増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル

米Q4GDP、予想上回る+5.7%は一時的か=個人消費依然緩やか

-今後数四半期は+2.5%~+3%の低い伸びに-

【2010年1月31日(日)】 - 先週末(29日)、米商務省が発表した2009年第4四半期(10-12月)実質GDP伸び率(季節調整済み、前期比年率換算)の速報値は、市場予想の+4.7%を大幅に上回る+5.7%と、2003年後半以来6年ぶりの大幅な増加となった。

 ただ、米債券市場では、このハイペースの成長率が持続するかどうかについては懐疑的な見方が支配的となったように一過性に終わる可能性がある。

 前期の第3四半期(7-9月)の+2.2%に続いて2四半期連続のプラス成長となったが、2009年通年では-2.4%と、1946年の-10.9%以来63年ぶりの大幅なマイナス成長だ。ちなみに、2008年は+0.4%、2007年は+2.1%となっており、マイナス成長となったのは1991年以来18年ぶりとなる。

■Q4GDPの大幅な伸びの最大要因は企業在庫

 昨年第4四半期が+5.7%となった最大の要因は、企業在庫だ。これは、リセッション(景気失速)の影響と政府の総額7870億ドル(約71兆2000億円)の景気刺激策の効果が薄れて需要が抑えられて売れ残り在庫が増えたため、企業在庫の圧縮が大幅に鈍化したからだ。

 同四半期の企業在庫は前期比335億ドルの減少となったが、第3四半期(7-9月)の1392億ドルや第2四半期(4-6月)の1602億ドルに比べ、4分の1から5分の1まで縮小している。

 企業在庫はGDP伸び率の押し上げ要因のため、在庫の減少幅が小さくなればなるほど成長率を高めることになる。この結果、第4四半期のGDP寄与度は実に+3.39ポイントとなり、GDPの速報値の3分の2を占めるほどだ。

 この企業在庫を除いたGDP伸び率は+2.2%で、さらに、企業在庫と堅調となった輸出を除くと、わずか+1.7%となり、いかに内需がまだ脆(ぜい)弱か示している。

■個人消費は依然緩やか

 また、GDP全体の約70%を占める個人消費支出も第4四半期のGDPの押し上げに寄与している。個人消費のGDP寄与度は+1.44%ポイントだった。第3四半期の個人消費は政府の新車買い替え制度の効果で前期比年率+2.8%と高い伸びを示したが、その効果が剥落した第4四半期は+2.0%と伸びが鈍化している。1970-2007年の四半期ベースの平均伸び率+3.4%を依然下回ったままだ。

 商務省が14日発表した昨年12月の小売売上高(季節・営業日調整後)は前月比0.3%減となり、市場予想のコンセンサスである同0.5%増を大幅に下回った。直近3カ月の動きをみると、昨年10月は前月比1.2%増、11月も同1.8%増と2カ月連続で増加したものの、12月は9月の2.3%減以来3カ月ぶりに再び減少に転じている。

 ただ、11月は前回発表時の同1.3%増から1.8%増へ、また、10月も1.1%増から1.2%増へとそれぞれ上方改定されており、12月の減少を相殺している。しかし、失業率が高かった1983年でさえ、GDP統計での個人消費は前期比年率+6.5%だったことからも分かるように、個人消費は緩やかな伸びにとどまっていることには変わりはない。

 この点については、先週(26-27日)に開かれたFRB(米連邦準備制度理事会)のFOMC(公開市場委員会)会合後に発表された声明文でも「個人消費はぜい弱な労働市場や緩やかな個人所得の伸び、住宅資産の富裕効果が低いこと、銀行借入れが困難なことから抑制されている」と述べている。

 また、労働省が8日発表した昨年12月の新規雇用者数は前月比8万5000人の純減と、市場予想の増減なしの横ばい予想を大幅に下回って再び大幅減少となった。失業率は昨年11月の10.0%からは変わらなかったが、リセッションが始まった当時よりも5.1%ポイント高い水準となっている。

