<リプレイ>
●赤に埋もれる古代の羽 目も眩む程の鮮やかな赤い血溜まりと、鼻を突く強烈な死の匂い。 そして血の海に沈む老女の躯と――心臓を手にした、仮面のリリス。 リビングに突入した瞬間飛び込んできたそんな光景に、能力者達は思わず顔を顰めてしまうが。 だが、それも一瞬。 もう老女を助けられないのならば。やるべきことは、ひとつ。 「……偽りの永遠を、立ち切るだけだ」 美咲・紅羽(アクセラレータ・b65300)は仲間と共に、改めて表情を引き締めた。 『! 邪魔が入ったですって!?』 そして上げられたリリスの顔を覆うのは、シャーマンズゴーストに似た仮面。 その言動から、このリリスにとって能力者達の突入は予想外であったようだ。 リリスは能力者の存在を感知できるはず。それに、報告された数々の謎。 その真の目的は一体何なのか――。 『例え邪魔が入ろうとも……全ては王のために!』 能力者の思わぬ介入に驚きはしたものの。仮面のリリスは、血に塗れた老女の躯を抱き上げて。 「……!」 手にした一枚の羽を、赤に染まった老女の胸へと埋め込んだのだった。 そして、老女に与えられたのは――永遠の命という名の偽りの生。 ゆらりとおもむろに身を起こす老女。だがその姿は永遠の命を得た人間のものでは決してなく。リビングデッドと化した、変わり果てた姿であった。 謎のファラオにマアトの羽、ならばてめぇはマアトフェイクってか? と。 四柄衆・砕(四柄衆・b31755)は、何とも楽しげな非日常だと吐き捨ててから。そのふざけた仮面叩き割ってやると、真っ直ぐにリリスを見遣る。 それと同時に姿を現したのは――古代エジプト風の薄衣を纏う、数体の老人リビングデッド。 正面から心臓を抉られた老女、そして能力者達の側面から新たに現れた老人が各2体ずつ。 能力者を3方向から挟むように迫ってくる。 逆に仮面リリスは血に塗れた衣を靡かせて。広いリビングの最奥まで下がるつもりのようだ。 そして。 「さぁ、始めようぜっと」 誰よりも早く動いた紅羽を覆う魔狼のオーラの輝きが。 激しい戦いの、口火を切る。
●儚き永遠 (「永遠の命……は、ね……きっと、とっても……寂しいの……」) 響・誘花(誘いし花のように・b63080)は前へと出てリフレクトコアを展開しつつも。瞳の光を失った老女に目を向け、思う。 独りぼっちの永遠は、たぶん死にたくなるくらい寒いものだと。 「おばあちゃん……だから、ごめんなさいなの……」 誘花はそう呟き、迫る老人達の怖さに負けぬように。ぐっと、丸盾を握り締める。 「ローマには至らせねぇよ、てめえもてめえの王様もな」 砕も得物を頭上で旋回させて前線へ踊り出て、そう煽るが。 仮面リリスはふわりと衣を揺らしリビングデッド達に完全に前を任せ、広いリビングの最奥に位置取ったのだった。 そして目を覆うような光を放つのは、神栖・綾(蒼月に照らされし桔梗・b47597)が空中に描いた強力な魔法陣。 死が近づくと感じる恐怖と未練。そしてその気持ちが大きい程、人は思う――生きたい、と。 そして愛しい孫を想う心優しき老女もその気持ちは同じで。 永遠の誘惑に、手を伸ばしてしまったのだ。リリスの甘い言葉にそそのかされて。 (「その思いを利用し踏みにじったリリス、必ずや滅して見せます!」) 綾は自己強化を完了させて。まず前に立つリビングデッドから撃破すべく、仲間達と攻勢に転じる。 (「人の気持ちを利用して、こんなの、許せないよ」) そうリリスに憤りを感じながらも。物憂いな表情をするのは、天鳴・遊司(凍て蝶の歌屑・b01110)。 孫を想う被害者の老女に、自分を可愛がってくれた祖父母が重なる。 (「……あの時お祖母ちゃんも同じ状況だったら、永遠の命、欲しくなったのかな」) そんなことをふと思ってみるも。