|
きょうの社説 2010年1月29日
◎「学都石川」の発信 大学と地域一体で魅力PR
石川県は新年度に大学コンソーシアム石川と連携して「学都石川」の魅力の情報発信に
力を入れる。いわゆる大学全入時代を迎えて、学生獲得をめぐる全国の大学間競争が激しくなっているが、それは学生を引き付ける魅力がその地にどれだけあるかを競う地域、都市間競争の激化でもある。大学は地域振興の資源、知的財産とも位置づけられ、大学と自治体が一体となって学生を呼び込む取り組みが今後ますます重要になると思われる。文部科学省の2008年度調査によると、石川の人口10万人当たりの大学・短大・高 等専門学校数は1・62校で、京都(1・86校)に次いで2番目である。金沢市とその近郊を含む金沢都市圏の学生数は約3万2千人に上り、東京など大都市圏以外で、県外からの学生流入数が流出数を上回っている唯一の地域である。金沢が学都と呼ばれるゆえんであるが、少子化の進行で今後もこうした状況が続くという保証はない。 人口に占める学生数の割合が高いほど、大学と都市の活力の相関関係は強まり、大学の 盛衰が都市の盛衰に直結することから、学園都市を標榜する全国の地方都市同士の競争の激化は必至である。 こうした状況から、県と大学コンソーシアムが連携してPR戦略を展開するのは時宜に かなっている。具体的には、石川で学ぶ学生の特典として、兼六園周辺の文化施設の無料パスポートを提供したり、地域貢献活動に熱心な学生を知事が認証する制度などが考えられているという。 これらは、学生を大事にする地域の思いを表すうえでも良いアイデアといえる。金沢市 が新年度に施行する「学生のまち推進条例」もその一つに挙げられる。同条例は、学生と市民が協力して元気な地域コミュニティーづくりを進めることを目的にしている。 県はまた、県外からの就学促進と同時に、高校生の地元大学進学率を高めることにも力 を注ぐ方針を示している。これも地域の将来を担う人材確保のために望まれる取り組みである。大学と地域がともに成長する施策をさらに研究してもらいたい。
◎秋葉原事件公判 裁判員制度にも重い課題
東京地裁で公判が始まった秋葉原の無差別殺傷事件は、弁護側が被害者や目撃者などの
証拠採用を拒んだため、証人42人が出廷し、8月までに初公判を含めて22回を要するなど長期化が避けられない見通しとなった。争点や証拠を絞り込む公判前整理手続きを10回重ねても、このような大事件では審理の短縮が容易ではないことを示している。被告は裁判員制度の施行前に起訴されたが、「7割が3日以内、2割が5日以内」とし た最高裁の想定をはるかに超えており、こうした特異なケースに制度が持ちこたえられるのか重い課題を突きつけている。裁判員の負担をどのように軽減し、審理の迅速化と真相解明を両立させるのか。公判を通して課題を詰める必要がある。 加藤智大被告は、7人を死亡、10人を負傷させた事件について、起訴事実をほぼ認め 、被害者への謝罪や反省も口にした。被害者への手紙には「どうせ死刑だと開き直らず、すべてを説明したい」と伝えていた。検察側が示した「自分を無視した者たちへの復讐」というゆがんだ動機がどのように形成されたのかが焦点となる。 初公判では、被告の責任能力をめぐり、検察、弁護側が対立する構図となった。責任能 力を争う事件で一般市民が精神鑑定などをどこまで理解できるかも裁判員制度の課題になっている。証人が膨大な数に上るのは、「被告は当時の状況をあまり覚えていない」として弁護側が被害者らの調書採用に反対したためである。法廷証言を重視する裁判員制度も意識した弁護活動だろうが、被告は現行犯逮捕されており、事実関係に争いがない点まで立証するのが果たして妥当なのかどうか。 同じ日に大阪地裁で無期懲役(求刑・死刑)が言い渡された中国人妻の替え玉殺人事件 では、被告が完全否認し、公判は40回以上に及んだ。今年の裁判員裁判は同様の死刑求刑事件や否認事件なども予想され、鳥取や埼玉で発覚した連続不審死事件もいずれ対象になるかもしれない。比較的順調に推移してきた裁判員裁判はこれからがまさに正念場である。
|