デスクの電話が鳴りっぱなしなのに、われ関せずで知らん顔――。こんな若手社員が増えている。〈新人が率先して電話に出る〉なんてジョーシキは、いまや通じない。上司はイライラするし、若手にとっても会社にとってもマイナスだ。どうすればいい?
●上司はイライラ、会社も損する
〈電話に出ろ!〉
Aさん(35歳=IT関連)は新入社員を一喝した。これまでもずっと社外からの電話をヘー然と無視してきやがったからだ。
ところが、その新入社員、
〈自分あてにかかってくる電話はほとんどありません。話の分かる人が取った方が、早いんじゃないですか〉
とシラーッ。
〈電話を取るのは新人の役目だろ!〉
〈自分の仕事には関係ないのに、どうしてボクが取らなくちゃいけないんですか?〉
Aさんは開いた口がふさがらなかったそうだ。実はこれ、レアケースじゃない。
gooが調査した「つい注意したくなる新入社員の行動ランキング」では、「無断欠勤する」「休憩時間を平気でオーバーする」に次いで、「電話に出ない・気付かない」が3位にランクインした。電話を取らない若手社員に頭を抱えている上司は多いのだ。
イマドキの若手社員は物心がついたときから携帯電話が当たり前にあった。電話には慣れているはずだが、それは相手が友人知人に限った話。相手の都合や心情を考えなくていい“一方通行”のメールは大好きだが、知らない大人と直接話をするのは“怖い”のだ。
東京女学館大教授の西山昭彦氏(経営学)がこう言う。
「彼らは減点主義が染み付いている世代で、失敗することを極端に怖がります。苦手な電話に出てミスをしたら〈自分のマイナスになる〉〈周囲から下に見られてしまう〉と考え、ハナから電話を取ることを避ける。職場にかかってきた電話を受けても、どう対応していいか分からない。失敗したくないから、見て見ぬフリをするのです」
放っておくと、いつまでたっても新入社員や経験の浅い若手社員は成長しない。上司も部下も、お互いにマイナスだ。
そもそも電話は、言葉遣いや顧客に対する態度など、社会人としてのマナーが鍛えられる。顧客と直接話をすることで、自分の会社がどういった相手とビジネスをしているのか、どんな取引先と関係しているのか、会社の仕組みも覚えることができる。
たかが電話、されど電話。だから電話取りは、新人の仕事なのだ。
それに、問題処理の即応力が鍛えられる。電話を受けて〈会社の代表〉として顧客からの要望やクレームを聞くことで、この内容ならどの部署に取り次げばいいのか、顧客が何を求めているのかを判断して、対応する力がつく。
●ナマー、即応力が鍛えられる
とはいえ、どうすればダメ新人、ダメ若手が積極的に電話に出るようになるのか。
(1)電話に出ることは仕事だと明確に位置づける
サラリーマンは昇給や昇格を目標にして、人事考課制度で動く。〈電話は取っても取らなくてもいい〉という曖昧な状態では、いつまでたっても出るようにはならない。
中には、電話を取ることを〈顧客満足度の向上を積極的に図って、会社に貢献している〉とみなし、人事考課に組み込んでいる会社もある。
「〈電話を取ることは義務である。それをやらなければ評価が下がる〉ことを明確にした上で、定期的に〈今週は何本の電話を取ったか〉〈そこでどんなことを学んだのか〉などを聞くようにすれば、若手社員の意識は変わってきます」(西山氏=前出)
(2)電話は利益の源泉なんだということを理解させる
〈電話をきっかけにして大きな商談がまとまった〉〈電話でクレームを受けて構造的な問題を改善し、会社にとってプラスになった〉――。そういった過去の事例をまとめた文書を配って勉強会を開いたり、先輩社員にレクチャーさせたりして教育する。
「電話を取ることは会社の利益につながるということを理解させれば、〈電話なんて自分の仕事に関係ない〉とは思わなくなります」(西山氏=前出)
そこまでやらなくても……なんてナメてかかっていると、上司がシッペ返しを食らう。若手を鍛えるには、まず電話からだ。
●ちなみに
総務省が実施した固定電話に関する調査によると、NTTの加入電話の契約数は09年9月末時点で3977万件。93年の調査開始以来、初めて4000万件を割り、ピーク時から4割も減少した。何でもケータイで、固定電話が苦手な若者がますます増えそうだ。
(日刊ゲンダイ2010年2月1日掲載)