2010年02月01日
アメリカの保険制度改革についてのおさらい(その2)
さて、アメリカは人口約3億人ほどいるわけだが、その15%強、およそ4600万人は無保険状態にある。結構な数だよね。で、Obamaさんはこりゃなんとかしなきゃいかん、国民皆保険にしようと理想に燃えた。ま、この話ヒラリー国防長官が夫の政権のときにやはり打ち上げた話だが、あのときも強烈な抵抗にあってあえなく挫折した。
アメリカには日本の国民保険制度みたいなものがないので基本民間保険なわけだけど、高齢者向けの連邦政府レベルで運営されている「メディケア」と呼ばれる制度と、貧乏人向けの州政府レベルで運営されている「メディケイド」というふたつの公的な仕組みがあるにはある。この貧乏はかなり厳しく貧乏でなければ(苦笑)適用されない。
概要はhttp://www001.upp.so-net.ne.jp/pharmaceutical/iryouhokenn1.htm などで紹介されているし、他にもメディケアについての説明(http://www.kenkouhokenusa.com/medicare.html)、メディケイドの説明(http://www.nyhealth.gov/health_care/medicaid/index.htm#definition)を見ることができる。
で、さっきの4600万人はこのどっちからもこぼれてるわけ。日本でも中途半端に収入があると、かえって生活保護受けたほうが実入りがよかったりするようなものなのかもしれないね。しかもメディケアではほとんどの薬代はカバーされていない。
で肝煎りの保険改革でこの4600万人にも保険をと言ってはみたものの、ふたをあけると高齢者向けのメディケアの利益を削ったり負担を増額したりして費用の捻出に充てようとしてることが分かって、全米退職者協会(AARP:American Association of Retired People)などの有力集票マシーンから総スカンを食らったわけ(^^;。まあ世代間闘争的な側面があるのかもしれないが、連邦政府レベルでいじれるのがここだけだったというのが単純な真相ではないかとおもう。
4600万人に何らかの保険を与えるというのは最貧層に対するBasic Incomeの賦与とは性格を異にするが、一種の所得の再分配であることには変わりがない。税金の再配分となると当然その無駄を省かないとTaxpayerが納得しないのはどの国も同じ。
アメリカの場合は、同じようなサービスの医療に対して2倍くらいのコストがかかっているとのこと。日本、フランス、イギリスは言うに及ばず、あの非効率の塊のイタリアみたいな国よりも一人当たりに使ってる費用が高いんだぜ、とはアメリカ人のMedical Doctor資格をもつヘッジファンドの連中の話。なぜこれだけかかるかには大きく言って二つの要因が関わっている。
一つ目は終末医療(end life therapy)に対する費用便益分析の話。アメリカの医療は進んでいると一般的に言われているし、事実そうなのだとおもう。そこでは先端的な治療がさまざま用意されたいるわけだが、たとえばあと半年の延命をするために仮に数千万円かかるとしよう。通常想定される日本のようなケースでは保険が適用されず費用対効果の薄い治療については本人ないし家族から購えないという抑制効果が働く(今、このことへの倫理的問題などは一切おいておく)が、アメリカの制度にはそれを止めるメカニズムが存在しない。少なくともあらたに4600万人に賦与されようとしている便益にはこうした治療便益がそのまま温存されているようだ。つまりそうした費用対効果を無視して短期間莫大な資金を投じて「生かす」医療システムがそのまま4600万人に与えられてしまってはその負担は莫大なものになるし、実際アメリカでかかってる終末医療のコストはとんでもないらしいんだけど、同時にこれはなかなか難しい問題を含んでいる。人道主義者の観点からは人間は誰だって死にたくない、少しでも長生きしたい、そうして実際に生きられる手段があるのに金銭的理由で個人の生存への希望を打ち砕いてよいのかという倫理的問題がある。しかしこれを社会厚生のレベルで考えてみると、社会全体の終末医療患者の平均余命をたった数カ月寿命を延ばすためだけに、莫大なコストをかけてしまうことになり、それよりも有効な使い道は他にあるという議論を反対陣営が張るのには説得力がそれなりにあるなあと筆者はおもってしまう。個人の一人ひとりのレベルでいえばよさそうな話なのだが、経済学的にいえば限界効用の低い所に巨大な資本が投下されていることになり、社会的にはパレート最適ではないという話。
