「20万社維持は無理」(前原誠司・国土交通大臣インタビュー)
総合評価・経審見直しも


 国土交通省の前原誠司大臣は5日夜に建設専門紙の共同インタビューに応じ、現行の総合評価方式と経営事項審査を抜本的に見直すとぶち上げた。総合評価については技術点の付け方が「ブラックボックス」になっているとし、選定過程の透明化が必要という認識を示した。経審に関してはペーパーカンパニーが高得点となることのないよう、努力している会社が報われる仕組みが必要と話している。また現行の建設業界実質20万社を維持することは無理と断言。転業支援を行う考えを語った。
 
 −来年度予算概算要求で公共事業費14%減が打ち出され、業界に不安が広がっているが。
 前原 まずは今、日本の置かれている現状についてどういう認識を持つのかということが、大前提。私はよく三重苦と言っているのだが、人口減少、少子高齢化、莫大な財政赤字。こうした中、持続可能な社会にするために何をしたら良いのか。政権交代の時にコンクリートから人へ税金の使い道を変えると言った。公共投資を減らして、社会保障や少子化対策、人材育成にお金をかけていくと約束した。その中で私が国土交通大臣に指名され、それをやっていくことになった。今回は14%減だが、これほど下げるかどうかは別にして、公共事業の縮減傾向はこれからも続いていかざるを得ない社会状況だと私は思う。インフラは造ったら維持管理にお金がかかる。道路だって毎年2兆2000億円くらい、維持管理にお金がかかっていることを考えた時に、新たに造るとまたメンテナンスにお金がかかる。日本の置かれた三重苦を考えると公共投資は抑制せざるを得ない。
 −これから建設業界はどうしていくべきか。
 前原 50万社余りといわれているが、そのうち30万社くらいは建設業登録はしているが、実際に仕事はあまりできていない。そうすると20万社がどうなっていくのかということだが、ここはまだまだ縮減していかざるを得ない。今回の緊急雇用対策本部で私が言ったのは、建設業者の転業支援、転職支援をしっかりやっていくということ。農業、林業、観光、介護、福祉などに転業をいかに図るかをこれからバックアップしなくてはならない。ただ世界のマーケットをみれば、建設業界は成長産業。日本の公共投資は、おそらく民主党政権でなくても、減らさざるを得ない状況になっただろう。世界では成長分野だからこそ、国土交通省成長戦略会議で、ゼネコンの国際展開をいかに支援していくかをテーマの一つにした。高速道路、下水道のシステム、新幹線、リニア、こういったものを海外に輸出し、ゼネコンは内弁慶ではなくて外で仕事をしてもらう形にしていく。地域の建設会社と、縮まっていくパイをたたき合って、奪い合うことがないような状況にしていく。公共事業は申し訳ないけど、これからも減る。これは、建設業者が憎くてやるわけではない。三重苦を考えたら、どの政権がやっても必然。その中において転業支援をしていくのと、スーパーゼネコンの国際展開をしっかりやっていく中で、建設業の支援体制はとっていく。
 −海外に出る力のない中堅ゼネコン、中小企業はどうするべきか。
 前原 20万社は無理。生き残りをかけて頑張るか、あるいはほかの業種に転換するか。それをやってもらうしかない。借金をして公共事業だという時代では、まったくない。使うべきところは医療、介護、少子化対策。必要なインフラはやるが、維持管理にお金がかかる。甘いことを言って延命させるよりは、腹を決めて、この業界に生き残ると。本当に生き残るところは、強くなっていく。実質20万社の体制は、これから厳しい。そこで生き残っていくためのノウハウ、人材を確保していくところと、そうではないところは転業、転職、兼業をやるという頭の切り替えが必要。
 −事業量が減ると、少ないパイを取り合うことで、労働者の賃金にしわ寄せがいくことも考えられるが、対策は。
 前原 今の入札制度で考えなくてはいけないところが沢山ある。例えば今考えているのが、総合評価方式って本当に良いのかということ。極めてブラックボックスになっている。果たして点数の付け方が本当に客観的なのか、公正なのか、わからない。結果的に公益法人などが仕事を取っているケースが、かなりある。総合評価方式のあり方の見直しをしていかないといけない。それと経審。点数が高い会社がランクが上で、仕事が取りやすいということで良いのか、根本的に問いかけていかなければいけない。例えばペーパーカンパニー。人は持たない、機材は持たない、リスクは持たないと。当然、経審の点数は高い。経審というものが、果たして公平なのか。努力をしている会社が報われる評価方式にしなければいけない。またいかにダンピングを防止していくかも、考えなければならない。
 −総合評価を否定するということか。
 前原 否定はしないが、いろいろおかしな総合評価が多すぎる。結果的に、天下りを受け入れている公益法人が、民間でもできる仕事を取っている。道路保全技術センターの空洞化調査などはその典型。また、コスト圧縮の努力をもっとしてもらわなければいけない。例えば今、鉄道局に指示し、検証しているのは、整備新幹線。長野から金沢の工事をやっているが、平均落札率98%など。談合体質がまだ残っている。14%減らしたら、14%の公共事業が減るのではない。価格の高いものを圧縮する努力をしたら、事業量は変わらない。そういうところを建設業界にどう考えてもらうか。単価を圧縮する努力をしてもらわないといけない。何だかんだ言って、まだまだ談合の温床は残っているのではないか。公共事業費が高止まりしているのではないか。建設業界もコペルニクス的に発想を変えてもらわないといけない。
 −総合評価の見直しの方向性は、ブラックボックス化しているところをクリアにしていくということか。
 前原 選定過程が不透明になった気がする。私が見てきた公益法人がらみの事例は、いかにも怪しい。天下りがいるところに評価点を高くして、仕事を取らせる道具に総合評価方式を使っている。総合評価をどう検証していくのか、勉強をしている。関係部局にも1カ月以上前に指示を出している。
 −公共工事の品質確保のあり方については。
 前原 最低制限価格を設けることも、ひとつのやり方かもしれない。過度のダンピングを防ぐ。パイが減り、無理矢理に取って、お互い沈んでいくことのないように、例えば一時的な方策として国の行う事業について最低制限価格を設けることなども考えられる。
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この情報は「群馬建設新聞」2009年11月7日付紙面に掲載されました。

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