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ほくそ笑むのはまだ早い 社会部長・近藤豊和

2010.2.5 02:46

 ロシアの劇作家、ゴーゴリの作品に『検察官』がある。

 田舎町を訪れた青年を検察官と思い込んだ市長や官吏らが、日ごろの自身の悪事の露見におびえ、穏便に済ませようと金品を青年に渡し、青年は市長の娘をたらしこんだりする。出版時に印刷工や校正係が笑いで作業が進まなかったという逸話が残るほどの名作だ。

 作品の検察官像や話の設定とは全く異なることは言うまでもないが、民主党の小沢一郎幹事長の資金管理団体「陸山会」の政治資金規正法違反事件をめぐって跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する周辺のさまざまな人々を見るにつけ、『検察官』に描かれた「悪事や醜事が、一種の微分子のように空中に瀰漫(びまん)し、人間生活のいたるところに跳梁して、人生を醜悪、陋劣(ろうれつ)なたえがたいものとしている」(岩波文庫、米川正夫氏の解説から)という様相がだぶってみえてきた。

 最高実力者にこびるように検察との対決を声高にする小沢氏シンパの民主党議員たち。「政治とカネ」では同じ流派なのに、これ見よがしの自民党議員ら。何の怨念(おんねん)なのか、古巣批判を執拗(しつよう)に続ける特捜OB。テレビで「検察リーク」などとしたり顔のコメンテーターたち…。

 事件周辺には「微分子」がまさにハエのようにたかっていた。

 政権奪取を主導した小沢氏を軸とした政治状況の転覆をひそかに狙う民主党内の反小沢派も、政権復帰に悲壮感漂う無力な自民党も「検察の捜査頼み」という体たらくでなんとも情けない。

 検察の捜査について、「対決」とか「全面戦争」などとすぐに主張し始め、政治的な意図を絡めて根拠も十分にないような推論が展開されるような状況を“消費”しているだけでは、「政治とカネ」の根源的問題の解決には決してつながらない。

 「政治とカネ」の問題に、政界の自浄作用を求めるのは不可能なのだろうか。「政治とカネ」にもはや食傷気味の国民ムードもある。経済が悪化し、国力が衰退すれば、「政治とカネ」よりも「明日の生活」という思いが強まるのも理解できる。こうしたムードに乗じてか、「国会での不毛な『政治とカネ』の議論。国民は経済対策を望んでいる」などとテレビで公言する民主党議員すらいる。

 金絡みによる政治権力基盤がなくても、国、国民のために身をささげる有能な政治家がよりよい政策を遂行できるような「理想」を希求し続けることは必要だ。

 こうした理想を失うと、悪徳政治家の思うツボだ。「ワイロ天国」の評判高いどこかの国のようなありさまにもなってしまう。「政治とカネ」の問題に疲れてはいけない。代償はあまりに大きいのだ。

 今回の事件の捜査は、小沢氏の最側近である石川知裕衆院議員、大久保隆規公設第1秘書らが起訴され、一方で小沢氏本人の不起訴ということで、ひとまずの「到達点」を迎えた。

 しかしながら、捜査の過程で表面化した、陸山会による東京都世田谷区の土地取引に絡む不明朗な億単位の金の出し入れや融資については、腑に落ちないことが多すぎる。また、陸山会による大量の不動産取得や政党助成金の移動など総額数十億円にも上る不明朗な金の動きに至っては、「疑惑の山」であり続けている。

 小沢氏の不起訴の観測が一気に拡大した2日夜。小沢氏側関係者たちは早くも「勝利宣言」をあちこちでし始めていた。この日昼、衆院本会議場で鈴木宗男衆院議員とほくそ笑む小沢氏の姿を報道各社のカメラがとらえていた。

 「疑惑の山」への捜査は継続されることだろう。そして、国民の注視もやむことはない。ほくそ笑むのはまだ早い。

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