CTSのSS 二発目

 え〜、なんか、副業をはじめてからこちらの更新がほとんどなくなってるこの頃です

 そんなこんなですが、今回もその副業でMS業をしているゲームのキャラクターのショートストーリー、というか、中編というかといったものをお送りします。

 そのゲームで自分のキャラとキョウダイだったキャラが亡くなりました。TRPGとかやってるとたまに予期せぬキャラの死というものはあるけど

 実際にしなれると自分キャラがロスとした以上に悲しい出来事で思わず、勢いのままに文章にしてしまいました。

 一発書きなので、誤字脱字、文章の不整合は書いてる最中に直しながら書いたけど、それでもやっぱり多数ありますので、その辺は自覚もしてるので突っ込まないでいただけると助かります。

 どうぞ、お楽しみ下さい

竜の送り灯

 瀋陽解放作戦における城門の突破。
 その朗報を日野 竜彦は作戦区域の後方で聞いていた。小隊規模での少々、無茶な気がした作戦であったけれど仲間も全員無事な事に安堵する。
「んっ!つっ!?」
 激しい戦いの最中で愛機であるシュテルンも大破、自身もかなりの傷を負っていた。
(‥‥ふう、リンドヴルムなければ下手すると死んでたな)
 慎重に肩や首を回すと痺れるような痛みが走るが次の作戦までには快復できそうなのだった。今は傷の事は忘れて回収された自分の機体を探す。
 今、この拠点には大破し回収された機体が次々運び込まれていた。そして、それの受領に訪れた人間とそれを渡す手続きを行う人間で溢れかえっていた。
 その膨大な人数を見ただけで今回の二面作戦がどれほど激しい物だったのかが否が応でも理解させられる。
(‥‥しかも、これも、傭兵と正規軍であくまで、瀋陽解放に動いた部隊だけと来てるしな)
 この中にはバグア側の超巨大砲台のグレプカを破壊する為に動いた傭兵達は含まれていない。危険度で言えば向こうの方が上だろう。それも時間と共に危険度は跳ね上がっているはずだ。
 そんな事が頭の中で何度も浮かんでは消えて行くを自覚しながら竜彦もやっと自分の機体を探し当てる。近付いていくと整備兵だろうか、自分より一回りか二周り年上のツナギ姿男性が敬礼をしてくる。
「どうも、オルタネイティブ小隊所属の傭兵、日野 竜彦です。コードはgb6596、機体の受領に来ました」
 竜彦も返礼しながら何度も繰り返した返答を口にした。
「はい。エミタに記録されたIDを照合するのでこちらを付けてください」
 差し出されたヘッドホンとアイシールドが合わさった様なヘッドセットを頭につける。スイッチを入れるとバイザー部分に様々な情報が流れては消えていく。
 それをしばらく眺めていると何か自分の奥底を覗いている気分になってくる。
「はい、日野 竜彦さん。確認しましたのでこちらにサインをお願いします」
 差し出されたクリップボードに自分の名前を書き込む。ここだけは紙なのは何故かと以前は気になったが今ではそれも慣れてしまった。
「では、失礼します」
 整備兵の男性はもう一度だけ敬礼をすると次の機体へと向って去っていく。
「ふぅ、今回は大分やられたな」
 人型のまま戻る事もできない空を飛ぶ時の相棒を見上げる。シュテルンの片足は稼動の限界を超えてあらぬ方向に捻じ曲がり、左腕に至っては肩の辺りから千切れ飛んでトレーラーに一緒に括りつけられている。
「‥‥あ〜、これだと、次の段階だと無理だな」
 素人目にも分るほどに一週間足らずでは修理不可能な状態だった。一応、予備に翔幻という傭兵になったばかりの頃に支給された機体があるが特殊能力はともかく性能には不満が残る機体なのだ。
「‥‥ないよりはマシか」
 そんな事をぶつくさ良いながら飲料水のペットボトルを手にすると後ろから声が掛かる。
「日野 竜彦君だね?」
(?)
 シュテルンから視線を外して後ろを向く見知らぬ男性が立っていた。服装から正規軍の士官だと分るがその顔に張り付く機械や仮面を連想させる表情が嫌な予感を覚えさせる。
 それによく見ればその人の脇にはヘルメットと防弾チョッキに身を包んだMPの姿もあった。
(‥‥何か悪い事はした覚えは‥‥‥‥ないよな。うん、きっと)
 なんとなく、間があったが特に思い当たる節はなかった。普通に傭兵を営んでいればあまり係わり合いにならない部署の人間なのは確かだ。
「もう一度、聞きます。日野 竜彦君だね?」
 事務的、というか機械的といった感じ一歩手前の口調で士官が再度質問してくる。
「あっ、はい、そうです!」
 竜彦が思考の深淵に落ちかけていた意識を戻して慌てて答えると嫌そうな顔もせずに士官は一つだけ頷く。
「君に伝えなければならない事がある」
「はい?」
 竜彦はなんだか、心臓の鼓動が大きくなりやけに落ち着かない気分になっていた。できるなら、その先の言葉を躊躇うほどに。
「今回の作戦中の未明、日野 美黒君が――」



