映画やドラマの舞台として使われることの多い「音楽大学」。「音大」へのあこがれは、最近ますます高まっているように感じます。
どこからともなく聴こえてくる音楽が風に乗り、そよぐ中を、バイオリンを抱えてロングヘアの美女が歩いていくような・・・・・・。そんなあこがれを、新しいかたちで具現化してくれたのが、「東京音楽大学100周年記念本館」です。ただ、その姿はわたしがこれまでイメージしていた、いわゆる“キャンパス”ではありませんでした。白い外観は近代的でありながら、鬼子母神のある雑司が谷の古い町並みにすんなりと溶け込み、直線を使いながらも丸みを感じる、とても穏やかな表情の建物。わたしにとっては、ちょっと驚きの出会いでした。
音楽関連の建物を造る場合、やはり“音”の問題から、建物内部と外界と遮断せざるをえないそうです。確かに、コンサートホールなどは、重厚な扉の内部は密閉された空間になっていることがほとんどです。「開かれたキャンパス」ということを求められる一方で、音を漏らすわけにはいかない・・・・・・。「とても難しいプロジェクトでした」。建設を担当した東京音楽大学施設課の小澤伸一さんと戸田建設の渡邉実作業所長は当時を振り返り、こうおっしゃいました。お二人とも音楽に関しては、まったくの素人だったそうですが、この建物との奮闘の日々を振り返りながら、案内していただきました。
秋晴れのこの日。気持のよい風を感じながら、まずは、建物の周りをぐるりと見せていただきました。敷地内に余裕をもって建てられた建物の周りは、地元の人も利用できる歩道になっています。街路樹が木陰を作り、休憩用のベンチもあるこの遊歩道では、ご近所の親子が手をつないで歩いたり、犬を散歩させたりしていました。この“見なし道路”を作ったことによって、容積率も緩和されているそうです。
ガラスを通して、建物内部をうかがうことができますが、短冊状のPC版によって、内部のすべてが見えるわけではありません。このような「半透明」くらいが、近隣との程よい距離感をつくっているように感じました。
そして最も課題となったのは、やはり“音”の問題。たとえ美しい音楽であっても、近隣で日常生活を送る住民にとっては、それが騒音になってしまうおそれがあります。この新しい東京音楽大学の建物が、周辺の閑静な住宅街と共存するためにどのような工夫をしているのか。このあたりも探るべく、次は内部を案内していただきましょう。