 また、パートタイム労働者と仕事を探すことをあきらめた労働者数やパート労働に変わった労働者数を加えた広義の失業率は、昨年11月の17.2%から12月は17.3%に上昇。さらに、半年以上就職できない失業者数は610万人に増加、過去最高を更新している。これは、失業者全体(1530万人)の3分の1以上にあたる40%と、依然として過去最高の水準が続いている。

 エコノミストは、失業率も今後数カ月は10%を上回り、少なくとも年内まで10%に近い水準が続くと予想していることや政府の景気刺激策による減税や公共投資が今年後半にかけて細ることから、今回のような+5.7%という高い成長率が続く可能性はかなり低いと見ている。

 今年第1四半期(1-3月)のGDPは前期比年率+2.5~+3%、それ以降も同+2.5%の緩やかな伸びになると予想している。実際、ニューヨーク株式市場ではGDP統計の強い結果にもかかわらず、ダウ工業株30種平均は前日比53ドル(0.5%)下落して引けている。

 また、債券市場でも債券価格と反対方向に動く10年債の利回りは統計発表前日の3.64%から3.60%に低下(価格は前日比11/32上昇の98 6/32)

■企業投資はプラスの伸びに

 対照的に、企業の設備投資は前期比年率+2.9%と、22008年第2四半期(4-6月)以来6四半期ぶりにプラスの伸びとなった。

 内訳を見ると、ITなどハイテク関連セクターを中心に、機械装置やソフトウエアに対する投資額は同+13.3%と大幅に増加した一方で、建物などに対する投資額は同-15.4%と大幅減少となっている。GDP寄与度は+0.29%ポイントと、2008年第2四半期以来6四半期ぶりにプラスとなった。

 住宅投資は、政府の新規住宅取得者に対する税額控除(最大8000ドルで住宅価格の約10%に相当)の効果で新築住宅の売れ残り在庫が減少し、同+5.7%と、2四半期連続の増加となった。GDP寄与度は+0.14%ポイントだった。ただ、2009年全体では住宅投資は-20.4%と大幅に前年水準を下回っている。

 一方、外需は、輸出(サービス含む)が+18.1%と、2年ぶりの大幅増加となった一方で、輸入も+10.5%となったが、輸出が輸入の伸びを上回った結果、純輸出のGDP寄与度は+0.5%ポイントとなり、GDPを押し上げている。

 また、公共投資である政府消費支出(地方自治体支出も含む)は景気刺激策の効果で、2009年全体では+1.9%となったが、第4四半期は-0.2%となっている。この結果、GDP寄与度は前期の+0.55%ポイントから-0.02%ポイントと、第1四半期以来3四半期ぶりにマイナスとなった。 (了)

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01月30日更新

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増谷栄一(ますたに・えいいち)

増谷栄一(ますたに・えいいち)

経済ジャーナリスト。北海道生まれ。早稲田政経学部卒。
1988年ジャパンタイムズ入社、編集局記者として世界100カ国の特集記事を制作。
1992年日経国際ニュースセンター編集室総合編集部次長を経て、1996年~2000年まで
米国経済通信社ブリッジ・ニュース東京特派員として日米の政治、経済、マーケットを取材。
1998年から2年間、ニューヨーク、ワシントン支局でアメリカのマーケット、重要経済統計、米政府、
財務省、米議会などをシニア・エディターとして取材。G7財務相・中央銀行総裁会議を3度取材。
その後、米国通信社ダウ・ジョーンズ通信社のコピー・エディターを経て、2001年1月から2004年9月まで
AFX通信社(AFP通信の経済ニュース部門)東京特派員。
2004年4月から2007年3月末までライブドア・ニュース外報部チーフ。
2007年11月まで英米金融情報サービス、トムソン・ファイナンシャルの起債担当記者。
2009年2月から経済ニュースサイト「NNAヨーロッパ」の編集長としてロンドンに駐在中。

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