 空白



 士官の言葉を聞いた時、世界中の音が全部消えた。さっきまで鳴り響いていたエンジン音、叫び合う能力者と整備兵、強く吹き付ける風、その何もかもが全て消えうせた。
 いつの間にか手から滑り落ちたペットボトルが床に叩きつけられる音とこぼれた水の音だけが無音の世界に大きく響く。
「‥‥‥‥今、なんて?」
「‥‥‥‥もう一度、言うのでよく聞いてくれ。グレプカ破壊作戦遂行中の未明に日野 美黒君が死亡した」
(『死亡』、死んだ。誰が?美黒が?おいおい、ありあまるほどの元気が取り柄のアイツが‥‥)
 竜彦自身も気がつかないうちにその士官の襟首に掴みかかっていた。
「そんな笑えない冗談言いに来たのかよ!!」
 だが、その言葉を聞いても士官は顔色一つ変えない。それすら、彼が口にした言葉が悪い冗談ではないかと竜彦に思わせる。
 その様子に気付いたのか周囲の能力者や整備兵がやり取りを止めて竜彦達に注目するが、今の竜彦にその視線すら気にする余裕はなかった。
「やめろ!」「離れるんだ!」
 二人のMPが掴みかかる竜彦を無理矢理引き剥がす。既に冷静さを失い覚醒すらしない竜彦はアッサリと引き剥がされて士官との距離が開く。
 この事態は予想していたのか士官の方はかけらも取り乱す様子はなく冷静に乱れた衿元を正す。
「日野 竜彦君、君には現地時間で明日の00:00から48時間の休暇が与えられる。ラスト・ホープへの帰還許可もだ。気の毒だとは思うが‥‥」
 MPと周囲に居た傭兵や整備兵に押さえ込まれながら士官の男性の淡々とした言葉が竜彦の耳の奥へと染み込んでいく。まるで自分ですら他人事のようにその言葉を聞けるんだなとはじめて自覚した。
「‥‥‥‥」
 士官の男性の言葉が終わりに近付くにつれて竜彦の体からだんだんと力が抜けていく。後半の言葉もまったく聞き取れなかった。
 抵抗がなくなった竜彦からMPが離れると同時に士官の男性の言葉も終わる。
「以上だ。失礼する」
 最後にそう言い終えると踵を返して去って行く。それを呆然と見送ると竜彦から一人、また一人と取り押さえてた人間が離れる。
 そして、誰も支える者が居なくなるとズルズルと地面に座り込んだ。
 真っ白だった世界にじょじょに音が戻ってくるがそれが何なのかすらも竜彦には理解できなかった。

「‥‥‥‥」
 フラフラした足取りで竜彦は高速艇のタラップを降りていた。現在の残りの休暇時間は45時間だとエミタのAIが告げているがどうでも良かった。
 今の竜彦には自分がいつ、どういう風に高速艇に乗り込んでラスト・ホープに戻って来たのかも思い出せなかった。

 ガンッ!

