重要余談:ベランダの恐怖
テーマ:ブログ
2010-01-29 12:49:26
posted by anmintei
朝日新聞のネット版に次のような記事が出ていた。
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4歳女児、マンション8階から転落 あごに擦り傷
2010年1月29日12時3分
28日午後7時20分ごろ、東京都国分寺市泉町3丁目の共同住宅で、8階に住む母親(30)が、直前までベランダにいたはずの娘(4)が地上を歩いているのを見つけ、119番通報した。小金井署によると、娘は左あごに擦り傷を負って病院に運ばれたが、軽傷という。娘は「ベランダから落ちた」と話しているという。
同署によると、通報の直前、母親は娘をしかって、ベランダに出した。泣き声が聞こえないため、ベランダを見ると娘がいなくなっていた。ベランダから下を見たところ、娘が泣きながら歩いていたという。
8階は高さ約21メートルで、真下の植え込みはへこんでいて、人が落ちた形跡があるという。同署は、娘がベランダのさく(約1.2メートル)を乗り越えて誤って転落したとみている。
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実に恐ろしい事件であるが、何より恐ろしいのが、これが「娘が・・・誤って転落した」と表現されていることである。8階のベランダから落ちたのは、この四歳の娘の「誤り」のせいだと、警察も新聞も考えていることになる。
しかし娘はなぜベランダから部屋に入らずに、柵を越えたのか。
同署によると、通報の直前、母親は娘をしかって、ベランダに出した。泣き声が聞こえないため、ベランダを見ると娘がいなくなっていた。ベランダから下を見たところ、娘が泣きながら歩いていたという。
この記述に従えば、事件の経緯が以下の通りであったことになる。
(1)母親は娘をしかった。
(2)母親は娘をベランダに「出した」。
(3)母親はベランダの見える部屋から移動した。
(4)泣き声が聞こえなくなった。
(5)ベランダに出たら、娘が地上を歩いていた。
(6)警察に通報した。
(7)母親は、ベランダに出したのは、警察に通報する「直前」だと証言した。
以上のうち、明らかに(7)はおかしい。ベランダに「出した」のが通報の直前ということはあり得ない。(2)~(4)の間には、当然、何らかの時間の経過が必要である。もし(7)が正しいとすると、母親が娘を叱ってベランダに「出し」てから、直ちに別の部屋に行き、その瞬間に娘が「誤って」1・2メートルの柵を越えて転落した、ということになる。こんなことが起こりうるのだろうか。
さらに、「出した」という表現はおかしい。叱られて泣いている娘をベランダに出したら、当然、柵を越えたりはせず、必死で部屋に戻るだろう。
(1)~(7)の経緯を合理的に再構成すれば以下のようになる。これはあくまで推測に過ぎないことを強調しておく。
(1)母親は娘をしかった。
(2-1)母親は娘をベランダに追い出して鍵をかけて閉じ込めた。
(2-2)娘は泣いて部屋に入れてくれと必死で許しを乞うた。
(3)母親はそれを無視して、ベランダの見える部屋から移動した。
(4-1)いくばくかの時間の経過ののちに娘は絶望し、泣くのをやめて脱出をはかった。
(4-2)娘は必死で1・2メートルの柵を越えて脱出し、転落した。
(4-3)娘の泣き声が聞こえなくなったことに母親が気づいた。
(5)ベランダに出たら、娘が地上を歩いていた。
(6)警察に通報した。
(7)母親は、ベランダに「出した」のは、警察に通報する「直前」だと証言した。
四歳の女の子が、部屋に入るのをあきらめて柵を越えようと決断するまでに掛かる時間がどのくらい掛かるのか、見当がつかないが、もしベランダに閉じ込められたのが初めてであれば、そう簡単にそんなことを思いつきはしないだろう。母親が許してくれるまで、ベランダのガラス戸を泣きながら叩き続けるだろう。あるいは、過去に何度も長時間にわたってベランダに放置された経験があれば、短時間で絶望し、柵越えの脱出をはかるかもしれない。