二つ目の論点はアメリカの訴訟社会性にかかわった話で、患者から訴えられないためには、まずありえないだろうというような検査もとりあえずやっておこうという誘因がドクターの間には働いているということ。一方保険の消費者である患者からはいったん保険料払ったらあとは保険が面倒みてくれるから、どんな検査でもとりあえず受けてもダウンサイドは無いということになる。
たとえば昨日階段から落ちた時に膝を打って痛いのだといって患者が病院に来たら、日本ならそんなの湿布薬でも渡すか、せいぜいレントゲンを撮って骨が折れてないか確認するとかそんなものだとおもう。ところがアメリカでは、でもひょっとしたら、癌が関節にできてるのかもしれないから「念のため」精密なCTスキャンをとるというような方向に話が流れがちだとのこと。なぜならそれらはどうせ保険会社がカバーしてくれるから(もちろんそれに見合う保険プレミアムを払ってるわけだけどね)。そういう1/1000、1/10000を見つけるために余計な費用が1000倍〜10000倍かけられ、さらにそれでたまたまほんとに癌が見つかってしまったら、その治療にさらに1000倍のコストがかかる。こういう費用を現在は民間保険が賄っているわけだけど、今回の「改革」はそういう民間保険のベネフィット(の一部)をなんと4600万人に分け与えようという話で、費用の増殖に対し歯止めがかかるメカニズムがないわけ。これは社会厚生的に「正しい」費用の使われ方なのか、そもそも制度に潜む無駄をなにも改善しないでそれをなぜオレが負担しなきゃならんの?という反対陣営の大反撃キャンペーンにあっているというのが現状だろう。
かくして大激論が巻き起こりマサチューセッツ州の上院補選では想定外の共和党候補勝利となったわけだ。アメリカ人に聞くと、health care reform is deadという声が多いけど、Obama大統領はしつこく一般教書演説でなんかしたいと言ってたね。まあ見た目やったことにできる落とし所を探って実際にはほとんど何も変わらないというまさに「政治的」解決になるだろうというのが、どうも素早いプロ投資家連中の見立てのようだ。
というわけで、こうした改革案をみこんでヘロヘロになってたこのセクターの株価は盛り返すチャンスが結構あるんだろうね。ただしヘルスケア関連にはいろいろな分野もあるし、製薬会社のようにこれから続々と主要薬の特許が切れて(業界用語ではpatent cliffと呼ばれている)ただキャッシュだけ持ってるのろまな会社になってしまう運命の大手企業も結構あるから、見極めはなんでもそうだけど大事だね。(以上このメモ書き了)
アメリカには日本の国民保険制度みたいなものがないので基本民間保険なわけだけど、高齢者向けの連邦政府レベルで運営されている「メディケア」と呼ばれる制度と、貧乏人向けの州政府レベルで運営されている「メディケイド」というふたつの公的な仕組みがあるにはある。この貧乏はかなり厳しく貧乏でなければ(苦笑)適用されない。
概要はhttp://www001.upp.so-net.ne.jp/pharmaceutical/iryouhokenn1.htm などで紹介されているし、他にもメディケアについての説明(http://www.kenkouhokenusa.com/medicare.html)、メディケイドの説明(http://www.nyhealth.gov/health_care/medicaid/index.htm#definition)を見ることができる。
で、さっきの4600万人はこのどっちからもこぼれてるわけ。日本でも中途半端に収入があると、かえって生活保護受けたほうが実入りがよかったりするようなものなのかもしれないね。しかもメディケアではほとんどの薬代はカバーされていない。
で肝煎りの保険改革でこの4600万人にも保険をと言ってはみたものの、ふたをあけると高齢者向けのメディケアの利益を削ったり負担を増額したりして費用の捻出に充てようとしてることが分かって、全米退職者協会(AARP:American Association of Retired People)などの有力集票マシーンから総スカンを食らったわけ(^^;。まあ世代間闘争的な側面があるのかもしれないが、連邦政府レベルでいじれるのがここだけだったというのが単純な真相ではないかとおもう。
4600万人に何らかの保険を与えるというのは最貧層に対するBasic Incomeの賦与とは性格を異にするが、一種の所得の再分配であることには変わりがない。税金の再配分となると当然その無駄を省かないとTaxpayerが納得しないのはどの国も同じ。
アメリカの場合は、同じようなサービスの医療に対して2倍くらいのコストがかかっているとのこと。日本、フランス、イギリスは言うに及ばず、あの非効率の塊のイタリアみたいな国よりも一人当たりに使ってる費用が高いんだぜ、とはアメリカ人のMedical Doctor資格をもつヘッジファンドの連中の話。なぜこれだけかかるかには大きく言って二つの要因が関わっている。
