し方ない。しかし、朝青龍関のどうにも素直すぎる一面を知るだけに、チト可哀相な気がするのも確か。
それに今回の事件が原因となり、朝青龍関が相撲界から去るようなことになるのは、被害者男性の本意ではないとも思う。そうなれば、彼にも「横綱を辞めさせた男」としての重荷が一生ついて回る。できることなら、最後にもう一度だけ朝青龍関にチャンスを与えてあげるのが2人にとって一番いい解決策では…。こんな風に考えているのは私だけだろうか。押忍!
■石井和義(いしい・かずよし) 空手団体「正道会館」宗師で、格闘技イベント「K−1」創始者。著書に「空手超バカ一代」(文藝春秋刊)がある。