Vol.15 東京音楽大学100周年記念本館

立体的に広がる中庭

ガレリアを見る。ガレリアの吹き抜けを取り囲むように、坂道のような緩い勾配の階段とブリッジがループ状に続いている。この吹き抜けのあちこちに学生の居場所が設けられ、スリット状のPC版の間からは室内の学生のアクティビティや外の景色がかいま見える。写真正面のやや下は食堂ホールと食堂ラウンジ。また、写真左手に「ミニホール」が、右手に「記念ホール」が配置されている

キャンパスの中心 「ガレリア」

北側全景。100周年記念本館へは、南側や北側の棟からも自由にアクセスでき、建物に内包した「ガレリア」が文字どおりキャンパスの中心となるよう計画されている。

建物に入って、まず眼に飛び込んできたのは、あこがれの“中庭”。読者の皆さんは「建物の中に中庭?」と疑問を感じられるかもしれませんが、この建物は、その中心にキャンパスの中庭を持っているのです。地下1階から4階までが完全に吹き抜けになり、天井から光が差し込む巨大な空間が広がっていました。この建物はわたしがあこがれていた、“音楽大学の中庭”を内包していたのです。このガレリアと呼ばれる空間には、いたるところにベンチやテーブルが配置され、学生たちは思い思いに場所を取り、過ごしているそうです。ガレリアを囲む階段は、ループ状に建物全体をつなげており、上の階から下で食事をする友人を見つけて声をかけたり、段差を舞台に見立ててけいこに使ったり、なんてことも。「使い方は学生たちが、次々に見つけていってくれるんです」と小澤さんがうれしそうに教えてくださいました。通常は平面に広がる中庭が、この建物では内部に立体的に広がっているのです。ここなら、学生たちが集まって盛り上がっても、建物の外に音を漏らすことはありません。
そうした心地よい空間をちょっと注意して見てみると、非常に複雑な構造をしていることに気が付きました。斜めの柱に、変形した壁。その柱も、隣の柱とはそれぞれ角度が少しずつ違い、直角や平面の部分が極端に少ないのです。この複雑な構造と格闘した日々を思い出すように、渡邉所長はわたしに説明をしてくださいました。今年、この建物が建築業協会賞[BCS賞]という大きな賞を取った要因も、渡邉所長がおっしゃる「こんな複雑なものをみごとにつくりましたね」という部分だったそうで、わたしもとても納得してしまいました。