現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

裁判員制度―半年の経験生かし前へ

 裁判員裁判。日本の司法制度を根本から変えた制度が公判の場で動き出してから、早くも半年になる。

 昨年8月以来、約200件の判決に、1千人を超す「ふつうの人々」が国民の代表としてかかわった。

 そもそも人を裁く資格があるのか。証言や証拠を正しく判断できているのだろうか。多くの人が苦しみ、悩みつつ審理に加わり、仕事をした。民主主義を支える人々の意識は捨てたものではない。

 2年目に入った今年は、対象事件の数が昨年並みなら、全国で1万人ほどが裁判員を務めることになりそうだ。

 これまでは、被告が起訴内容を争わず、裁判員は量刑を考えるだけの裁判がほとんどだった。今後は被告が無罪を主張して争うものや、死刑適用の是非が問われる事件が登場する。

 ネットで知り合った男性を女性が練炭自殺に見せかけて殺したとして逮捕された埼玉県の事件も、殺人罪で起訴されれば裁判員裁判の対象になる。

 プロの裁判官も誤りを犯す。再審裁判が始まっている足利事件は一例だ。市民の常識や生活感覚を刑事裁判に取り入れる意義は、何よりそのまっさらな目で誤審、冤罪を防ぐことにある。

 これからは裁判員に難しい判断が迫られる。その意味では制度の定着も今年が本番と言えるだろう。

 裁判所が裁判員経験者にアンケートしたところ「審理や評議の時間が足りなかった」との感想が寄せられた。

 証拠調べに長期間を費やすのをやめ、裁判員裁判は連日開く集中審理方式をとった。仕事や生活を置いて来る裁判員の負担を軽くするためだ。だが「審理が足りない」と指摘されれば、日程を延ばすことがあっていい。

 公判前整理手続きでは、迅速な審理をめざすあまり争点や証拠調べを絞りすぎないようにしたい。そのためには手続きを公開し、外部からチェックできるようにする方がいい。

 まだ多くの裁判員裁判が始まらずにいるため、最高検は全国の検察に早く弁護側に証拠を開示せよと指示した。大事なことは検察に不利でもすべての証拠を提出することだ。

 弁護人には、被告が容疑者として逮捕、勾留(こうりゅう)された段階から濃密に接見し、適切な弁護計画を立てることが求められる。全国の弁護士会の準備は質・量ともに十分とはいえない。

 性犯罪の被害者のプライバシーをどう守るかなど、法廷での改善が必要なこともまだまだ多いだろう。

 罪を犯していない人間が時にはうその「自白」をしてしまうことがある。犯していても認めないこともある。

 罰を科すのか、無罪を言い渡すのか。難しい裁判でも、裁判員が十分な自信を持って判断できるような環境をできるだけ整えたい。

米国防見直し―多様な脅威に協調強めよ

 グローバル化が進む世界で、米国は新たな脅威にどう対応していくか。米オバマ政権による初めての国防政策の見直し報告(QDR)は、国際協調がキーワードだ。

 「当面の戦争」が重くのしかかる。アフガニスタンの先行きは見えない。イラクも安定化にはまだほど遠い。7千億ドルを超えた国防費も、財政難からいずれ削減せざるをえないだろう。ゲーツ国防長官は、中東と東アジアでほぼ同時に発生する二つの大規模地域紛争に備える、という冷戦後の戦略を「時代遅れ」と切り捨てた。

 国際環境は複雑になる一方だ。中国やインドなどの台頭で世界の力の軸は拡散している。アルカイダのような国家とは異なる組織や個人が大量破壊兵器を入手する懸念も高まっている。

 気候変動についても、世界の不安定化や紛争を加速する新たな要因になりうる。テロリストによるサイバー攻撃など様々な脅威が混合した「ハイブリッドな戦い」への備えが求められていると見直し報告はいう。

 こうした様々な脅威に、米国は一国では対応できない。米国の強さと影響力は、国際機関や同盟関係、友好関係など各国との協調にかかっているとしている。単独行動主義だったブッシュ前政権からの転換は鮮明だ。日本や欧州をはじめ主要な同盟国も歓迎できる妥当な選択である。

 「地球規模の公共財(グローバルコモンズ)」の確保を強調しているのもこのQDRの特徴だ。公海での航路やインターネットなどの情報空間、宇宙空間などを指す。

 一国で管理することはできず、阻害されると米国はもちろん世界が影響を受ける。こうした「公共財」は安全保障に欠かせない、という視点である。

 ハイテク兵器と情報網を誇る米国だが、急速に軍事力を増強している中国に対しては、その意図に疑問を投げかける。中国の衛星攻撃能力やサイバー攻撃能力が国際秩序全体への脅威になりかねないと見ているからだ。

 ただ、これからの時代の安全保障のルールは米国一人で決めるべきものではない。日本をはじめ同盟国や友好国とのいっそうの連携が必要になる。共通のルール作りに向けて、グローバルな影響力を持つ中国やインドとの対話も進めていかなければならない。

 ブッシュ政権が熱心だったミサイル防衛の位置づけも変わった。QDRとともに発表された弾道ミサイル防衛報告では、核開発を進める北朝鮮やイランを対象にしたミサイル防衛は進めるが、核軍縮を促すためにロシアには情報の共有などで協力する方針を示した。中国とも協議していくという。

 核拡散を食い止めることはオバマ政権の戦略の柱だ。国際協調を基本に大胆に取り組んでほしい。

PR情報