流石に自惚れだなぁ、うん、とひとつ頷き、前を向いて。 岸納・春途(朝凪の蒼狐・b01898)へと、白燐蟲の加護を施した。 その淡い輝きを受けて。 (「……永遠の命……くだらないことをする奴が、居るんだな」) 春途は颯爽と前へと出ると、唸りを上げるチェーンソー剣を容赦なく眼前の敵へと振るう。 そして追撃が発生し、轟音のような声を上げるリビングデッドを見ながら。 せめて彼らを早く眠らせてやらなきゃいけない。そう、思うのだった。 「わんこ、しっかりお願いね」 何事も最初が肝心。今回が初依頼となる七辻・透(ウルフズブライド・b67899)は、真ケルベロスベビーにゴーストガントレットを施し、しっかりと声を掛けて。勇ましく駆ける相棒を前へと送り出した。 (「何が目的かは分からないけど、その巫山戯た所行はこれで終わりよ」) 自らの立ち位置や周囲の様子に気を配りながら。ネルケ・リヒトシュヴェーア(幼き処刑槍・b60541)の放った無数の吸血コウモリが、戦場を飛び回る。 「あなたたちの仮初めの命、頂くわ」 敵の血を一滴残らず吸い尽くさんといわんばかりに。 だが、リビングデッド達も3方向から挟むように能力者を取り囲まんと、ひたすら前へと歩みを進めて。目の前まで迫った前衛の能力者達に、老いた見た目とは違った豪腕を次々と振り下ろしたのだった。 「……結構、重いな」 紅羽はそう顔を顰めつつも、三日月の弧を美しく描く強烈な蹴りを逆に敵へと返して。 「火之迦具土神よ! その炎を以って彷徨える魂を天へ還えしたまえ。邪なる者には全てを焼き尽くさんことを!」 紅羽と呼吸を合わせて動いた綾の炎を宿す魔弾が、1体の老人リビングデッドの身を激しい魔炎で焦がす。 そして次に戦場に吹き荒れるのは、灼熱の炎とは逆の凍える吹雪。 「永遠の独りぼっちは……きっとこれよりももっと寒いから……これに耐えられないなら、諦めて欲しいの……」 誘花の放つ吹雪の竜巻は老人リビングデッドだけでなく、仮面リリスをも巻き込んで吹き荒れる。 魔氷を伴う竜巻はとても寒いけれども。永遠の孤独はもっと寒いだろうから……そう、老女に言い聞かせるように。 「おいおい、相手はこっちだぜ? 心臓捨てたら頭もボケたか?」 横から迫り来るリビングデッドを後衛へと抜かせぬように。砕は漆黒の斬撃を敵へと見舞い、同時に体力を吸収して受けたダメージを軽減させる。 物が少ない広いリビング。 遮るものが何もなく、前へ前へと積極的に出てくるリビングデッドの群れに対し、現状、敵味方入り乱れての戦闘となっている。 さらに敵の出現位置が、能力者達を戦闘開始より3方向から取り囲んでいて。気を抜けば、後衛へとすぐに抜かれる危険も孕んでいる。 そしてその乱戦を最奥から見つめるのは、狡猾な仮面のリリス。 体力任せのリビングデッドとは違い神秘的な能力に長けたリリスは、広範囲に及ぶ能力者の攻撃に対しての耐久性も強く、今のところ僅かしかダメージを受けていなかった。 そんなリリスが、次に取った行動は。 『我が王のために……存分に、踊り狂うがいい』 「!!」 ふわりと、妖艶な踊りを始めるリリス。 その神秘的な姿を瞳に捉えた能力者達の身体が意思とは関係なく動き出し、リリスと同じように舞い踊り始める。 「……わんこのダンスも可愛いわね」 自分とともに超踊りにかかった真ケルベロスベビーを見つめ、思わずそう呟いてしまう透。 いや、それどころではない状況だが……確かに、踊る真ケルベロスベビーは見ていて可愛い。 同じく超踊りのバッドステータスを受けた春途や綾も何とかそれを振り払おうとするも。強力な踊りの魔力はそう易々と解けるものではなかった。 そして仲間達が踊る中、リリスの誘いを回避した遊司は今度は透に白燐奏甲を掛けて。 