一つ目は終末医療(end life therapy)に対する費用便益分析の話。アメリカの医療は進んでいると一般的に言われているし、事実そうなのだとおもう。そこでは先端的な治療がさまざま用意されたいるわけだが、たとえばあと半年の延命をするために仮に数千万円かかるとしよう。通常想定される日本のようなケースでは保険が適用されず費用対効果の薄い治療については本人ないし家族から購えないという抑制効果が働く(今、このことへの倫理的問題などは一切おいておく)が、アメリカの制度にはそれを止めるメカニズムが存在しない。少なくともあらたに4600万人に賦与されようとしている便益にはこうした治療便益がそのまま温存されているようだ。つまりそうした費用対効果を無視して短期間莫大な資金を投じて「生かす」医療システムがそのまま4600万人に与えられてしまってはその負担は莫大なものになるし、実際アメリカでかかってる終末医療のコストはとんでもないらしいんだけど、同時にこれはなかなか難しい問題を含んでいる。人道主義者の観点からは人間は誰だって死にたくない、少しでも長生きしたい、そうして実際に生きられる手段があるのに金銭的理由で個人の生存への希望を打ち砕いてよいのかという倫理的問題がある。しかしこれを社会厚生のレベルで考えてみると、社会全体の終末医療患者の平均余命をたった数カ月寿命を延ばすためだけに、莫大なコストをかけてしまうことになり、それよりも有効な使い道は他にあるという議論を反対陣営が張るのには説得力がそれなりにあるなあと筆者はおもってしまう。個人の一人ひとりのレベルでいえばよさそうな話なのだが、経済学的にいえば限界効用の低い所に巨大な資本が投下されていることになり、社会的にはパレート最適ではないという話。
二つ目の論点はアメリカの訴訟社会性にかかわった話で、患者から訴えられないためには、まずありえないだろうというような検査もとりあえずやっておこうという誘因がドクターの間には働いているということ。一方保険の消費者である患者からはいったん保険料払ったらあとは保険が面倒みてくれるから、どんな検査でもとりあえず受けてもダウンサイドは無いということになる。
たとえば昨日階段から落ちた時に膝を打って痛いのだといって患者が病院に来たら、日本ならそんなの湿布薬でも渡すか、せいぜいレントゲンを撮って骨が折れてないか確認するとかそんなものだとおもう。ところがアメリカでは、でもひょっとしたら、癌が関節にできてるのかもしれないから「念のため」精密なCTスキャンをとるというような方向に話が流れがちだとのこと。なぜならそれらはどうせ保険会社がカバーしてくれるから(もちろんそれに見合う保険プレミアムを払ってるわけだけどね)。そういう1/1000、1/10000を見つけるために余計な費用が1000倍〜10000倍かけられ、さらにそれでたまたまほんとに癌が見つかってしまったら、その治療にさらに1000倍のコストがかかる。こういう費用を現在は民間保険が賄っているわけだけど、今回の「改革」はそういう民間保険のベネフィット(の一部)をなんと4600万人に分け与えようという話で、費用の増殖に対し歯止めがかかるメカニズムがないわけ。これは社会厚生的に「正しい」費用の使われ方なのか、そもそも制度に潜む無駄をなにも改善しないでそれをなぜオレが負担しなきゃならんの?という反対陣営の大反撃キャンペーンにあっているというのが現状だろう。
かくして大激論が巻き起こりマサチューセッツ州の上院補選では想定外の共和党候補勝利となったわけだ。アメリカ人に聞くと、health care reform is deadという声が多いけど、Obama大統領はしつこく一般教書演説でなんかしたいと言ってたね。まあ見た目やったことにできる落とし所を探って実際にはほとんど何も変わらないというまさに「政治的」解決になるだろうというのが、どうも素早いプロ投資家連中の見立てのようだ。
というわけで、こうした改革案をみこんでヘロヘロになってたこのセクターの株価は盛り返すチャンスが結構あるんだろうね。ただしヘルスケア関連にはいろいろな分野もあるし、製薬会社のようにこれから続々と主要薬の特許が切れて(業界用語ではpatent cliffと呼ばれている)ただキャッシュだけ持ってるのろまな会社になってしまう運命の大手企業も結構あるから、見極めはなんでもそうだけど大事だね。(以上このメモ書き了)
アメリカの保険制度改革についてのおさらい(その1)
久方ぶりの更新。アメリカにいたんだけど、結構寒かったすねえ(^^;。
