Thriller:死せる魂のダンス
テーマ:ブログ
2010-01-18 14:36:41
posted by anmintei
いよいよ、Thriller である。上の映像に関して、lingonthepenguin氏の書き込みを引用する。
This is the BBC version, not the HBO version. That's a good thing though, because the HBO/DVD version is edited, with most of the footage being from other concerts. The crowd noises were also dubbed in, most of them anyway, and all the crowd shots were from other places. The crowd shots shouldn't even be there! We want to watch Michael, not some idiots in the crowd fainting. Anyway, this is the BBC version which I've been searching for for so long. Thanks for uploading.
どうやら、現在、DVDで販売されているものは、アメリカのケーブルテレビで放送されたものに近いらしく、それらはいろいろなところで行われたコンサートを切り貼りして作られたものらしい。特に、観客の映像はほとんどが他のコンサートのものだ、とlingonthepengui氏は言っている。
つまるところ、DVD版を見て「ブカレストのマイケル・ジャクソン」を論じようとしていた私は、とんでもない間違いを仕出かしていたことになる。この論文を書き始めて Youtube を探索したおかげで、なんとかその愚を避けられたが、観客に関する記述は基本的に間違っていると考えられるので、信じないようにしていただきたい。そのうち、修正する。
さて、スリラーという曲は一体、何の歌なのか、というのが今回の問題である。コンサートのパフォーマンスはすばらしいのだが、残念ながらこれを見ても、意味は良くわからない。意味がよくわかるのは、やはり、あの全人類の目に焼き付いているプロモーションビデオの方である。
さて、Michael Jackson Number Ones というベスト盤のDVDに入っているバージョンには、以下の断り書きが付いている。
Due to my strong personal convictions, I wish to stress that this film is no way endorses a belief in the occult. Michael Jackson
私の堅固な個人的信念のゆえ、このフィルムは如何なる意 味でもオカルト信仰を裏付けるものではないことを強調したい。
マイケルは母親の強い影響で「エホバの証人」の信徒であったが、『スリラー』 の映像がオカルト推進的であるという理由から長老たちによって激しく非難さ れて1987年に脱会した、という事件があった(西寺郷太 『新しい「マイケル・ジャクソン」の教科書』、ビジネス社、2009年。22-24および231頁)。この断り書きはこの退会事件と関係しているのであろうが、スーパースターになってからも 布教など義務を熱心に果たしていたジャクソンに、教義に反したオカルト推進の意図があったとはそもそも考えられない。それゆえ断り書きの内容は、単なる言い逃れではなく、文字通りに受け取って良いであろう。
このショートフィルム作品がオカルト趣味の遊びではないとしたら、一体、何を描いたものなのであろうか。それは、次の有名なシーンを良く見れば答えが見えてくる。見るべきは、マイケルの後ろで踊っているゾンビの皆さんの服装である。
この写真はPVのスナップショットの露出を少し上げて見やすくしたものである。これを見ると、後ろのゾンビの皆さんの服装がおしなべてちょっとおしゃれな普通の格好だ、ということがわかる。しかも皆さん礼装というよりは、上等のビジネススーツを着込んだり、あるいはパーティードレスを着たり、ロック歌手のようだったり、あるいは事務員のような格好の人もいる。(下に、ゾンビの皆さんの写真集を添付した)
アメリカ人が遺体を埋葬するときにどういう衣服を着せるのかについての人類学的報告を読んだ事がないので、断言しかねるが、埋めるときには礼装させたりするのではないだろうか。ということは、ここで踊っているのは、蘇った死体なのではなく、アメリカ社会で生きている、魂の死んでしまった人間の姿をわかりやすく描いたものだ、と考えるべきではなかろうか。
よしんば、ここのゾンビの皆さんの服装が、一般にアメリカで土葬される人の衣服をそのまま反映している、としても、マイケルが断り書きで「これはオカルトではない」ということを明言している以上、ここで踊っているゾンビの皆さんを、死体だと解釈してはならない。そう解釈したら、このショートフィルムはオカルトものだということになる。
She is out of my life に関する議論を踏まえるなら、ここで踊っている人々は、"You can't go to a premiere with a nigger." などと平然と言ってのけられるような、そういうハリウッドに生息する人々の姿がモチーフになっているのではないかと思う。このフィルムでは、女の子がマイケルを振り返ると、マイケルがゾンビになっているのでショックを受けて立ちすくんでいる。しかし、実際の世界では、マイケルがテータムを振り返ると、彼女がゾンビになっていて、マイケルは立ちすくんでしまったのである。ということは、上の写真の中央に立っているのは、テータムで、後ろに並んでいるのがその父親、母親、マネージャーなどの取り巻きということになろう。
このように考えれば、ここまでに論じた楽曲とスリラーとの関係は明白である。スムーズ・クリミナルによって魂を殺されてしまった人々が、スムーズに暮らし、楽しそうに歌ったり踊ったりしている様子を、手に取るように描いてみせたのが、このショートフィルムだということになる。私を含め、プロモーションビデオなどというものを見られるような生活をしている全人類が、この画像に惹き付けられたのは、そこに自らの姿がありありと描き出されていたからであろう。
=======ゾンビの皆さんの写真集 露出をアップしたもの=======
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