職場の人間関係学
2010年 1月 26日

仕事の満足感はどこから生まれるか

失恋者の年齢によって日数が違うのだ。25歳以下は1日、26~29歳は2日、30歳以上は3日。“失恋の痛みは年をとるほどに深い”からだそうだ。

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一方、図表の「会社の政策と管理」は、不満の原因となった割合が約35%に対して、満足の原因となった割合はわずかに3%にすぎない。以下「部下との関係」までは、不満体験の原因の割合が、満足体験の原因の割合よりも高い。そこでハーズバーグは、「会社の政策と管理」以下「部下との関係」までを、「衛生要因」と呼んだ。ちなみに、衛生と呼んだのは、これらの要因の充実は、不満の予防になるからである。“満足は動機づけ要因から生まれ、不満は衛生要因から生まれる”という「動機づけ・衛生要因理論」は単純明快でわかりやすいが、文化が異なる日本に、そのままあてはまるのであろうか。

私は、ハーズバーグの理論が、文化の異なるわが国に通用するかどうかを見るために、さまざまな機会に、管理者、男女一般従業員を含む約600人の日本人にハーズバーグと同様な調査をアンケート法で行ったが、結果は大筋でハーズバーグのそれと一致した。つまり日本人のデータでも、満足は主として動機づけ要因から、不満は衛生要因から生まれており、この理論が日本でも通用することが確かめられた。

では、動機づけ要因、衛生要因の満足は、仕事へのモチベーションにどのように影響するのであろうか。

中国の古語に“隴(ろう)を得て蜀(しょく)を望む”という言葉がある。一を得れば二を、二を得れば三をというように、欲望にはきりがないという意味に使われることが多いが、動機づけ要因の満足にはこれと似たところがある。つまり、ある要因で満足すると、その要因への関心が一層強くなり、さらなる満足を求める。たとえば、自分があげた仕事の成果に満足すると、大多数の人は、仕事の成果をあげることに一層の関心をもち、“よし、次はもっと成果をあげてやろう”と思う。

図表2
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図表2

図表(2)の(a)は、約400人のOLに、自分の「仕事の成果」にどの程度満足しているかを問い、重ねて「もっとよい成果をあげたい」とどのくらい強く思うかを問うたものである。図中の青線は、成果へ不満な者と満足な者の「もっとよい成果をあげたい」という気持ちの平均値を結んだものであるが、線は右上がりで、成果に満足している者のほうが不満な者よりも“もっとよい成果をあげたい”という気持ちが強い。つまり、動機づけ要因の満足はさらに自らを動機づける効果をもっている。

目標理論によると、私たちは、目標の達成に成功すると次の目標を高め、失敗すると次の目標を低くする傾向がある。成果に満足した人たちは、自分の目標の達成に成功したから満足したのであり、それで次の目標を高め、もっとよい成果をあげたいと願ったのであろう。こうした状況が繰り返されると、「満足(成功)→より高い目標への挑戦」の循環が生まれ、仕事への自信・能力が高まり、充実した職業生活が送れることになる。

一方、成果に不満な人たちの多くは、自分の目標の達成に失敗し、次の目標を下げたのであろう。こうしたことが繰り返されると、仕事への自信、意欲が失われ、やがてそれが離職の原因にもなりかねない。すでに触れたように、入社3年以内にやめていく若者が多いとされているが、おそらくそれらの若者の多くは、自分の成果に満足した経験をもったことがないのであろう。というのは、成果に満足し、次はもっとよい成果をあげたいと思っている人がその仕事を捨てて会社をやめるとは考えられないからである。したがって、若者の早期離職を防ぐ強力な方策の一つは、若者たちに“的確な指示と指導”を行い、実際に高い成果をあげさせ、“よくやった”とそれを認めて満足感をもたせることであろう。

では、衛生要因の満足の場合はどうであろうか。空腹なときには食物に対する関心が高まり、摂食モチベーションが喚起され、満腹すると食物への関心は低下し、摂食モチベーションは消滅する。同じような現象が衛生要因の「満足」と「関心」の間にも見られる。つまり、ある衛生要因で不満があるときには、その要因に対する関心が高まり、その要因が満たされることを求めるが、満足すると、その要因への関心が低下し、さらなる満足を求める気持ちがうすれる。たとえば、給料に不満があるときには、給料に対する関心が高まり、「もっとよい給料を」と思う。だが、ひとたび満足が得られると、給料への関心は低下し、さらなる満足を求める気持ちがうすれる。

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プロフィール

松井 賚夫

立教大学・駿河台大学名誉教授

まつい・たまお●東京大学文学部卒。人事院勤務後、明治、立教、駿河台大学で産業心理学を講ずる。リーダーシップ、モチベーション、女性のキャリア発達について多くの研究を内外の学術雑誌に発表。著書『リーダーシップ』『モチベーション』。

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