新潟が大雪に見舞われたこの日。
一人の女性がある男性障害者の部屋を訪ねました。
<スタッフの佐藤幸子さん>
「ごめんください。ホワイトハンズのケアスタッフの佐藤と申します」
<利用者の須藤昭夫さん>
「すごい雪ですね」
<佐藤さん>
「まだまだ積もりそうですよ」

男性の障害は脳性まひ。
これからこの男性に対する「性の介護」が始まります。
<佐藤さん>
「下から上にマッサージしますよ」
<須藤さん>
「月1回くらいの利用です。過剰なストレスがなくなったので日常生活が楽になりました」
この介助は、障害者が抱える性の問題を解消する一つの方法として2年前に始まりました。
新潟市に本部を置くNPO「ホワイトハンズ」。
代表の坂爪真吾さんは、もともと老人介護の活動をしていました。
しかしその過程で、障害者の性欲が切り捨てられていると気づき、自分たちでは対処できない脳性まひの人たちへの介助を提案。
現在、13都府県で事業を展開し、利用者は全国に50人、ケアをするスタッフは女性ばかり15人です。
<NPO「ホワイトハンズ」 坂爪真吾代表>
「性というのは人間の基本的な部分なので、後ろめたい形ではなくあたりまえに利用できるサービスとして健全化できればというのがきっかけです」
ケアスタッフの佐藤幸子さんは元看護師。
障害者の性の悩みは、医療の現場で常に手に余る課題だったといいます。
<佐藤さん>
「死角ですね。病気を治すことだけに看護婦の仕事はなっていましたから。性は問題外。抹殺してきましたので」
自身も脳性麻痺の障害を持つ愛知淑徳大学の谷口教授は、障害者の性を取り巻く現状をこう分析します。
<愛知淑徳大学(社会福祉学) 谷口明広教授>
「障害持っている人たちは『性がない』とずっと考えられてきました。介護福祉士のメニューにもないし、ホームヘルパーの介護メニューにもない。公式な教育の場では誰も教えない」
ホワイトハンズの利用者の一人、須藤昭夫さん。
これまで自分の性とどう向き合ってきたのか包み隠さず語ります。
<須藤さん>
「実は風俗も使ってました。デリバリーとか。めちゃくちゃ罪悪感、寂しさとか悲しさが出てくる」

いま受けているケアには、必要以上の体の接触がありません。
スタッフはゴム手袋を着用。
30分5,500円と有料ですが入浴や排泄と同じで、あくまで「介護の一環」と位置づけられるからこそ利用しやすいのだといいます。
この日、ホワイトハンズの坂爪さんは信州大学医学部の特別講義に招かれ、自分たちの活動を解説しました。
<坂爪代表>
「どうしても性=風俗、性=エロという社会的偏見がまだかなり大きい。それが障害者の性に対して根深く問題になっているのではないかと思います」
いずれは医師や看護師になる学生たち。
初めて突きつけられる現実にショックを受けたようです。
<女子学生>
「看護業務としての性の介助って考えたことなかった。看護の一部としてそういうのもあるんだといま、気づいた」
<男子学生>
「自分が持っているセクシャリティーと近いものとして考えるようになりました」
これまで置き去りにされてきた「障害者の性」の問題。
欧米の現状はどうなのでしょうか。
オランダ中部の町、ユトレヒトの郊外に30年近く前から活動している団体があると聞き、現地に向かいました。
団体の名前は「SAR」。
設立者の一人、レネ・フェルグート会長は重度の障害者です。
<レネ・フェルグート会長>
「大きなニーズがあると思って1982年に作りました。はじめの利用者は10人だけで探り探り進めていきました。オランダでも当時は障害者の性はタブーでしたから」
SARは障害者から連絡を受けてヘルパーを派遣します。
利用者はオランダ、ドイツ、ベルギーなどに900人。
ヘルパーは女性14人と男性5人で、介護の一環で性行為までします。
利用者の希望で同性のスタッフが訪ねるケースも。
介護費用は85ユーロ、およそ1万1,000円です。
<レネ・フェルグート会長>
「ヘルパーになるのは看護師や介護士などです」
<スタッフ>
「これは売春ではありません。売春は障害者からお金を取ることだけが目的です。しかし、私たちにとって大切なのは障害者のケアをするということなのです」

しかも、オランダ全土で60以上の自治体がSARを利用した際の料金全額を行政負担しています。
「性の介護」は健康管理の一環、という考えが浸透しているのです。

日本ではまだまだ理解が薄い障害者の性。
しかし坂爪さんのもとに、京都の学生から協力したいという連絡が入り面談することになりました。
<応募者>
「ボランティア精神というより、疑問に思っていたことを体験できるというのが大きいですね」
まずは実際に体験してもらうため近くのホテルに向かいます。
<応募者>
「こんなので大丈夫ですか、私。マニュアル読んできましたが、マニュアル通りにいかないものですね」
体験を終えて・・・
<応募者>
「そんないやらしさとか無くて、淡々と介助のようにタンタンタンと進んでいった感じ。抵抗はやる前より無いですね」
ホワイトハンズで働く契約書にサイン。
これからはスタッフの一人として現場に出ていきます。
<坂爪代表>
「公の場で立派なひとつの介助、当たり前のケアとして確立されていなかった。基準を持ってケアとして、介助として確立していきたい」
「障害者の性」と向き合う。
人が人らしく生きるために。
日本でもこの考えが静かに広がりつつあります。
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