2006年03月08日

預金準備率は死語

堀内昭義先生が書かれた「金融論」のなかで{東京大学出版会 90.4 初版 }最近なくなられたジェームス・トービンの言葉を引用しておられる。
----- 経済学の初歩を教える教師にとって最大の勝利感を味わえるのは、おそらく銀行信用と銀行預金の乗数的創造を説明するときであろう。新入生の憧憬にみちたまなざしを前にして、教師は「預金者たちが託した資金のみを貸し出している」と確信している銀行の実務家の議論をこきおろすのである。------
 これが、いまの日本では教科書どおり動かなくなってしまった。
教科書ではこうだ。
(本源的預金)銀行が資金を貸出す原資は預金である。いま業界全体に100億円の家計からの預金残高があるとする。銀行全体が貸出せる限度額は100億円ではなく、その何倍かである。なぜか。
(準備預金)業界の全預金者は100億円を1度に引出しにはこない。だから銀行は,本源的預金100億円の一部だけ、たとえば10%の10億円だけ支払準備として用意しておいて、あとの90億円は貸出しにまわすことができる。
(預金の創出)銀行から借入れた資金90億円が借手の当座預金口座に振りこまれる。新規の90億円の貸出しによって、90億円の預金が創出された。
(派生預金)90億円の預金も銀行は10%の支払い準備をのこして、81億円をだれかに貸付ける。あらたに81億円の支払いから瞬間的には81億円の預金がうまれる。
(乗数効果)このような連鎖が無限につづく。その結果、業界全体とすれば、最初の預金100億円の何倍かの金額を貸出すことができる。その金額が預金の増額になる。その大きさは支払準備率できまる。この場合は10%の支払い準備率だから、最初の100億円の預金が、究極的には900億円の預金を創出する。
現実には、日銀が各銀行の支払準備額をこまかく決め(91.10.16の決定が最新)、日銀にある数百社の銀行の当座預金口座にそれを積みたてさせる。預金残高によって金額が変動するが、この数ヶ月の必要積立額は平残で4兆円―4,5兆円である。一方、これら銀行は約1100兆円強の預金をもっている。預金準備率はいつも極めて低い。

金融論の教科書には、日銀の金融調節の手段としては、(1)公定歩合の上げ下げ (2)債券・手形オペレーション (3)預金準備率操作などが記述されている。いまは公定歩合は下限にはりつき、オぺはもっぱら国債が対象になり、準備率は91年に変更したままだ。
あらためて、この2−3年は伝統的な金融調節手段をつかいはたし、日銀が新たな手段を模索してきたことに思いがいたる。
最近では、銀行は以下のように、法定準備額を大幅に上回る準備預金を日銀に置いている。日銀が金融緩和策として、銀行から国債を買いあげて資金を大幅に供給しているからだ。(日銀当座預金と準備預金の差額は証券、短資、証券金融会社の分)


(月末残 兆円) 01.12 02.1 2 3 4 5
日銀券発行高 69.0 63.9 64.9 67.8 69.1 66.7
貨幣流通高 4.2 4.2 4.2 4.2 4.2 4.2
日銀当座預金 15.6 14.9 14.6 27.6 18.9 14.9
うち準備預金 11.7 12.7 13.2 26.6 17.6 13.9


銀行が日銀当座預金に置けば利子はつかない、本来は4兆円強あればよいのに、銀行は余分な当座預金を日銀に積んでいる。法定預金準備率が、日銀対銀行の関係では無意味になっている現状、それがまだ長くつづいている。
( このつづきは、すぐに書くつもりだったが、次は号外トピックスになってしまった。)