きょうの社説 2010年2月1日

◎農業ビジネスの促進 地域金融との連携も成否の鍵
 石川、富山の地方銀行で農業経営アドバイザーの資格を取得する行員が相次ぎ、顧客企 業などに農業への参入や連携を促すためのビジネスセミナーを計画するところも出ている。農協系金融機関の独壇場である農業分野の融資拡大をめざす動きの一環である。政府、自治体は農業を成長分野と位置づけて、農業者と商工業者が手を組んで新たな産業化をめざす農商工連携や、企業の農業参入を積極的に後押ししているが、農業ビジネスをこれからの成長産業にしていけるかどうかの鍵の一つは、地域金融機関との連携の成否にもあるといえる。

 農商工連携による新ビジネスの創出では、地域金融機関の強みである幅広い取引ネット ワークを生かすことも期待されている。地銀の農業経営アドバイザーは農家、農業法人に対する経営指導だけでなく、農商工連携を具体化させるため、関連事業者をつなぐ、いわゆるマッチングで一役買うことも求められる。それによって新たな融資先開拓の可能性を広げることもできよう。

 現在の農業向け融資残高の8割以上は農協系金融機関で占められている。それを補完す る形で政府系金融機関が続き、地銀や信用金庫などの地域金融機関はごく一部に過ぎない。農地は法律で転用・転売が規制されているため担保になりにくい上、農業とりわけ稲作は「もうかるビジネス」とは言い難いため、農業融資に二の足を踏んできたのが実情である。

 しかし、不振の建設業などに代わる新たな融資先を確保する必要性や、在庫商品などの 動産を担保にした融資手法が整備されてきたこと、さらに農業生産法人が増加し一般企業の参入も活発になってきたことから、手付かずの農業融資に一歩踏み出す地域金融機関が全国的に増えている。

 農業分野の動産担保融資は、北陸では日本政策金融公庫金沢支店による家畜を担保にし た融資例がある程度だが、東北などではコメやリンゴを担保にした融資に取り組む地銀も目に付くようになってきた。北陸の地域金融機関も農業融資の知識やノウハウの蓄積に一層努めてもらいたい。

◎北朝鮮の緊迫化 挑発のエスカレート懸念
 朝鮮半島西側の黄海上で、軍事境界線である北方限界線(NLL)をはさんで、3日続 きで北朝鮮側から韓国側へ砲撃が繰り返されるなど、半島情勢がきな臭さを増している。北朝鮮が朝鮮戦争の休戦協定に代わる平和協定の締結交渉を求めたにもかかわらず、米国から色よい返事がないことに、しびれを切らしているのだろう。韓国を武力挑発し、米国を振り向かせる手口は見え透いているとはいえ、徐々にエスカレートしていく懸念がある。

 北朝鮮は黄海側の海岸沿いと付近の島に多くの砲台を設置しており、南北の境界水域へ 向けて、これまでに数百発を砲撃したとみられる。北朝鮮は先月15日、韓国が金総書記の死去や政権崩壊などに備えた有事計画を立案したとして強く反発し、金総書記が委員長を務める国防委員会が報道官声明を通じて「報復の聖戦開始」を表明した。今回の砲撃がこの声明に連動しているのは間違いあるまい。

 北朝鮮は韓国を揺さぶる一方、朝鮮労働党機関紙「労働新聞」など主要機関紙を通じた 今年の新年社説で、米国との「敵対関係終息」の必要性を強調し、朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に転換する会談を「休戦協定の当事国に提議する」との声明を発表した。

 この呼び掛けは、米中朝3国での協議を期待したものであり、実質的な米朝協議の要求 と言ってよい。米国から体制安全の保障を取り付け、核問題の解決を先延ばしにする狙いが透けて見える。同時に、6カ国協議を骨抜きにし、日本や韓国を交渉のテーブルから外す思惑もあるのだろう。そんな見え透いた提案に米国がのってくるはずがない。

 北朝鮮の交渉の場は、6カ国協議だけである。再開するなら2005年9月の6カ国協 議で合意した「すべての核兵器および既存の核計画の放棄」をうたった共同声明に立ち返るべきだ。共同声明では、核問題と並行して平和協定についても協議することが決まっている。北朝鮮には無条件で、6カ国協議に復帰する以外に選択肢はない。使い古された「瀬戸際外交」はもはや通用しないのである。