「ぁっ!?」
 何かにぶつかって初めて自分がラスト・ホープの兵舎の自分の部屋の前に居る事を認識した。
 ノロノロとした動作でカギを開ける。数日しか出掛けていないのに何年も戻っていない気分になった。いや、この部屋に来てからも半年と立ってない。
 それに今日は何故かその部屋がやけに広すぎる気がした。
 自分の寝床である二段ベッドの下段に靴だけ脱いで転がる。というよりは倒れこむ。
 上のベッドは美黒がベッドの上段は絶対に自分のモノだと強く主張して確保した場所だった。その時の竜彦としては本当なら別にどうでも良かったのにムキになって後から来て勝手な事を言うなとかケンカした。
 その時も結構、本気でやったのに負けたのは竜彦の方だった。
 それ以外にも、少ない給金からせっせと捻出した小遣いで買ったお菓子を一人で食べられたり。久々のすき焼で肉の取り合いをしたり。ケンカになれば大抵負けるのは竜彦の方だった。勝った記憶なんて紅白の水鉄砲大会ぐらいしか思い当たらない。
 いつも、ケーキやクッキーを焼けば大きいのを取るし、大雑把な性格で洗濯物を脱ぎっ放しにしては言い合いになったり。
 竜彦自身、美黒からお母さんか、と言われた事もある。それにだったら最低限の事はシッカリやれよと自分も返してたのを思い出す。
「‥‥くっ」
 美黒の死亡報告を聞いた時にも流れなかった涙が溢れ出して止まらない。
 覚悟はしている、つもりだった。傭兵というのはそういうものだ。とか口にしてた事だってあるかも知れない。
 だが、実際にその『そういうもの』が起った時、どうにもならなかった。むしろ、近くに居なかった自分の愚かさを呪いたくすらなる。
「‥‥なあ、美黒、帰って来いよ。もう、勝手に女装姿のプロマイドをネットで流した事も怒ってないから。ベッドの上段だって好きに使っていいし、肉だって好きなだけ食わしてやる。ケーキだって今までないぐらいデカイの焼いてやるから、帰って来いよ‥‥美黒」

 いつの間にか朝が明けていた。AIが告げる休暇終了まで40時間を切った。
 竜彦はどうも体の方は徹底的にしつけられた生活ペースを崩したがらないものだと感じた。
『ぐぅ〜〜』
 なんだか、間が抜けているが腹は減るらしい。今朝はこった物を作る気になれないし食堂の方へ行く気も起きないので部屋で済ます事にする。

『チン!』

 という軽快な音と共に狐色に焼けてたトーストが飛び出てくる。それを大皿に盛って椅子に座る。
「え〜と、ジャム‥‥は‥‥」
 そこで手が止まる。竜彦が普段使うのはブルーベリーのジャムだけだが、その横にイチゴのジャムが出ていた。
 イチゴの方は美黒がジャムは絶対にイチゴが一番と買い置いた物だ。二人揃って甘い物好きだから、スコーンとかあればジャムをたっぷり着けて食べるので多い時だと月に三本、四本とビンが空になる。
 後、トーストに一塗りする分しか残ってないジャム。今回の作戦が終わったら新しいのを買おうと思っていた。
「‥‥‥‥ここでかよ」
 あれだけ泣いたのに涙は再び涙が流れ出す。いつまでも止まるかわからぬまま。
「くっ‥‥」
 残ったイチゴジャムを全部トーストに塗ってそれを無理矢理口の中に押し込んでパックから直接ミルクを飲んで胃に押し込む。
「っ!っ!っう、ぷは!」
 いっきに1リットルも飲もうとしたせいであごを伝っていたミルクを腕で拭いとる。
 この部屋に置いてある物はいつも通りだ。棚も、クローゼットも食器も小物もテーブルも椅子も写真も何もかもがいつものままだ。
 だが、誰かが帰って来ないと知るだけでその部屋の広さは以前にもまして広く感じられる。いっそ、このまま消えてしまいたいとすら思うが、それは間違ってるようにも思えた。
「何してんだろ、俺‥‥」
 なんとなくこの部屋に居たくないと思って素足につっかけただけの靴でカギも閉めずに兵舎を出た。
 あてどもなく道を歩いていると忙しそうに歩き回る軍服姿の人達とすれ違う。たまにこちらに視線を向けてくる者もいるがすぐに興味をなくしたのか視線を戻して駆けていく。
「あれ?」
 気がつけばいつの間にかナイトヴォーケルの倉庫に来ていた。
「ははっ、結局、行き着く場所がここかよ‥‥」
 誰も居ない倉庫に足を踏み入れると鉄と埃の香りが漂って来る。今、中にあるのは翔幻だけだ。ほとんどの武装を背負えないその機体が今の自分のようだと自嘲的になる。
「‥‥はぁ、ダメだな」
 何が駄目なのか自分でも分からないが何かが駄目になっているのは分る。
 顔を伏せてると目の前に一枚の写真が落ちてくる。
(‥‥?)
 拾い上げてみるとそれは、自分が初舞台の練習中の写真だった。
「なんで、こんなのがあるんだ‥‥よ‥‥っ!?」
 写真を裏返してみると何か書いてあった。そこに書いてあったのは間違いなく美黒の字だ。

 たっくん、はつぶたいに立つ!
 いっしょうけんめいに錬習してるたっくん
 がんばれ!
 メザシは一番であります。たっくん!

