<世の中ナビ NEWS NAVIGATOR 生活>
国土交通省が2日発表した高速道路無料化の社会実験区間は、当初の想定よりも大幅に縮小された。地方の利用者に使いやすくなるとはいえ、「生活コストの引き下げ」「地域経済の活性化」を掲げた民主党の目玉政策は、厳しい財政事情を背景に出だしから壁にぶつかった。しかも無料化への世論の支持は低く、無料化の行方は混とんとしている。【位川一郎、大場伸也、寺田剛】
「(無料化区間は)少なくとも年間1000億円の料金収入が見込まれる部分。無料化による経済効果は一定程度あるのではないか。渋滞解消の効果も十分考えられる」。無料化の旗振り役である馬淵澄夫副国交相は2日の会見で社会実験の意義を強調した。
だが、無料化路線が交通量の少ない地方の路線だけになったことで、当面、無料化のメリットを受けられる利用者は限定される。全日本トラック協会は「今回の路線は、並行する一般道もすいているだろうから、あまりメリットを感じない。むしろ、この後に想定される高速料金の割引圧縮が心配。実質値上げになる」と懸念。運送料金の値下げはあまり期待できそうにない。幅広い無料化による物流コスト削減などで、マニフェスト達成をアピールしたかった民主党だが、財源難を前に後退を余儀なくされた格好だ。
一方で、無料化への反発は根強い。「休日1000円」の高速割引で旅客減に見舞われたJR東日本の清野智社長は、2日の会見で「二酸化炭素(CO2)排出量が増え、受益者負担の原則や地方の公共交通機関の経営が崩れる」と指摘、社会実験に反対する姿勢を示した。フェリー業界も無料化に反対している。
報道各社の世論調査でも無料化は不評。民主党はマニフェストで段階的無料化をうたったが、財政が厳しい中、「ほかに優先すべき課題は多い。無料化にこだわるべきではない」との声がある。さらに、高速道路の割引財源を高速道路の建設費に転用する案も政府・与党内に浮上している。参院選を控え、「割引よりも建設」を望む声が地方で高まったからだ。
前原誠司国交相は先月29日の会見で、高速道路のあり方を抜本的に議論したいと表明。段階的無料化も「最終形がどうあるべきかを議論しなければならない」と述べた。高速道路全体の枠組み見直しが本格化すれば、無料化がこのまま尻すぼみになる可能性すらある。
無料化区間の選定基準について馬淵副国交相は、予算の制約や渋滞、他の交通機関への影響などを総合的に勘案したと説明。地域や与党からの要望は「受けていない」と述べた。
ただ、無料化区間は北海道や東北などにやや偏り、北陸などはほとんどない。無料化対象外の区間には、普通車2000円などとする上限料金制度を6月にも導入するが、同時に「休日上限1000円」など現行の割引制度は廃止される。利用区間や曜日、車種によっては、実質値上げになる場合もあるとみられ、対象外の地域には不満が残りそうだ。
一方、対象区間では6月以降、ETC(自動料金収受システム)のない現金客も無料になる。現行の割引制度は、ETC搭載車のみ対象としているだけに、現金客には朗報だ。逆に割引目当てに購入した人から「何のために買ったのか」との声が出る可能性もある。
料金の支払い方法は、ETCの有無にかかわらず基本的にこれまで通りとなりそう。交通量を調査する社会実験という名目上、無料区間の料金所は当面残し、無料区間だけを走る場合でも通行券を交付する。有料区間から続けて走ってきた場合は降りた料金所で精算する。将来無料化が確定すれば、無料区間の料金所は撤去される見通しだ。
なお、無料になる岡山自動車道は、有料の山陽道、中国道とつながっている。山陽道から岡山道を通り中国道を走った場合、いったん降りたことにしてそれぞれ料金を取るか、山陽道と中国道の走行距離を通算してより安い料金を適用するかは今後検討する。
毎日新聞 2010年2月3日 東京朝刊