2010年2月1日 10時25分 更新:2月1日 10時25分
日本の夫婦の3組に1組はセックスレスで、年々増加しているという。最近は結婚前の若い世代でも珍しくないようだ。いったい何が起きているのか。「プライベート」とされる領域だが、あえて原因を探ってみた。【山寺香】
商社に事務職として勤務する女性(31)は、同じ会社の男性(35)と交際6年目になるが、セックスは年に数回程度だ。週末はいつも一緒に過ごし、交際開始直後はたいてい毎週セックスがあったが、半年ほどたつと1カ月、2カ月……と時間があくようになった。
「なぜ?」と男性の浮気も疑ったが、そんな気配はない。理由を聞くに聞けぬまま2年間は不満を感じたが、「こういうペースの人なんだ」と割り切ることにした。今ではストレスを感じることもない。最近は、3連休の時でもなければお互いにそういう気にもならない。
そうはいっても、週末に会えないとさみしいし、外出すると手をつなぐ。寝る時には彼から「おやすみのチュー」を欠かさず、くっついて添い寝する。結婚も考えている。「一緒にいると安心するから、このままでもいい」
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英国のコンドームブランド「デュレックス」が05年に世界41カ国で実施した調査では、年間のセックス回数は平均103回に対し、日本は最下位の45回だった。
厚生労働省と社団法人日本家族計画協会が08年に行った「男女の生活と意識に関する調査」=グラフ・%は小数点以下四捨五入=では、特別な事情がないのに1カ月以上性交がない「セックスレス」の夫婦は36・5%にのぼった。調査は全国の16~49歳の男女3000人が対象で、回答率は54・1%。04年は31・9%、06年は34・6%と年々増加している。
最も多い理由は、男性では「仕事で疲れている」24・6%(女性15・1%)、女性は「出産後何となく」21・0%(男性13・6%)。次いで「面倒くさい」(男性9・3%、女性18・8%)、「セックスより楽しいことがある」(男性2・5%、女性8・6%)の順に続く。
調査にあたった日本家族計画協会常務理事の北村邦夫医師は、データの裏付けはないが日常の診療の中で「若い世代のセックスレスが一段と進んでいるのではないか」と感じるという。理由は三つ。「一つは口説いてからセックスに至るのに必要な高度なコミュニケーションスキルが低下していること。二つ目は、アダルトサイトなどの刺激が強く、それで満足してしまうこと。三つ目は初体験の年齢が上がり、それまでに自分で強く刺激するため実際のセックスでは満足できないんです」
8年前からセックスセラピーを行う横浜心理相談センター。千田恵吾所長によると、相談件数に目立った増減はないが、仲は良いのにセックスできないという相談が3、4年前から増えてきたという。相談の中心は30代。最近はこれまでは少なかった40~50代も増えている。「男性に原因があり、女性が悩んで訪れる場合が多い。多くの場合はセックスレスになって10年以上がたっている」と話す。
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91年に「セックスレス」という言葉を初めて用いた精神科医の阿部輝夫さんは、著書「セックスレスの精神医学」の中で、セックスレスカップルは大きく分けて「したくてもできない群」と「しなくてもいい群」に分けられるとしている。前者は、ED(勃起(ぼっき)障害)や性嫌悪症などがあるケース。一方後者には二つあり、「飽きた」「倦怠(けんたい)期」とあきらめているグループと「二人の合意」でしないグループだ。
男性専門外来「新宿ウエストクリニック」では、EDで受診するのは40、50代の中高年がほとんどだったが、5~7年前から20、30代が増え現在は全体の約3割に上る。室田英明院長は「ほとんどがストレスやプレッシャーによる心理的要因が原因。うまくいかなかった失敗がトラウマとなり、長く引きずるケースが多い」と話す。
男性たちを追いつめるものは何か。東京大学社会科学研究所の玄田有史教授(労働経済学)は、著書「仕事とセックスのあいだ」(共著)でインターネットによる調査結果を分析した。その結果、「仕事上の挫折経験」(失業や左遷など)と「職場の雰囲気」などがセックスレスと関連があることを明らかにし、「セックスレスの問題はすべてが個人の自由な選択の結果だとは言い切れない(中略)職場や仕事のあり方というものが、私たちの根っこの深い部分で、個人の性生活に無意識のうちに大きな影響を及ぼしている」と指摘している。
リストラへの不安、長時間労働などストレスフルな状況も無関係ではなさそうだ。
「生きる意味」などの著書がある東京工業大学の上田紀行准教授(文化人類学)は、「仕事だけでなく恋愛でも、いかに失敗しないか、嫌われないかを気にする人が多い。セックスでも『うまくやらなきゃいけない』『失敗は許されない』と過剰に意識しすぎているのではないか」と分析する。「セックスとは分かち合う行為だが、現代人は他者への緊張感が高まっていて相手を受け入れることが難しくなっている」とも言う。
「しなくてもいい群」は、カウンセリングや診療に訪れず、実態はつかみにくい。
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セックスレスについて、男性の性の歴史に詳しく「平成オトコ塾」の著書のある東京経済大准教授の渋谷知美さん(ジェンダー論)は「何の不思議もないし、問題だとは思わない」と言い切る。「草食男子」が流行語になる時代。高度経済成長期やバブル期に青春時代を過ごした「おじさん」世代と、経済停滞期に育った若者世代には大きな意識の断絶がある。渋谷さんは「『男たるもの、仕事で身を立て妻子を養うべし』という価値観は、男には失敗が許されず、責任も背負えというもの。雇用が不安定な中でこれを若者に押しつけるのは、男は装備なしでエベレストに登れと言うようなもので、過度なプレッシャーとなっている」と、男性の古い意識からの解放を主張する。
「今の若い人は暴力的なものを好まず、過激なアダルトビデオのような行為がセックスなら、そんなの『無理』と感じている人は少なからずいる。もしセックスレスを解消したいなら、もっと平和なセックスを広めるべきでしょう」と提言している。
セックスレスはプライベートな問題ながら、社会の空気を色濃く反映している。
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