「‥‥ははっ、字、間違えまくってるじゃん、結局、選んだのが練習中の姿ってなんだよ?」

 これが、たっくんの一番カッコイイすがたなのであります!(><)ノ
                                    美黒・改

「‥‥‥‥‥‥」
 最後の一言に言葉がなくなる。普段は口が裂けても言わない言葉がそこにあった。
(‥‥そんな風に思ってたのかよ)
 それに引き換え今の自分はどうか、自分だけがまるで世界で一番不幸だといわんばかりの態度で自分自身でも腹が立つ。
「こんなとこで‥‥立ち止まってる場合じゃないよな‥‥」
 流れ出しそうになった涙をふくと顔を上げて背筋を伸ばす。そうするだけで世界が変わって見えた。
 まずは『Titania』の待機所へ向う。まだ残したままの自分のロッカーの中にある売れそうな物を取りに戻る。他にも希望すれば支給してもらえる換金用アイテムに部屋に残った趣味の物や不必要なナイトヴォーケル用の武装も売り払うんだ。
(‥‥売れる物は髪の毛でも売れ。クソ喰らえなプライドもセットでだ!)
 途中でなじみの整備兵の一団とすれ違う。全員が何をそんなに慌てていくのかとこっちを見るが、答える時間すら惜しい。
 やると決めたなら全力でやればいい。コケようが、失敗しようが、みっともなかろうが何度でも立ち上がってやる。
 今までだってそうだった。どんなに撮影で失敗しようが依頼でほとんど役に立たなかろうが、それでも諦める気にはならなかった。
「ああ、いつもと同じだ!」
 今日もラスト・ホープの上に広がる空と何も変らない。ただ、当たり前に挑むだけだ。

 そして、夕方、何もなくなったナイトヴォーケル用の倉庫に竜彦は足を運んだ。
「ん?おう、オマエさんか、どうしたこんな時間に翔幻なら軍が持って行っちまったぞ」
 老齢に差しかかり白髪と皺に満たされた顔をした整備班長がそう言ってくる。
「知ってます。昼頃に搭乗権利を売却してきました」
「‥‥そうか、それじゃ、俺達もお役ゴメンだな。短い間だったがありがとよ。第二の人生頑張れ」
 そう言って整備班長は席を立ち倉庫を後にしようとする。
「‥‥何のマネだ?」
 だが、その前に竜彦が立ちはだかる。班長の鋭い視線が竜彦をにらみつける。
 その瞳はこう言っていた。
『戦う気もない生きた死体がこちとらの邪魔をしてるんじゃない』
 と、言っているのが分る。
「まだ、仕事は残ってます」
「はっ、俺にガランドウの倉庫の見張り番でもさせようってか?ふざけるのも大概にしろよ」
「ふざけてません」
「‥‥‥‥」
 年季の入った低い声で威圧されても竜彦も真っ直ぐに班長の方を睨み返す。
「機体はあります」
「‥‥‥‥‥‥‥‥良いだろう、待とう」
 それからさらに数時間、既に日は沈み。星空がラスト・ホープの上空を覆っていた。
 その間、竜彦も班長もまったくの無言で待ち続けた。お互いに交わす言葉もない。ただ黙ってジッとドアの向うを見続けた。
 そして、どれほど待っただろうか。一台のトラックが倉庫の前に止まる。
「‥‥こいつか?」
 班長がトラックに近付いていくと運搬して来た兵士空受け取った書類に受領のサインをすると運び込まれて来たトレーラーのシートがはがされて行く。
「ほう、龍神の灯火か最新型だな。自分を地獄へ送り込むための送り火にでもするか?」
「違いますよ。地獄から仲間を助けるための灯です。小さくでも絶対に消えない」
 竜彦の返答に班長が肩をすくめて苦笑する。今さら単機のしかも量産機で戦況なんて変りはしない。そんなのは分っているが、それでも動かずにはいられなかった。
「で、俺達にこれを動かせるようにしろってか?」
「そうです。出来るだけ早く」
「だがよ、このノーマルの量産機一機で何かできるとでも、ヒーローにでもなったつもりか?
 班長の皮肉が事実をついてるのは竜彦も分っている。何度もそう思う。
 それでも、

