“Our Body”、一般公開停止

 2009-05-02
先日触れた“Our Body”ですが、4月21日、裁判の結果により一般公開が中止されることになりました。

原告はEnsemble contre la peine de mort(死刑反対グループ)とSolidarite Chine(中国への連帯)という二つの団体。特に、「展示されている人体がどこからどういう経緯でエキシビションに到ったのか」という点が不明であり、遺体が不当に取引された疑いがあることを、原告側は強調していました。

これに対し、エキシビションの主催者は、香港の研究機関から送られたと主張していますが、生前の同意のもとに身体が研究にまわされたという証明書を提示できませんでした。

判決は、一言でいえば、「人間の尊厳を冒涜する」という理由でエキシビションの中止を求めたもの。「遺体は本来埋葬されるべきものであり、その正当な場所は墓地である」とし、また、人体の展示の仕方が学究的側面に適っていないと判断しています。そして、主催者がこの判決に従ってエキシビションを中止しない場合、一日につき2万ユーロの罰金が課せられることになっています。

主催者側はエキシビションの学究的な面を主張、控訴しましたが、4月30日、控訴院(高等裁判所に相当)が一審と同様の判断を下しました。他国でもこうしたエキシビションは公開されており、多数の人々が訪れて成功を博しているなか、「公開を禁止した国は他にない」として、上告する構え。

なお、原告側は、判決に原告側の主張がほぼそのまま取り入れられており、満足の意を示しています。原告側弁護士は、「エキシビションが人体取引を隠しているという疑いをますます強く感じています。非常に疑わしい点が多くある。私たちが調べたところ、複数の医者の意見では、人体は死後すぐに加工されたものであるにちがいなく、その死は前もって予定されていたものではないか、ということです。自然死による人体はあのように加工できないのです」と述べています。

さて、この件に関して、インターネット上で様々な意見が交わされているのを読みましたが、エキシビション公開に賛同する人はたいてい「普通は見られない人体の内部が見られて素晴らしい」「解剖学のどんな学術書や見本でも、ここまでリアルなものはない」「他の国でも公開されているのに、禁止されるなんてフランスだけ」としています。反対する人の意見としては、「いくら科学のために身体を提供すると同意していたとしても、見世物にするのは違う」「解剖学は好きだけれど、スポーツやチェスをする姿勢をとらせた展示の仕方に疑問を感じる」など。

私はというと、このエキシビションをおぞましいものと感じるし、閉鎖してもらいたいと思っていたので、裁判の結果にほっとしています。
web版ル・モンドが掲載した読者の意見の中に、「このエキシビションを見たが、とても素晴らしかった」というものがいくつかありましたが、実際はドイツ、アメリカで見たという人たちなので、全く同じものではなかったかもしれません。(私はそれでもやっぱり、本物の人体を正体不明の完全に無名な一つの見本として切り刻んで一般公開するということに、やはり嫌悪感を感じますが・・・。)「医学や科学に関わる人だけの特権だったけれど、こうして一般人も実物がみられる」という学究的な面での賛同については、「それなら今まで解剖学に興味があって人体模型を見に行ったり本を開いたりしたことがあるのか?」と問いかける人がいました。たしかに、「本物の人体の内部を見たい」という人の多くには、「人体の構造を知りたい」という学究的興味よりも単なる「怖いもの見たさ」という野次馬的興味が勝っているような気がします。また、「他の国ではこうしたエキシビションが許可されているのに、どうしてフランスだけダメなのか」という意見に対しては、極端に言えば「他の国では死刑の執行が許可されているのに、どうしてフランスだけダメなのか」というのと同じようなもので、全くナイーヴで(ネガティブな意味で)無意味な反論だと思います。それに、フランス「だけ」ではなく、アメリカのいくつかの州でも禁止されているはず。

どんな死体にもアイデンティティがあり、展示されているのは「死(la mort)」ではなく、「個々の死(une mort、des morts)」だと思います。ひとつの死体を見て、同類・同胞(semblable)に対する同情を抱く人がひとりもいなくなったらその社会は終わりじゃないか、と思います。(ルソーみたいかな。)

