中国の工業生産の動向
−−急速な国有企業の改革−−
以下で、中国の工業生産の動向について述べる。ただし、とりあえずの整理であって、短期的動向、企業組織の動向、他産業との関連性などについて別途分析を深めた後、以下の記述を再検討する必要があるだろう。また、業種別分析、地域別分析についても、より詳細な内容としていく必要がある。さらに、今後、貿易の動向とも関連付けた分析も必要である。
動向
中国の工業生産は、1990年代を通じて著しい拡大を続けた。
特に、'90年代前半の拡大は著しかったが、これは、郷鎮等の公共体が経営する集体企業の生産の拡大が貢献している。また、個人企業や国外資本との提携等を含むその他の企業の成長も急速であった。
'90年代後半も引き続き拡大したが、成長率は低下している。これは、まず、国有企業が停滞し始め、続いて集体企業も頭打ちとなったためである。個人企業においても停滞気味で推移している。
こうした中で、その他企業は引き続き急速な拡大を示しており、工業全体の拡大を支えている。しかし、
現下の不安定な国際情勢の中で、急速な拡大が持続するか懸念される。
国有企業、集体企業については、公的部門の性向として、とかく生産性の停滞低下を招きがちで、早急に改革していくことが求められている。これら企業の生産の停滞は、主体的な改革が進められているとともに、個人企業やその他企業との競合によるものと見られる。
国有企業等の改革の中で、'98年より就業者が著しく減少し始めている。これまでの国有企業等は、狭義の工業生産活動にとどまらず、広く従業員、その家族の生活を支える役割を担ってきており、従業者の減少には、これらの機能の整理も含まれるものと考えられる。
このため、企業就業者数の減少は、工業生産部門への純化の意味もあると考えられる。しかし、これまで保有していた機能を社会としてどのように担っていくか問題が残っている。
いずれにしろ、国有企業等の改革の中で、職を失う者の新たな就業の場をどのように準備していくかは、国全体として大きな課題である。
'90年代の工業生産の拡大は、多くの業種で見られるが、特に自動車、カラーテレビ、冷蔵庫、洗濯機等の耐久消費財の伸びが著しい。家電製品等については、これまでの東南アジアでの生産が移行してきている面がある。こうした生産は、現時点では、内需というより、国外への輸出が大きな比重を占めているものと見られる。
繊維等の拡大は目立たないが、これは'90年代以前に規模が大きくなっており、伸びとしては目立たないものと考えられる。(衣服はその多様性から数量ベースの統計では計上されていない。)
地域別状況
工業生産額を地域別に見ると、南部の沿岸諸省の生産額が著しく大きい。
これは、'90年代における郷鎮企業の成長とともに、個人企業や海外資本との提携を含むその他企業の成長が大きく貢献している。
また、東北の遼寧省や内陸の四川省などについては、建国前からの蓄積、建国後の工業化の努力の結果であろう。
地域の工業を業種から見ると、北京、上海等の大都市では明らかに加工組立型産業の生産が多い。
近年急成長した沿岸諸省については、加工組立型と生活関連型の業種の生産が混ざっている。
遼寧省等では、加工組立型と基礎素材型との混合となっている。
寧夏回族自治区等では、基礎素材型の業種が多いが、生産額自体が極めて低く、地域で生産される資源によるものと見られる。
さらに西部の諸自治区、省でも、生産額が極めて低く、その中では、生活関連型業種が多くなっている。
これらのグループの中間に位置する諸省は地理的にも中間部に位置している。
上では、省市区毎の業種特性を試みたが、各地域の全業種の構成を一覧すると、むしろそれぞれの地域が一通りの業種を保持する「
ワンセット型立地
」と捉える方が適切かもしれない。これには、中国の経済開発の歴史的経緯からの必然性もある。
'90年代後半の地域別の工業生産増加率については、1995-1998年では、新疆ウイグル族自治区を除きいずれも増加を見せている。
工業生産が、特に、大きく伸び、また国全体の伸びにも大きく寄与しているのは、広東、浙江等の沿岸省である。ただし、内陸の湖南、湖北も高い伸びを見せている。
しかし、地域格差是正のためにも速い成長が求められる四川(重慶を含む)や陝西の伸びは低いものに留まっている。
企業形態
国有企業の生産額の比率と第一次産業就業者数の関係を見ると、概ね3つのグループに分けて捉えることができる。
第一次産業比率の低下は、産業化の進捗の程度を表すとと見られるが、多くの省は、5割以上に留まっている。
第一次産業比率が低下した省について、北京及び東北3省等については、国有比率が引き続き高く、国策として産業化が進められてきたことが伺われる。これらの地域では、既に工業化比率が高いが国有企業の改革が大きな課題として残っている。
これに比べて、沿岸の市・省では、第一次産業比率の低下とともに、国有率も低下しており、地域・民間の活発な活動が背景にあることが分かる。
さらに、工業生産額を国有企業、集体企業、個人・その他企業の企業形態に分けて見ると、地域・民間の活発な部分も2つに分けられる。
福建、広東、海南省及び上海・天津市については、個人・その他企業の比率が高い。このうち3つの省については、国外にでて華僑となっている者が多くその投資が大きな役割を果たしていると見られる。
他方、浙江以北の省は、農業の生産性が高く国内でも最も人口密度の高い地域でもあるが、その蓄積を背景に地域が経営する集体企業の生産の比率が多くなっている。
中国は、'80 年代以降、次第に経済成長を速め、'90年代には著しい成長を遂げた。こうした状況から、中国の経済開発は、
もはや離陸しつつある
と見られよう。
産業全体の中での工業化比率は、未だ低いとしても、国全体としての規模は大きく、既に、日本・韓国・東南アジア諸国を始め世界全体の産業に大きな影響をもたらしている。さらに、WTO加盟によって、一層大きな影響をもたらし、
今後とも、結果として、産業構造の調整を要請してくる
こととなろう。
一方、国内的には、広大な国土の中で、成長拠点は南部の沿岸地域に限られており、
内陸部との所得格差が著しく大きなものとなってきている
。現在は、この解消を図るため、
内陸部の経済開発が重要な課題
となっている。
また、こうした課題を解決していくためにも、非効率な国有企業の負担を解消する必要があり、
国有企業の改革も同時に進めるべき大きな課題
である。この改革には、既に、本格的に着手され始めている。
さらに、このような課題は、
急速な経済成長の中でこそ解決が容易
である。開発の停滞があれば、格差への不満の表面化、国有企業改革にともなう転職者の吸収の混乱などが予想され、困難な状況が懸念される。
しかし、世界同時不況の中で、中国の開発速度にも影響が現れつつある。今後、国際的な事業展開とともに、
国内需要を喚起しつつ開発を促していくこと
が大きな鍵となろう。
統計データ
参考文献等
北村嘉行編「中国工業の地域変動」大明堂2000年
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(Oct.03,2001.)