8階のベランダに四歳児を叱りつけて閉じ込めて、放置するというのは、普通の神経でできることではないように見える。普通なら、そんな場所に四歳児が泣きながらいたら、誰でも危ないからすぐに中に入れるだろう。実の母親ならなおさらそうするはずである。ところが、私は犬の散歩をしながら、マンションのベランダで子供が泣いているのを何度か目撃したことがある。あるとき、高級マンションの三階のベランダに、二歳くらいの男の子が「出され」たところに、ちょうど私たちが通りかかったことがある。私が下から、「あ、何しているんだ。お~い、どうしたんだい、何を泣いているんだい」と大声で呼びかけたら、母親があわてて出てきて子供に何か言って中に入れた、ということもあった。この母親は常習的にこの手を使っているらしく、アッサリ中にいれてもらった子供の方が驚いている風情であった。マンションの部屋の構造からして、ベランダへの子供の監禁は、極めて一般的な「躾」と称する虐待の手法なのである。
また、大阪西淀川区の松本聖香さんの虐待殺人事件でも、ベランダへの監禁が重要な虐待手段であったことを私は思い出した。子供をベランダに監禁するのは、無条件に虐待と認識すべきだと私は考える。
大人をベランダに閉じ込めたりしたら、監禁罪に問われる。その大人が、隣のベランダへの脱出をはかって、手が滑って転落したら、その大人が「誤って転落した」と警察や新聞は表現するだろうか。監禁した者が、その大人をベランダに「出した」ら、その直後に転落した、と説明したら、それを受け入れるだろうか。
この母親が、転落したことを隠蔽せずにすぐに警察に連絡していることから、警察はこのような説明を受け入れたのだと推測するが、それを「娘が・・・誤って転落した」と表現するのは危険なことだ。なぜならこの子が、無闇に柵を越えて飛び出すような無茶苦茶なことをする人間だ、ということになり、この子が自分を信じられなくなるからである。新聞にまで出てしまえば、動かぬ証拠である。
また、子供のせいにして事実から目を背ければ、事態は改善されない。このような思考パターンがある限り、虐待防止の有効な対策をとることは不可能である。なぜなら、この母親は何らかの衝動に駆られて、思わず娘を叱りつけてベランダに「出して」しまったからである。思わずしてしまうことは、いくら反省しても直らない。そういうことをする衝動に駆られないように、その衝動の原因を取り除かねばならない。彼女の心理に立ち入って原因を取り除かなければ、また何かに振り回されることになる。
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4歳女児、マンション8階から転落 あごに擦り傷
2010年1月29日12時3分
28日午後7時20分ごろ、東京都国分寺市泉町3丁目の共同住宅で、8階に住む母親(30)が、直前までベランダにいたはずの娘(4)が地上を歩いているのを見つけ、119番通報した。小金井署によると、娘は左あごに擦り傷を負って病院に運ばれたが、軽傷という。娘は「ベランダから落ちた」と話しているという。
同署によると、通報の直前、母親は娘をしかって、ベランダに出した。泣き声が聞こえないため、ベランダを見ると娘がいなくなっていた。ベランダから下を見たところ、娘が泣きながら歩いていたという。
8階は高さ約21メートルで、真下の植え込みはへこんでいて、人が落ちた形跡があるという。同署は、娘がベランダのさく(約1.2メートル)を乗り越えて誤って転落したとみている。
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実に恐ろしい事件であるが、何より恐ろしいのが、これが「娘が・・・誤って転落した」と表現されていることである。8階のベランダから落ちたのは、この四歳の娘の「誤り」のせいだと、警察も新聞も考えていることになる。
しかし娘はなぜベランダから部屋に入らずに、柵を越えたのか。
同署によると、通報の直前、母親は娘をしかって、ベランダに出した。泣き声が聞こえないため、ベランダを見ると娘がいなくなっていた。ベランダから下を見たところ、娘が泣きながら歩いていたという。
この記述に従えば、事件の経緯が以下の通りであったことになる。
(1)母親は娘をしかった。
(2)母親は娘をベランダに「出した」。
(3)母親はベランダの見える部屋から移動した。
(4)泣き声が聞こえなくなった。
(5)ベランダに出たら、娘が地上を歩いていた。
(6)警察に通報した。
(7)母親は、ベランダに出したのは、警察に通報する「直前」だと証言した。
