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はじめに
前回のエントリとそのコメント欄でIFREE(注1)のことにふれて、なんだかやるせない気分になり、税金の使われ方として間違っているのは政党交付金の方ではないかという想いが沸々とわき上がってきた。その320億円があれば、13億円のIFREEも救えるし、他にもやり玉にあげられた沢山の芸術・文化の事業や、貧困対策にも廻せるだろうにと思う。「政党助成法」については、既に様々な観点からの批判的見解が表明されているし、国民の多くも廃止を望んでいるだろう(注2)。特に、憲法の専門家からはその違憲性を指摘する声もある。
「政党助成法」をめぐる議論は、おおかた個々人の「価値論」を基礎に闘わされている。ところが、「価値論」を主張するに際しても、人は常に「証拠」を探そうとするようだ。「価値」というものが、現実世界での経験によって形作られ、社会的な価値形成が逆に実体社会に影響を及ぼし、自らの身に降り掛かってくるものであることを、誰でも知っているからだろう。
例えば、「政党助成法」は憲法違反だと主張しても、日本国憲法の理念など無価値だと思う者にとっては何程のこともない。しかし、憲法十九条が保障する「思想及び良心の自由」は大切な基本的人権であると主張する者が、他方で「政党助成法」を擁護するのであれば、その基本的人権をめぐるスタンスを問い詰めたくなる。この法律は政治資金を健全化し、政党政治の発展に寄与するものであるとの主張もある。「健全」とは、価値論に属する概念であるが、この法律の成立過程における議論に遡って、その「健全化」がどのように達成されたのかを問い詰めたくなる。そこで2回に分けて、「憲法との整合性」と「政治資金の健全化」を軸に、この問題への私見を述べようと思う。
「政党助成法」の憲法問題
「政党助成法」は貧乏政党に優しい制度であるとか、国民1人あたり年間250円(総額約320億円)の、いわばコーヒー1杯の金額で健全な政党政治をサポートする優れたシステムである、などといった主張が散見されるが、いずれも問題を矮小化するものである。実際この問題は、中心的には、日本国憲法との整合性という観点から議論され、違憲訴訟も起こされてきた。関係する憲法の条文を列記しておく。
第十九条【思想及び良心の自由】
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
第二十一条【集会・結社・表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密】
1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
第八十九条【公の財産の支出利用の制限】
公金その他の公の財産は、宗教上の組織もしくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
これらの条文に照らして「政党助成法」の違憲性は明白であると主張する憲法学者の見解を、下記で読むことができる。
上脇博之著『政党助成法の憲法問題』(日本評論社、1999)
http://www.nippyo.co.jp/book/51.html
http://blog.livedoor.jp/nihonkokukenpou/archives/cat_10037837.html?p=4
http://blog.livedoor.jp/nihonkokukenpou/archives/cat_10037837.html?p=3
まず押さえておかなければならないのは、憲法に規定のない「政党」の概念をめぐる議論であろう。例えば、任意団体としての「政治結社」のうち、国会議員を送り出すことを目的達成の主な手段とするものを「政党」、それ以外を「政治団体」と規定して、議員を擁する「政党」を公的な性格を帯びた団体と位置づけるという考えもある。その辺りの議論は下記に詳しい。
「政党概念と財政憲法」
http://www5a.biglobe.ne.jp/~kaisunao/ls-toti/21seito.htm
憲法を、「実定法」の観点のみから、時々の社会の価値判断をもとにご都合主義的に解釈するというやり方は、自衛隊の容認論にもみられる。これが度を過ぎると法律家はいらないということになるだろう。「政治結社」というものが、人々の思想信条にかかわる最も具体的かつ影響力の大きな社会的表現であることから、「政治結社」に含まれる「政党」の扱いについては、日本国憲法が保障する「思想及び良心の自由」の理念を基礎に議論すべきと思う。憲法第三章の各条文では、まず、「思想及び良心の自由」を含む「基本的人権」の尊重を説き、次に、それを保障するために国家がやらなければならないこと・やってはいけないことを定めているのだ。
「政治資金規正法」では「政治団体」を規定しているが、政党助成法においては「政党」の要件を定めている。それによると、「政党」とは、「政治団体」のうち、「国会議員数が5人以上であるか国政選挙での得票率が2%以上」と規定されている。この要件を満たさない弱小な政治団体は国会議員を有していても法律上「政党」とは看做されず、無所属議員は蚊帳の外である。私のように、支持「政党」がなく、無所属議員を応援したい者にとっては、自分とは異なる思想の「政党」にお金を貢がされるシステムは噴飯ものと言える。この制度が、憲法十九条の「思想及び良心の自由」に反するひとつの側面である。
「政党交付金」は、半分が各「政党」の国会議員数に比例して配分され、残りの半分が直近の国政選挙の得票率に比例して配分されることになっている。これも問題だ。小選挙区制がメインの現在の選挙制度の下では、各政党の得票率と当選議員の割合は著しく乖離しており、相対第一党にきわめて有利なシステムとなっている。また、一人当たり250円の「一人」には選挙権のない子どもの人数も含まれていて、子を持つ親は二重取りされるのだ。