参照:
「L'exposition de cadavres « Our Body » interdite en appel」(Rue89)
「La justice interdit l'exposition anatomique "Our Body"」(Nouvel Obs.com)
コメント
日本でも、人体の不思議展という名称で、数年前から、日本各地を巡回していますよね。今は、沖縄で開催されているようなので、フランスでのOur Body展とは、主催元は別なのでしょうか?私の妹が以前、日本で人体の不思議展を見て勉強になった、と言ってたので、今回私はOur Body展を見に行こうかと思い、HPを見たのですが、確かに「怖いもの見たさ」を煽るようなVIDEOや、展示会場は薄暗い照明で、お化け屋敷の様な雰囲気でした。それに比べて人体の不思議展のHPは、身体のしくみを標本で観察・実際に触る事のできる学習の場、といった雰囲気でした。(もし、よろしければHP見てみて下さい)私は、身体のしくみをリアルに見る事で、自分自身の健康を考える良い機会であり、知的好奇心から見に行きたいと思っていたので、今回の中止はとても残念です。ただ、フランスでのOur Body展のアプローチ方法に問題があった様な気もします。(HPだけだと、実際気味が悪いので…) 機会があれば、日本で人体の不思議展を見に行きたいと思います。
【2009/05/02 22:27】 | BIRD #BHmlvJ7I | [edit]
「人体の不思議展」のHP、見ました。「生前の意志により献体されています」と断られると、「ああそうなのか」と納得できる雰囲気(つまり多少学究的な)がありますね。アメリカで同様の展覧会を見たという人も、病気の臓器などが展示されていて、自分の健康のことを考えたと言っていました。たしかに、臓器だけだと、献体されたってことで納得できなくもないのですが、頭(顔)つきの人体はやっぱりどうかな・・・と思ってしまいます。(じゃあ人間のアイデンティティって顔なわけ?という話になってしまいそうですが・・・その辺は私にはちょっと議論できません。)そして本物の人体の内部や脳みそに触れるっていうのにも、私はやはり疑問を感じてしまいます。
この間、前を通って気づいたのですが、Our Bodyが開催されていたEspace Madeleineというところは、以前Go Sportのあったところで、Go Sportの前はHabitatでした。(噂では、今秋、ユニクロになるということでしたが。)つまり、もともと展覧会や催事をやるためのスペースではなく、ずっと商店だったところなので、私には余計に変な感じがします。受け入れてくれる正当な場所(博物館など)を全く見つけられなかったということは、やはりBIRDさんが仰るように、アプローチ方法にも問題があったのではと思います。
【2009/05/09 11:19】 | shiba #h/1ZVhMA | [edit]
沖縄の「死体展」の情報をお知らせいたします。
★フランスの裁判所は人体標本の展示に「中止命令」を出しました
http://friends.excite.co.jp/News/odd/E1240385181269.html
★ <Red Fox>サイト
「献体同意書は盗用偽装」・「人体展禁止法案が可決」・「ビデオ:米国ABC20/20」
特集『人体展と中国の人体闇市場』
http://redfox2667.blog111.fc2.com/blog-entry-100.html
★「献体」は大学教育での「正常解剖」だけで「営業展示」は許可されていません。
「日本篤志献体協会」、「献体に関する法律」
http://www.kentai.or.jp/what/01whatskentai.html
★「沖縄展」では「法律違反」の可能性があり全ての団体が「後援を取り消し」ました。
http://www.com-net.city.naha.okinawa.jp/weldat_i/log/tree_311.htm
★「川崎展開催中止」を求める「保団連」声明
http://hodanren.doc-net.or.jp/news/teigen/081016jintai.html
【2009/05/16 09:04】 | 人体 #mKbor7qk | [edit]
>人体さん
色々とリンクをありがとうございました。
勉強になりました。
【2009/05/18 13:26】 | shiba #h/1ZVhMA | [edit]












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【2009/08/14 20:07】
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