「何もしなければ誰も救えません」

 その一言に班長は嬉しそうにちょっとだけくちびるの端を吊り上げてわらった。
「はっ、合格だ。明日の朝までにはキッチリと飛べるように‥‥」
「違います」
(‥‥‥‥?)
 竜彦は整備班長の言葉を遮るとに手に持っていた荷物を逆さにして中身を全部テーブルの上に載せた。
「これは‥‥」
「俺の全財産、売れるものは全部売ったし、市場の方に出来る限りの武装や道具も広げてる。これで、できる限りの強化を」
「‥‥ちっ、馬鹿だ、馬鹿だとはここまでの大馬鹿とはな」
 後先考えない少年の姿に班長が思わずため息をつく。
 そして、竜彦は返答をじっと待っていた。
「‥‥良いだろう、何があったかは大体察しがついてる。オマエさんがそこまで、地獄へ行きたいならな」
「‥‥はい!お願いします!」
 たぶん、これで完全にこの人からも呆れられただろうと竜彦も考えた。他の友人からも同じだ。
(‥‥また、一人になるのかな?)
「地獄でも絶対に消えない最高の灯火にしてやる。期待してな!」
「え?」
「何を呆けてる?オマエさんが望んだんだろう?地獄から仲間を救い出す灯になるって」
「はっ、はい!」
 背筋をぴんと張り詰め答える竜彦に班長が苦笑する。
「よし、それじゃ、他の奴らを叩き起こす所からはじめないとな!」
 ガハハッ、と豪快に笑う班長の後ろについてい倉庫を出ようとする。
 だが、それは叶わなかった。また、倉庫の前に一台のトラックが止まる。
「なんだ?」
「なんでしょう?」
「あっ、オヤッさん‥‥と男の娘ちゃん、こんばんわ」
 トラックを運転して来たのは整備班員の一人だった。その整備兵の一言に竜彦もちょっとムッとするが今はここで会えたのが幸いだった。
「何んだその荷物は?」
「あ〜、これっすか、そっちのガキンチョにお届け物っス!おい、シートはがせ」
 整備兵達の手でみるみるとシートが剥されるとそこには、大量のナイトヴォーケル用の武装があった。
「あのこれ?」
「ほい、それでこれがオマエさんへの手紙だ」
(‥‥?)
 渡されたカバンを開けてみるとそこにはいくつもの手紙だった。

『孫六 兼元だ。 事情は概ね察しておる!! ささやかながら、ワシの方から提供させて貰おう!!
ただし!!! 『敵討ちと称して、無謀だけはするで無いぞ!!』 
キミは無事に戦い抜き、生き残らねばならん!! 忘れるなよ!!!』
『OK。
無事に渡されるように、私も尽力しよう。』
『遅くなったけど、まだ間に合うならコレも資金の足しにして。

あと、絶対に帰って来るんやで。
死ぬのは許さんからな。(▼皿▼#)
大規模終わったら、また兵舎で騒ぐんやからな。

無事に帰ってくることを祈ってるなぁ。』
『月並みの事しか言えないけど、頑張れ』
『大丈夫じゃないかもですけど、元気出せ』

 全部が全部、このラスト・ホープに着てからの友人になった人達からの手紙だった。
 このツライ状況にありながらも電波に乗せて送られたものもある。

「‥‥‥‥」
 ただただ、それを食い入る様に読む竜彦を見ると班長は他の整備兵達を促して一人にしてくれた。
「くっ‥‥うっ、みんな‥‥」
 いつの間にかただただ涙が流れ出す。
 大切な人が死んだ。だけど、その死が教えてくれた。自分が一人ではないと言う事、そして、やるべき事がある事をだ。

 まだ泣くには早すぎるけど、だけど、今だけ、ほんの少しだけは泣いた。声は出さない。だけど、確かに暖かくて熱い何かが心に満ちるのを感じながら。

 少年が選んだのは逃げる事ではなく、戦う為の牙と爪、そして、大空へ羽ばたくための新たな翼だった。



 竜の送り灯・了

テーマ : 自作小説(二次創作) - ジャンル : 小説・文学

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