普天間騒動・米国の「演技」:上杉 隆(ジャーナリスト)

Voice2010年1月20日(水)13:00

メディアの過剰反応

 外交におけるゲームプランは、内政とはまったく別次元で動く。沖縄・普天間飛行場移設をめぐる鳩山内閣の対応、外務省の方針、そしてメディアの反応をみると、そうした視点が欠落しているようにしか思えない。

 鳩山内閣は、日本から見た普天間問題ばかりに注視し、本来的に主導権を握っているはずの米政府の「本音」を読み違えているのではないか。そう思うのは筆者だけではあるまい。

 米政府は、アジアにおける軍事的なプレゼンスと、四軍の一つにすぎない米海兵隊の中長期的なオペレーションを考え、「建前」の発言とは別の論理で動いていると考えるほうが自然である。

 外交のゲームプランから導かれる米政府の「本音」を分析・検証してみよう。

 12月中旬、鳩山首相は、普天間の移設先に関する結論の先送りを米政府に伝えた。それを受けて、日本のメディアは一斉に米側の不快感を伝えた。

「米海兵隊トップのコンウェー司令官は15日、米軍普天間飛行場移設問題に関する結論を先送りした鳩山政権の対応について『それが彼らの結論なら遺憾だ』と述べ、在沖海兵隊のグアム移転が遅れる可能性に言及した」(共同通信)

 さかのぼる12月初旬には、「日米合意」の変更を企図する日本政府に対して、ルース駐日米大使が怒りをあらわにしながら、岡田外務大臣と北沢防衛大臣に詰め寄ったとも報じられている。

 だが、こうした米側の対応をいちいち真に受けて報じるのは、過剰反応というほかない。米海兵隊が不快感を示し、駐日大使が怒るのは、米国の内政事情からみれば、きわめて当然の反応なのだ。

 仮に、海兵隊司令官や駐日大使が日本政府の方針転換に理解を示し、海兵隊や国務省の利益を代弁しなかったら、米国内から非難されることは必然である。

 つまり、彼らには外交上、「嘆き」や「怒り」の「演技」をする必要があったのだ。なぜならば、それこそが彼らの仕事だからである。そうした「演技」はまた、将来的にも、外交上のきわめて有効なカードになりうる。

今後「見返り」を要求される?

 普天間飛行場の移設を含む、沖縄駐留海兵隊の移転に関しては、2006年、日米両政府によって「グアム移設協定」として締結・合意している。

 さらに日本政府は、2009年5月、同協定を国会で承認し、あらためて移転先を沖縄・辺野古のキャンプ・シュワブ周辺と決めて、米国側にも伝えているのだ。

 となれば、仮に日本側の都合によってこの「合意」に変更が加えられれば、米国政府にとってみれば、外交上、不本意な「譲歩」をしたと見なすことができる。外交における「譲歩」とは、逆に「見返り」を要求する権利の獲得ともいえるのだ。

 今後、米政府は、この「譲歩」を武器に、日本政府に対して、いくつもの「見返り」を迫るだろう。たとえば、2014年までのグアム移転の遅れへの賠償請求、さらなる代替地の要求、そして究極的には、海兵隊のみならず米軍(陸・海・空・海兵隊)全体の再編費用の負担も求めてくるかもしれない。

 そうした「見返り」は、「演技」によってさらに膨れ上がる可能性がある。これこそが米国の外交上の狙いである。

 また、仮に普天間飛行場の移設が遅々として進まないとしても、じつは米国は外交上、少しも困ることはないのである。

 日本からみれば、普天間飛行場の移転は大きな政治問題になっている。実際に、日米同盟と政権が崩壊するほどのスケールで語られている。

 ところが、米国からみれば、普天間飛行場の問題は、所詮、西太平洋(極東)の、日本の、沖縄の、海兵隊のオペレーションにおける変更程度にすぎない話なのだ。けっして、座間にある米陸軍第一軍団前方司令部が移転するという米軍のプレゼンス全体に影響を与える話ではないのだ。

 米政府の本心では、普天間問題の解決が長引いても一向に構わないとみているだろう。なぜならば、この問題がもめて、解決が長引けば長引くほど、現行での運用を続けることができるからだ。

 外交においては、物事がスムーズに進むことが必ずしも正解ではない。海千山千の外交プレイヤーたちが知恵を絞って、自国の利益につながるためのゲームプランを構築しているのだ。場合によっては、中長期的な国益のために「本音」を隠し、「建前」で振る舞うことも多々ある。

 はたして、外交拙者の日本政府はいつになったらそのことに気づくのだろうか。

 2010年2月号のポイント
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