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【今日の突破口】ジャーナリスト・東谷暁 異常な外国人参政権法案
外国人参政権法案についての議論が高まっているが、法案が成立した場合の、政治的脅威を強調するものだけに偏っているのは危ういというべきだろう。政治的脅威が生まれるのがその通りだとしても、そもそも外国人参政権については、それ以前に論じておくべき観点が多くある。ここでは2つだけ述べておきたい。
ひとつは、外交のリシプロシティ(互恵性)からの議論である。リシプロシティとは、こちらが何かをしてあげたら、相手も何かをしてくれる。逆に、相手が何かをしてくれるなら、こちらも何かをしてあげるという関係で、外交によらず人間社会の付き合い方の原理といってよいだろう。
いまの外国人参政権法案は、一方的に日本が外国人に対して地方参政権を与えるというもので、相手の国籍がどこでもかまわないという、まったくリシプロシティの原理を踏み外したものというべきだ。日本がある外国人に参政権を与えたとしても、その本国が日本人に対しても同等の権利を与えてくれるか、あるいは与えてくれる見込みがなければ、リシプロシティは成立しない。
ましてや、相手国が日本と政治体制が大きく異なる場合などは、同じ「市民的権利」といっても内容が著しく違う。法案賛成派のなかには、世界ではすでに約40カ国が外国人に地方参政権を与えていることを根拠とするが、その多くがEU域内国相互のことであり、政治体制も近似していれば、市民の価値観も似ている。
日本にいま多くの移住者を送り込んでいる近隣国は、はたして日本人に同等の参政権を与えてくれるのだろうか。また日本と政治体制が類似で、市民の価値観も似ているといえるのだろうか。
もうひとつは、国家のインテリジェンス(諜報(ちょうほう))戦略の観点で、この点についての議論はまったく欠落している。政治的脅威を強調する論者は、外国人の政治的活動を阻む意図をもって法案に反対することが多いが、それ以前に日本には、日本に敵対的な諜報活動をする居住者を逮捕する法律すら存在していないのである。
手元の『六法全書』で刑法の第83条から第86条をごらんいただきたい。この「通牒(つうちょう)利敵」条項は占領下に削除され、その後も復活していない。国会にスパイ防止法案が提出されたことはあったが成立していない。対外情報機関も貧弱なままだ。これではリシプロシティも成り立たないことになる。
海外のインテリジェンスの教科書には常識として書いてあることだが、たとえば軍縮条約を結んだ場合でも、その条約履行の確証は、お互いに相手国内に作り上げたスパイ網が前提となっている。インテリジェンスの世界において、水面下における諜報戦はお互い様のことであり、この常識を忘却してきたのは、先進国では日本だけといわざるをえない。
こうしてみると、わずか2つの観点からしても、今回の外国人参政権法案は国際社会においてあまりにも異常であり、そして何より日本は、そもそもそんな制度を持てるような国に回復していないのだ。外国との「対等で独立した関係」を目指す民主党は、まず、日本が「対等」にリシプロシティを発揮できるインテリジェンスを整えるべきであり、「友愛」はその後でよい。(ひがしたに さとし)