以上のうち、明らかに(7)はおかしい。ベランダに「出した」のが通報の直前ということはあり得ない。(2)~(4)の間には、当然、何らかの時間の経過が必要である。もし(7)が正しいとすると、母親が娘を叱ってベランダに「出し」てから、直ちに別の部屋に行き、その瞬間に娘が「誤って」1・2メートルの柵を越えて転落した、ということになる。こんなことが起こりうるのだろうか。
さらに、「出した」という表現はおかしい。叱られて泣いている娘をベランダに出したら、当然、柵を越えたりはせず、必死で部屋に戻るだろう。
(1)~(7)の経緯を合理的に再構成すれば以下のようになる。これはあくまで推測に過ぎないことを強調しておく。
(1)母親は娘をしかった。
(2-1)母親は娘をベランダに追い出して鍵をかけて閉じ込めた。
(2-2)娘は泣いて部屋に入れてくれと必死で許しを乞うた。
(3)母親はそれを無視して、ベランダの見える部屋から移動した。
(4-1)いくばくかの時間の経過ののちに娘は絶望し、泣くのをやめて脱出をはかった。
(4-2)娘は必死で1・2メートルの柵を越えて脱出し、転落した。
(4-3)娘の泣き声が聞こえなくなったことに母親が気づいた。
(5)ベランダに出たら、娘が地上を歩いていた。
(6)警察に通報した。
(7)母親は、ベランダに「出した」のは、警察に通報する「直前」だと証言した。
四歳の女の子が、部屋に入るのをあきらめて柵を越えようと決断するまでに掛かる時間がどのくらい掛かるのか、見当がつかないが、もしベランダに閉じ込められたのが初めてであれば、そう簡単にそんなことを思いつきはしないだろう。母親が許してくれるまで、ベランダのガラス戸を泣きながら叩き続けるだろう。あるいは、過去に何度も長時間にわたってベランダに放置された経験があれば、短時間で絶望し、柵越えの脱出をはかるかもしれない。
8階のベランダに四歳児を叱りつけて閉じ込めて、放置するというのは、普通の神経でできることではないように見える。普通なら、そんな場所に四歳児が泣きながらいたら、誰でも危ないからすぐに中に入れるだろう。実の母親ならなおさらそうするはずである。ところが、私は犬の散歩をしながら、マンションのベランダで子供が泣いているのを何度か目撃したことがある。あるとき、高級マンションの三階のベランダに、二歳くらいの男の子が「出され」たところに、ちょうど私たちが通りかかったことがある。私が下から、「あ、何しているんだ。お~い、どうしたんだい、何を泣いているんだい」と大声で呼びかけたら、母親があわてて出てきて子供に何か言って中に入れた、ということもあった。この母親は常習的にこの手を使っているらしく、アッサリ中にいれてもらった子供の方が驚いている風情であった。マンションの部屋の構造からして、ベランダへの子供の監禁は、極めて一般的な「躾」と称する虐待の手法なのである。
また、大阪西淀川区の松本聖香さんの虐待殺人事件でも、ベランダへの監禁が重要な虐待手段であったことを私は思い出した。子供をベランダに監禁するのは、無条件に虐待と認識すべきだと私は考える。
大人をベランダに閉じ込めたりしたら、監禁罪に問われる。その大人が、隣のベランダへの脱出をはかって、手が滑って転落したら、その大人が「誤って転落した」と警察や新聞は表現するだろうか。監禁した者が、その大人をベランダに「出した」ら、その直後に転落した、と説明したら、それを受け入れるだろうか。
この母親が、転落したことを隠蔽せずにすぐに警察に連絡していることから、警察はこのような説明を受け入れたのだと推測するが、それを「娘が・・・誤って転落した」と表現するのは危険なことだ。なぜならこの子が、無闇に柵を越えて飛び出すような無茶苦茶なことをする人間だ、ということになり、この子が自分を信じられなくなるからである。新聞にまで出てしまえば、動かぬ証拠である。
また、子供のせいにして事実から目を背ければ、事態は改善されない。このような思考パターンがある限り、虐待防止の有効な対策をとることは不可能である。なぜなら、この母親は何らかの衝動に駆られて、思わず娘を叱りつけてベランダに「出して」しまったからである。思わずしてしまうことは、いくら反省しても直らない。そういうことをする衝動に駆られないように、その衝動の原因を取り除かねばならない。彼女の心理に立ち入って原因を取り除かなければ、また何かに振り回されることになる。
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