「無粋ね、ダンスの誘い方がなってないわよ?」 ネルケの成す浄化の風が、仲間の状態異常を解除すべく戦場を吹き抜ける。 だがリリスの魔力で施されたのは、『超』踊り。多少状態は軽減されたものの、まだ完全にバッドステータスから皆が回復するには至らない。 そんな戦況に、ここぞとばかり拳を振り上げる老人リビングデッド。 とはいえ、能力者の攻撃を受けてきたリビングデッドの残り体力は少なく。 「……悪いな。気持ちはわからないでもないが、人の道を外れたアンタ達を見逃すわけにはいかない」 紅羽の回避困難なクレセントファングが炸裂して。最もダメージが蓄積しているリビングデッドを的確に捉え、地に沈めたのだった。 ――そして。 「!!」 能力者達は、思わずその目を見張る。 本来ならば、倒れた後も死体が残るはずのリビングデッドが……まるで空気に溶けるかのように、跡形なく消え失せたのだった。 今までの常識から外れた、謎の多い仮面リリスの引き起こす事件。 再び誘花が起こす吹雪の竜巻と連携をはかり、バッドステータスから自力で回復した綾はもう一度炎の魔弾を迫るリビングデッドに撃ち込みながら。 「あなたたちの目的は一体何なのですか?」 答えてくれるとは思ってはいないが。そう、仮面リリスに向けて問いかけてみる。 だがやはりリリスはやはり何も答えずに。ただ自分の邪魔をする能力者達に敵意を向けているだけである。 「全く、厄介な真似をしてくれるぜ」 まだ踊り状態から回復していない仲間が数人いることを確認して。 砕が施した赦しの舞が、リリスの魔力から能力者達を解き放つことに成功する。 それからリリスは、今度はじわじわと体力の削られた自らや老人達を癒すべく歌を歌うも。 再度遊司から施された白燐蟲の輝きに力漲らせ、彼女と同時に動きをみせた春途の鋏角齧りが。 「爺さん婆さんだろうが、今は容赦しねぇ」 リリスによって癒された以上の強烈なダメージを眼前の敵へと与え、また1体、老人リビングデッドに止めを刺したのだった。 そのリビングデッドの死体も、やはり闇に吸い込まれるかのように消滅する。 謎が多く、気になることも多々あるが。 攻撃を敵1体に集中させ、まずは老人のリビングデッドから狙って打ち倒していく能力者達。 体力と腕力だけは高いリビングデッドと、リリスの厄介な超踊りや回復能力の前に、多少時間はかかったものの。味方や自らの体力や状態異常からの回復に手を抜くことなく戦線をしっかりと保って。 リビングデッド5体全てを、危なげなく殲滅させたのだった。 元凶である仮面リリスを確実に仕留めるために。 そして……その正体を探る糸口を、見つけるために。
●仮面の下の謎 老人リビングデッドを全て打ち倒した今。邪魔をする存在は、何もない。 ゴーストの殲滅が目的ではあるが。この奇怪な事件の謎を少しでも解き明かせないだろうかと。 能力者達は、ある試みをすべく動きをみせたのだった。 「仮面の下、見せてもらうぜ」 「あんたをぶっ潰したくて、うずうずしてたよ」 紅羽のクレセントファングと春途の鋏角齧りが同時にリリスの仮面目掛けて打ち込まれ、続けて誘花の丸盾が後方から放たれる。 そして砕は胸をガードしながらも。 「おいおい。己には永遠をサービスしちゃくれねぇのか? こっちにもよこしな」 こう、仮面リリスを煽ってみたのだった。 流石に心臓を抉られるのは全力でゴメン被るが。相手は心臓を抉って羽を埋め込むリリス、何か反応があれば儲けものだ。 だが、そんな砕の挑発にも。仮面リリスは全く興味を示さなかった。 さらにリリスの狡猾さ故に逃亡も警戒していた能力者であったが。 そういう仕草も、この仮面リリスは一切みせない。 「絶対逃がさねぇよ。だがてめぇの知ってる事を話せば、己達が動揺して隙が出来るかもしれねぇぜ」 試しに砕がカマをかけて、再びこんな言葉を投げてみるも。 