※事件の続報は以下の記事を参照してください。▼御殿場事件、20日に再審始まる[御殿場事件(PART5)]
再び有罪判決。でも・・・
昨日の昼間に速報を見たが、高裁でも有罪判決が出ちゃったか。
“静岡新聞『御殿場事件 元少年4人二審も実刑 東京高裁』(ウェブ魚拓)”より抜粋
御殿場市で2001年9月、少年10人が当時15歳の少女に暴行しようとしたとされる事件で、強姦(ごうかん)未遂罪に問われた当時16―17歳の元少年4人の控訴審判決公判が22日、東京高裁で開かれた。中川武隆裁判長は4人いずれも懲役2年の実刑とした一審の静岡地裁沼津支部判決を破棄し、懲役1年6月の実刑判決を言い渡した。無罪を訴え控訴していた4人は上告する方針。
“朝日新聞(静岡版)『被害者供述に信頼性/御殿場少年事件』(ウェブ魚拓)”より抜粋
一方、量刑については「被害者の被害申告にも問題があった」として、当初、被害少女がうその被害日時を申告し、結果的に犯行日が1週間前に変わった点を指摘、一審判決よりも減刑した。
でも、高裁が「被害少女が嘘の被害申告をした」という事実を量刑に反映させたというのは驚いた。こんなのって前例はあるのか?
で、この判決を受けての被告人弁護団のコメントは以下の通り。
・犯行日が変わるなど、事件の発端からして重大な疑義があるものに有罪判決を下すのは刑事裁判の大原則に反する。(朝日新聞より)
・極めて不当。主張してきた客観的事実の認定について判決は検証もしていない。(毎日新聞より)
・控訴趣意書で主張した点を無視した判決。4人が無罪になれば、ほかの元少年の判断もひっくり返す必要があり、司法政策的な配慮があったのではないか。(読売新聞より)
識者の方々の方は次のようにコメントしている。
“毎日新聞(静岡版)『御殿場の婦女暴行未遂:控訴審判決、4被告に実刑 冤罪の主張、再び退ける /静岡』(ウェブ魚拓)”より抜粋
◇「結論先に」の印象−−多田元・南山大法科大学院教授(刑事法)の話
実刑という結論が先にありきの判決という印象だ。被害者の供述を「日時変更以外の部分は同一性がある」としたが、その根拠の説明は非常に不自然。少年の自白供述についても、「信用できる」とする理由が述べられていない。上告審では、被害者の証言の信用性をさらに詳しく検討する必要がある。
“読売新聞(静岡版)『自白の信用性追認 御殿場少年事件控訴審』(ウェブ魚拓)”より抜粋
元東京家裁調査官の佐々木光郎・静岡英和学院大教授(少年非行論)
「少女の供述と元少年の自白だけに頼り、物証などの客観的な証拠が乏しかった。司法判断は尊重するべきだが、婦女暴行未遂という凶悪事件だっただけに、捜査段階で事実確認を厳格にやるべきだったのではないか。あまりにも事実認定に時間を費やしたという点で特異な事件であり、課題を残した」
また、日テレ『リアルタイム』のコメンテーターを務める元警視庁捜査一課長の田宮榮一氏は、有罪論の立場を取りつつも
警察の捜査のお粗末さについて批判していたそうな。
とりあえず、「警察の捜査は適切だったかどうかについて疑念がある」という点については識者の意見は一致しているようですな。
[関連リンク]▼産経新聞『御殿場の少女暴行未遂、元少年4人に控訴審判決も実刑』(ウェブ魚拓)▼笑月ホームページ『刑部:御殿場事件控訴審(初公判)傍聴記』▼笑月ホームページ『刑部:御殿場事件控訴審(最終弁論)傍聴記』疑問に答えていない判決文
さて、判決文そのものはまだ見れてないのだけど、新聞各誌や
【長野智子blog『御殿場事件・判決の矛盾』】によると、控訴審の判決は次のようなものらしい。
・少女の「被害に至る経緯及び被害状況」の供述には一貫性があり、変更後の供述は十分信用できるとして信用性を認定。
・被害日を9月16日から9日に変更した点は「男性とのデートを隠すためで、交際に厳しい母親との関係を考えると理解できる」としている。
・元少年4人の自白供述は「16日の犯行を前提とした部分を除き、根幹部分は十分信用できる」とし、任意性についても認める。
・しかし、否認後の供述や9日のアリバイはいずれも否定した。
・被害者の供述の矛盾点として出てきた「事件当日雨が降っていた」「9日に存在するはずの無いロープ」について、雨については「降ってたどうかは断定できない」としたが、ロープの件はスルー。
・「捜査機関の当初の裏付け捜査が万全を尽くしたとはいえなかった」と、捜査のお粗末さを批判。
う〜む・・・。事件の疑問点を払拭できていない感じのする判決内容だな。
この機会に、事件の疑問点について再び触れてみることにする。
1:「雨が降った記憶は無い」という矛盾
気象庁ホームページで
【事件当日(01年9月9日)の御殿場市の降水量データ】を見ると、
犯行時間帯はもちろん、その日はほぼ一日中雨が降っていたことが分かる。

御殿場市の01年9月9日の降水量(気象庁HPより)「雨は降った、降らない」の水掛け論
この点について高裁は、
「確かに周囲では降っていたが、現場だけは降っていない可能性がある」と述べている。
また、2ちゃんねるの御殿場事件スレでは、雨が降っていたかどうかの話が出ると「現場だけ降らなかった可能性はあるだろ」という意見と「そんな事はありえない」という意見が衝突していた。
「犯行時間帯に雨が降っていたか?」という議論はどうも水掛け論になってしまうようだ。
雨が一日中降ってりゃ地面は濡れてるだろ
高裁の判断や上に書いた水掛け論の話は、「犯行時間帯に現場で雨が降ったか?」からスタートしている。
ここで、【これで有罪と決め付けるのは乱暴では?[御殿場事件(PART3+)]】の記事でやった事の繰り返しになるが、被害者の訴えの内容を思い出してみる。
被害者は、駅で被告人らに絡まれ公園に連れて行かれ、そこでしばらくの間あーだこーだ話した後、
公園内の芝生の上に押し倒されウンヌンされそうになった――と話している。
この
「公園内の芝生に押し倒されウンヌンされそうになった」というのが肝で、被害者の供述が正しいのなら、
公園の芝生は雨で濡れヌレ。
→そこに被害者が押し倒される。
→芝生の上で組み敷かれ、背中やお尻がグショグショに。という流れが成立してもちっともおかしくない。
さて、気象庁のデータを見ると、
この日の御殿場市はほぼ一日中雨が降っていたワケだから、地面は濡れていたと考えるのが自然である。でも、犯行現場だけ濡れる事は無かったと考えるのはムリがあるのではないだろうか。
以上より、高裁は被害者の「雨が降った記憶は無い」という証言の矛盾を検証するのに、「犯行時間帯に雨が降っていたかどうか」でなく、
「公園の地面は濡れていた」という推測に合理性が欠けているかどうかという点からアプローチするべきだったのではと私は思った。
2:被害者の供述に一貫性があると言えるのか?