ちょうどマサチューセッツ州の選挙で民主党が負けたんで結構話題になってた時期だったんだけど、その大きな原因と言われていたのがオバマ政権のHealth Care Reformだったわけ。日本の民主党の子供手当じゃないけど肝いり政策の一つだったから、それが理由で民主党の牙城(なんせ故ケネディ上院議員がすーーっと守ってた議席だった)が崩れたのはオバマ政権にとっては大誤算。っていうか負けるまでマサチューセッツの選挙なんて誰も気にしてなかったんだよね。
ところが意外にも同州で負けてしまった為に、マスコミの餌食となって大騒ぎになりそうだった。ところがさすがポピュリズム戦術には長けているオバマさん、この危機をうまく情報操作した。どうやったかって?それが銀行けしからん法案(予定(笑))、通称Volker Ruleというやつの打ち上げだ。金融機関は政府から莫大な資金援助もらって業績急回復するといきなりボーナス払うなんて言い出すし、けしからん、銀行の自己勘定取引やヘッジファンド投資など全部やめさせてしまおう!、ロビイストが寄ってきても私は決して屈しないぞ(State of the Union:一般教書演説で実際こういう言い回しを使ってしゃべってたよね)とぶち上げたわけ。
筆者がどうして法案を提出した(あるいは提出予定)といわずに「打ち上げた」と言ったかというと、そう言わざるを得ないほどになにも決まってないから。ほんとに、ヘルスケア・リフォームの汚点を覆い隠すためだけにとりあえずボルカーお爺さん(まあ80年代の二桁インフレを退治した名議長ではありますが)の持論に乗っただけなわけ。まあこの規制強化の動きについては別稿で(ホンマかいな(^^;)論ずるとして(→結論だけ言っとくと筆者は中間選挙のある11月までになんらかの銀行規制はなされると思う。理由は簡単、一般教書演説で最優先事項とぶち上げた失業率は多分改善してないからなんらかのめくらましは選挙に勝つために絶対必要だから)、前置きが長くなったけどアメリカの保険制度改革の何が問題なのかについてあんまりちゃんとは論じられていないと思うので、筆者のような一般市場参加者の基礎知識レベルの話としてちょっと備忘のためにもまとめておこう(続)。
ちょうどマサチューセッツ州の選挙で民主党が負けたんで結構話題になってた時期だったんだけど、その大きな原因と言われていたのがオバマ政権のHealth Care Reformだったわけ。日本の民主党の子供手当じゃないけど肝いり政策の一つだったから、それが理由で民主党の牙城(なんせ故ケネディ上院議員がすーーっと守ってた議席だった)が崩れたのはオバマ政権にとっては大誤算。っていうか負けるまでマサチューセッツの選挙なんて誰も気にしてなかったんだよね。
ところが意外にも同州で負けてしまった為に、マスコミの餌食となって大騒ぎになりそうだった。ところがさすがポピュリズム戦術には長けているオバマさん、この危機をうまく情報操作した。どうやったかって?それが銀行けしからん法案(予定(笑))、通称Volker Ruleというやつの打ち上げだ。金融機関は政府から莫大な資金援助もらって業績急回復するといきなりボーナス払うなんて言い出すし、けしからん、銀行の自己勘定取引やヘッジファンド投資など全部やめさせてしまおう!、ロビイストが寄ってきても私は決して屈しないぞ(State of the Union:一般教書演説で実際こういう言い回しを使ってしゃべってたよね)とぶち上げたわけ。
筆者がどうして法案を提出した(あるいは提出予定)といわずに「打ち上げた」と言ったかというと、そう言わざるを得ないほどになにも決まってないから。ほんとに、ヘルスケア・リフォームの汚点を覆い隠すためだけにとりあえずボルカーお爺さん(まあ80年代の二桁インフレを退治した名議長ではありますが)の持論に乗っただけなわけ。まあこの規制強化の動きについては別稿で(ホンマかいな(^^;)論ずるとして(→結論だけ言っとくと筆者は中間選挙のある11月までになんらかの銀行規制はなされると思う。理由は簡単、一般教書演説で最優先事項とぶち上げた失業率は多分改善してないからなんらかのめくらましは選挙に勝つために絶対必要だから)、前置きが長くなったけどアメリカの保険制度改革の何が問題なのかについてあんまりちゃんとは論じられていないと思うので、筆者のような一般市場参加者の基礎知識レベルの話としてちょっと備忘のためにもまとめておこう(続)。
2010年01月13日
新春お笑い(hitler's investments 日本・中国編)
Googleの中国に対する対応のこととか、投資環境とかいろいろ書きたいことはあれど、ちょっとまだ気力が出ないので、まあ笑いましょうということで。吹き替え早いので(アローヘッドよりは遅い)、途中で止めてみてください。友人に教えてもらったんだけどよく出来てるねぇ。。
2008年9月15日、リーマン崩壊のときに投稿されてる↓が元ネタだろうけど、こちらもなかなか笑えます(hitler gets margin call)。