金沢市内のイベントでステージに立った宮島さん。中継サイトにはコメントがあふれた |
夏服姿でこちらを凝視し、音楽に合わせてひざを激しく開閉する。インターネット上の動画投稿サイト。女性が独特のダンスを踊る動画が29万回以上再生されている。「すごすぎる」「不覚にも、萌(も)えた」。寄せられたコメントは1万9千件を超える。
女性は東北信地方に住む宮島紘香(ひろか)さん(20)。ダンスや歌などの独創的な動画で話題を呼び、アートイベントやNHKのど自慢大会にも出場。「異能のネットアイドル」と注目されるが、3年前までは「引きこもり」で、就労せず、通学もせず、職業訓練も受けていない「ニート」だった。
そんな自分を変えるきっかけを、宮島さんはインターネットでつかんだ。
◇
中学1年のころ。体形のことで陰口を言われ、いじめられる同級生を見て、「ああなりたくない」と怖くなった。自分よりやせた女子生徒を見ると心がざわついた。
「自分は太っていて醜い」という思いにとりつかれ、食べ物に手を付けなくなった。毎日プールで3時間歩き、下剤を飲んだ。49キロあった体重は30キロ台に。「かわいい」と言われると気分が浮き立ち、「もっとやせたい」と思う。そんな生活は長くは続かなかった。
自分が「壊れた」のはその年の6月。炊飯器からご飯を直接かき込み、ロールケーキを1本食べ、吐いた。摂食障害で入院した病院でも、ほかの患者の食べ物を盗んで退院させられた。
「自分は世界一醜い。人に顔を見られたくない」。拒食と過食を繰り返し、中学3年で体重は60キロを超えた。「整形したい」「脂肪吸引したい」と親の前で泣いた。
◇
登校せず、引きこもる日々。ほぼ唯一、外とのつながりを感じたのは、小学校時代からなじんだインターネットだった。ネット掲示板に書き込みを繰り返し、他人の書き込みに自分と同じ悩みを見つけ、気持ちを落ち着けたこともある。
ネットを検索していたある日、容姿に自信がない人が自分の顔写真を投稿する掲示板を見つけた。「知らない人から自分はどう見えるんだろう」。鏡に映る自分の顔は「太って卑屈」に思えた。開き直って全身タイツ姿の写真を投稿すると、「面白い」「もっと見たい」と思わぬ反響があった。
高校受験には失敗。ほとんど通えなかった中学に、卒業間際、思い切って登校してみた。視線が気になったが、近寄ってきた男子生徒は一言、「よく来たな。ナイス決心だぜ」と笑った。
思い込みから自分を封じ込めてきたのではないか、もっと自分を外にさらそう−。ネットで盛り上がり始めた動画投稿サイトに、好きなダンスをしたり歌ったりする動画を投稿するようになった。多くは自宅で、デジタルカメラの動画機能を使って撮影している。
精神的に不安定になって自宅2階から飛び降りて骨折した足を引きずって、アイドルのダンスをまねた。中学卒業後に入院した精神病棟で出会った患者への友情を歌った。「どこがかわいいのか理解できない」「引いた」。批判、中傷のコメントもあったが、「超かわいい」「ネットをやっていてよかった」と称賛や共感の声が多くを占めた。
予想外に大量のメッセージが寄せられるのが楽しくて、投稿した動画は80件を超えた。1件が88万回、閲覧されたことも。海外からもコメントが付いた。触発され、ダンスを公開する少女も現れた。
◇
昨年11月下旬、金沢市内のライブハウス。宮島さんは、動画投稿サイトの運営会社(東京)が開いたイベントにゲスト出演した。会場の約200人の視線を集め、ネットの同時中継にも約2万6千件のアクセスがあった。
同じステージに「あこがれの人」がいた。不登校時代の居場所だったネット掲示板の創設者で、このイベントの司会を務めた西村博之さん(33)=東京。ダンスを終え、その場にへたり込んだ宮島さんは西村さんにせがみ、お姫さまのように抱きかかえられ、笑顔でステージを後にした。あんなに気にしていた体重のことは、頭から消えていた。
宮島さんは今、就職を目指している。「ニートが社会に出るのはハードル高いんだけれど」とはにかみつつ、言った。「人の感じ方はそれぞれ違う。自分を認めてくれる人は社会に必ずいると思う」
(田中陽介)