逃げるどころか、むしろ全力で自らの邪魔をするものを排除しようと。殺意を漲らせ、挑発の言葉にも何も応えず、リリスは果敢に攻撃を仕掛けてくるのだった。 『全ては、我らが王のために……!』 この台詞を、呪いのように何度も繰り返しながら。 「癒しの力を込めし符よ! その力を以って傷を癒せ!」 能力者達の攻撃を一身に受けるリリスが自らの傷を癒しに回った隙に。綾や遊司も、これまでの戦闘で受けた仲間の体力回復を大幅にはかって。 「おすわり」 透は部位狙いで仮面を剥ぎ取ってみようと試みる仲間達が攻撃を集中させる中で。真ケルベロスベビーをちょこんとお座りさせ、労うように回復を施して。ネルケもバットストームで吸血コウモリを飛ばし、リリスの仮面を狙う仲間の援護に回る。 だが、命中率の低下する部位狙いということもあり、思うようにピンポイントに仮面に攻撃を当てることは難しく。さらにその上、攻撃によって仮面を剥ぎ取ることは困難を極めて。 「おばあちゃんたち、騙しちゃめーっなの……」 ぺちこんっと盾を飛ばした誘花の攻撃が、仮面リリスの急所にモロに当たると。 ダメージの蓄積した神秘的な古代エジプトを思わせるその身は、跡形なく消え去ったのだった。 「……消えちゃうなんて、そんなの、かなしいよ」 今までの仮面リリス依頼の報告と同じように。やはり今回も忽然と消えた、老人達の死体。 戦闘によって倒れた写真立てをそっと起こしながら。一番泣きたいのは、あのお婆さん達とその家族の人達だもん、と。遊司は涙を堪え、写った老女の大切な孫娘らしき人物を見つめる。 そして、写真の中で微笑む彼女の幸せを、心から願ったのだった。 「おいで、わんこ」 透は真ケルベロスベビーを撫で撫でしながらも、強い違和感を感じていた。 死んでゴーストになったとしても、それは永遠の命とは違うのではないか。 そして永遠の命を語る仮面のリリスは、一体何がしたいのだろうか。 「おばあちゃんたち……安らかに眠ってね……」 夜の静けさが残る中、誘花もそう老女の冥福を祈りながらも。 不可思議な格好や言動のリリスを思い出し、大きく首を捻る。 「……終わった、か」 だが、全部が終わった訳ではないだろう。 多くの謎を残したままのこの一件に、春途はきっと何か起きるような気がすると感じていた。 そしてそれは、他の皆も同じで。 おやすみと軽く目を瞑って黙祷した後、思わず紅羽も呟く。 「……また、慌しくなりそうだな」 「あの世からお孫さんを見守って下さい……」 綾も老女の冥福を祈りながらも。これが何かの大きな災いに繋がらないことを、切に願う。 「気になることは多々あれど、今は早くここを去りましょ」 ネルケはそれぞれ思いを巡らす仲間達を見回し、万一に備えてそう声を掛けた。 砕も同じく余計なことはせず、足早に撤収を始めて。 そして、もう何者の存在もないリビングを一度振り返ると。 (「……手前らの絶望は己が連れて行く。だから今度こそ本当に、眠りな」) 永遠を願って儚くも散った犠牲者達の無念を背負う覚悟とともに。 その安らかな眠りを、心から祈ったのだった。
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参加者:8人
作成日:2010/01/22
得票数:楽しい1
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知 的1
せつない18
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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