憲法八十九条「公の財産の支出利用の制限」は、「公の支配」に属しない任意団体や事業への公金支出を禁じており、「政党交付金」は、これにも反する。私学やNPO法人への援助が認められているではないかとの反論があるが、政治的に偏りのない公的性格を帯びた団体という前提と、補助金の使途や運営実態への監視体制の整備のもと、「公の支配」を確保したうえで国庫補助がなされているのだ。「政党交付金」は、その使途が一切問われない(追記参照)。それを課すと憲法二十一条の「集会・結社・表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密」に抵触するからだ。
つまり、憲法二十一条によって「公の支配」から保護されるべき組織である限り、憲法八十九条の「公の財産の支出利用の制限」を受けるというのが正しい憲法理解であろう。
なお、「政治結社」へ公金を支出すること自体が憲法二十一条に反するとの見解もある。このことは、労働組合法第7条が、不当労働行為として、会社側から労働組合へ金銭の援助をすることを禁じていることにも通ずる。政治結社や労働組合は、何より、思想信条の自由を基礎にその存在を保障しなければならないものであり、いかなる手段においても権力の介入・介在を許してはならない性質のものである。いずれにしても、「政党助成法」を擁護する者は、憲法感覚というか、「基本的人権」への感覚が希薄なのではないかと思う。
次回は、この法律がつくられたそもそもの趣旨であった「政治資金の健全化」が、その後15年を経てどうなったかという観点から論じる。
-------(追記:11月25日)--------
政党交付金は、その使途に制限はないが、1件5万円以上の支出に際しては領収書をとるなど、会計報告の義務があるとのことで、「「政党交付金」は、その使途が一切問われないし、会計報告の義務もない。」と書いた部分を、書き改めた。
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注1)IFREEは、“Institute for Frontier Research on Earth Evolution"の略で、独立法人海洋研究開発機構にある「地球内部ダイナミクス研究領域」のこと。http://www.jamstec.go.jp/ifree/jp/index.html
「事業仕分け」の評価コメントでは「少なくとも来年度の予算の計上は見送り」と「予算要求の半額縮減」の両論併記となった。その予算13億円が全額見送りとなっても、親組織である「海洋研究開発機構」がなんとか面倒を見てくれるのであろうが、使用目的が限定された予算の中からやりくりするのは大変で、このままでは、実質的に研究はストップせざるを得ない。
注2)下記は、信頼性について若干疑問の余地はあるアンケートだが、参考程度に・・・
「政党の活動資金は「党費」で賄うべき」
http://polls.dailynews.yahoo.co.jp/quiz/quizresults.php?poll_id=3562&wv=1&typeFlag=1
「政党助成金 廃止か存続さあどっち? アンケート」
http://research.news.livedoor.com/r/18369
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はてなのブックマーク(ブクマ)して、コメントしたのですが、さつきさんはそんなの読んでないだろうと思い、ここにコメントします。以下はブクマコメントと同じです。
さつきさん、取り込んでて都知事選に関する議論も一読しかできてないけど、論旨に賛同しています。個人的には石原落としたい気持ちもわかるが、それだけですべてを語るのは間違いだし、危険すぎる。
せっかくだからコメント続けます。
「政権交代」はとても大切なことだったと思いますが、「政治」は幼稚園の砂場での遊びではないのだから、私たちは主権者として政治権力に向き合い、可能な限り懸命に判断しなければならない。それこそ自分の投じた一票が、裏切られたと気づいたら、その日からリコール運動する気概がなければ主権者はつとまらない(ちょっと言いすぎ。血の気が多いものですから)。
政党助成金も、制度化されたからと思考停止するのではなく、改めるべきは改め(改廃)させるのが大事だと思います。
「市民的不服従」で民主主義的正当性を持つ国家権力に向き合わざる得ない場面をいくつもみてきた身としては、スジを通すさつきさんの「論」に励まされています。
2009/11/27(金) 午前 0:47 [ nagonagu ]
>nagonaguさん、励ましのコメント、ほんとうにありがとう。
ハテナのブクマコメントはほとんど読んでいませんが、nagonaguさんの、「日記」も「雑記」も欠かさず読んでいます。それだけで、私の方こそ日々励まされているのです。
いきがかり上、なんだか政治ブログのようになっていますが、言うべき時に言うべきことをきちんと言っておこうと思ってのことです。他にも言いたい事は山ほどありますが、言葉は魔物です。納得できる言葉が見つかるまで、口を噤んでおこうと思います。
今も、「nagonaguの日記」でミンガスを聴きながら、別ウインドウでこれを書いています。(音響性能が悪く、ベースの音がちゃんと聴こえない。なんとかしなければ、ハハハ!)
2009/11/27(金) 午後 10:35 [ さつき ]
このエントリー(その1)で述べた内容に関して、(その2)の方に樹々の緑さんから大変有意義なコメントを頂いています。併せてご覧下さい。
2009/12/5(土) 午後 3:56 [ さつき ]