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去る2月1日まで、東京国際フォーラムで「人体の不思議展」というイベントが開催されていたのを、ご存知の方は多いであろう。その広報サイトによれば、プラストミックという技術で、人体の水分と脂肪をプラスチックに置き換え、実物と同じ重量と感触を維持しつつ、長期の保存と展示を可能にした死体標本が167点も展示してあるという触れ込みである。
ところがこのイベントの主催団体が今ひとつはっきりしない。「人体の不思議展実行委員会」というのでは何のことかわからないし、併記してある「日本アナトミー研究所」なるものにいたれば、ウェブ上にはこのイベント関連でしか出てこない。監修委員会なるものには、かの「バカの壁」で知られる養老孟司氏をはじめ、有名どころの医学者が、一杯名前を並べているんだけれど。
この国際フォーラムの広報サイトとは別に、もうちょっとショボいつくりの「人体の不思議展」広報サイトが存在し、そちらには今後の予定が書かれている。4月から6月まで札幌に移動し、その後も静岡、沖縄、京都を巡り、その後はオーストラリアに向かうらしい。こちらのサイトはOCNのユーザーサイトにあるという安上がりなつくりだが、まったく自分たちの正体を明かしていない。「日本アナトミー研究所」というような名告りすら上げていないのだ。連絡もただフォームメールがおかれてあるのみ。先の国際フォーラムのサイトURLをwhoisしてみると、どうもチケット販売会社が開設したようで、主催団体とは別らしい。
このイベントを訪問した人が結構自分のサイトに感想を書いていて、それらを総合すると、多少エグめの狙いと学術的な意図がたくみに交じり合った展示がされているらしい。その中に、死体はすべて中国で調達されたものだという記述があって、私のあやふやな記憶の何かにひっかかるものを感じたのである。
そこで早速検索。それはかなり以前からBBCなどで報じられていた、ドイツの解剖学者ギュンター・フォン・ハーゲン博士が主催する「解剖死体ショー」であった。BBCがこれについて初めて報じたのは2001年の2月である。その記事は、フォン・ハーゲン博士がベルリンで開催した、「人体の世界」という展覧会が、猟奇的で堕落したものだと批判されているというもの。
博士はBBCの取材に答え、「プラスチネーション」という技術(プラストミックとは微妙にネーミングが違う)を使って生々しい展示を可能にしたこと、人体への学術的興味だけでなく、その美しさにも触れてもらう目的があるのだと述べている。その後、BBCの記事を追っていくだけでも、この展示会はさまざまな形で批判や疑惑を呼んでいることがわかる。
例えばロシアにおける遺体盗難事件の黒幕ではないかとか、中国で処刑された死刑囚の死体を使っているといった疑惑である。実際、博士はその死体処理工房を3年前から大連に移していて、献体もほとんど中国の人々から得ていることを認めている。死刑囚を使っているという非難に関しては、一応否定しながらも、すべてを完全にチェックしきれるわけではないと、含みを持たせる返答をしている。(こちらとこちら、そしてちょっと変わった演出を紹介しているこちらを参照のこと。大連の死体処理工房に関してはこちら。この博士、どうも帽子がトレードマークらしい。解剖中にかぶってるぐらいで)
BBCの記事の写真やビデオを見る限り、国際フォーラムで展示された死体標本群は、まさしくフォン・ハーゲン博士の「工房」で処理されたものにほかならぬと私には見える。彼のオリジナルな標本はかなりお茶目な演出がしてあって、例えば脳みそむき出しの死体がチェス盤に向き合っていたり、ナポレオンみたいに、いななく馬にまたがらせてみたりといった感じなのだが、日本での展示標本はかなりおとなしくなっているように思える。でも、この標本なんか、どうみてもこちらからチェス盤を取り除いただけなのと違うかねぇ。位置が違うからなんともいえないが。
はっきり言って、かなり怪しいビジネスが大展開されており、この博士一人で切り盛りできるはずもなく、大連の死体工房を維持するだけでもかなりの実働部隊がいるわけで、もしかしたら非合法死体調達組織までそろっている可能性まである。その背景が何であれ、人の興味を満足させる行為というものは、学術とある意味での芸術に寄与するかも知れないのだけれど、何の問題点も報じられずに、純粋な学術団体によるイベントであるかのように装われ、実際に巻き起こっている批判をほっかむりしているのは、かなり問題ではないかと思う。
日本でイベントをやっている団体と、フォン・ハーゲン博士の事業団体が同じものである確証などないのだが、その類似性というか、同一性は誰にも否定できないと思う。報道機関というのは、こういうことを検証して、評価も批判も公平に紹介していくのが仕事ではないかと思うのだが、如何なものだろう。
投稿者 webmaster : 2004年2月 6日 22:28
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» むー from DogWay
人体の不思議展
あと、コチラも
ソウダッタノカー…
なんで東洋系ばかりなんだろうなぁ?と
思ってました
ううむ…試みとしては
まちがってない... [続きを読む]
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