許容誤謬率の値はいくつですか?
判決文に
「犯行日については変更したが、経緯や状況については、具体的でほぼ一貫しているので、信用性を認められる」
と書かれているが、被害者は次のように供述を変えてるんだよね。
“長野智子blog『御殿場事件・判決の矛盾』”より抜粋
*「手首をつかまれ、無理やり連行された」は、後になって、「声をかけられたのが嬉しくて、自分からついていった」と、変わった。
*「脅されて、母に嘘電話した」は、後になって「電話はしていない」と変わった。
*「犯行時間は「夜の10時から11時くらい」が、「夜9時半前後」に変わった。
*「帰宅時間は、深夜12時すぎ」が、「夜11時ころに帰宅した」に変わった。
百歩譲って、事件があった日を変更するのに正当な理由があったとしよう。それでも「事件が何時頃あったのか」や「どんなやりとりがあったのか」というのはブレないものだと思うのだが・・・。
更に、犯行時間や帰宅時間のズレが誤差の範囲だとしよう。「手首をつかまれ、無理やり連行された」が「声をかけられたのが嬉しくて、自分からついていった」に変わったというのはズレっていうレベルじゃない気がする。
そこに極めつけの、「門限を過ぎていて、親に怒られるのが怖くてウソをついた」発言。
・・・。
話は変わって、判決で「男性とのデートを隠すためで、交際に厳しい母親との関係を考えると理解できる」と述べられているが、嘘をつきたくなるのは私も理解できる。だが、
捜査の根幹に関わる犯行日について嘘を言っていい理由にはならねぇだろ! こうグデグデでは、被害者の供述を信用するかどうかはもっと慎重になるべきだと思うが、裁判官が手放しマンセーで供述を信用しているってのは「理解不能だ」(
『アバタール・チューナー』を知ってる人は脳内保管して欲しい)。
供述を信用できるというのなら、信用するに足る理由をもっと説明して欲しいな。
心証の悪さはどっちもどっち
脱線するが、被告の人達の風貌がD〇Nに見えるという理由で有罪論を主張する人がいる。被告の人達には申し訳ないが、私はテレビを見て、彼らは素行の悪さから警察にマークされていたのかなという印象を持った。
だが、心証が悪いというのは被告も被害者もどっちもどっちな気がする。
暴行されそうになった人間は、いつも以上に警戒するだろう。だが被害者は、
暴行されそうになってから1週間後、出会い系で知り合った“素性をよく知らぬ男性”と夜遊びに出かけている。
これを聞くと「なんだかな〜」と思うのだが、そう思うのは私だけ?(汗)
3:「「9日の調書」にロープが出てくる」怪
3つ目の疑問は、控訴審で新たに出てきた公園のロープの話。
これは、
警察が「9日に関する追加的な捜査」を怠っていた事実を示すものではないかと思う。
調書をそのまま流用した?
公園の東屋に張られていたロープの話は、当初犯行日と思われた
“16日に関する調書”を作成する時に出てきたらしい。
となると、警察だってちゃんと仕事をするのだから、ロープが16日にあったかどうか裏付けを行っているハズだ。また、
その裏付けを取る際に「何日からロープは張られていたか」も確認しているかもしれない。
さて、犯行日が9日に変更された際、“9日の調書”を作成するために
ロープの実在性についてもう一度チェックが入るのが自然であると思われる。
となると、
ちゃんとチェックが入っていれば、その時点で“9日の調書”からロープの話が削除されるor「捜査には関係ない」旨が記載されるハズだ。
しかし、
“9日の調書”には“ロープに関する記述”が修正されることなくそのまま残っていた。
これは、
犯行日という事件の根底が変わったのにもかかわらず、警察は追加的な捜査をロクに行わないで調書や証拠を流用したのでは?という疑念を呼ぶものじゃないかと考えることができる。
なお、「警察は追加的な捜査を行っていないのでは?」という疑念は今年5月に地裁で判決が下りた裁判の中でも噴き出している。
“公務員の不祥事『捜査警察官を証人尋問したら「内容、記憶定かでない」/静岡』”より
御殿場市で01年9月に起きた婦女暴行未遂事件で強姦未遂罪に問われた当時16歳の男性被告(21)の第9回公判が28日、地裁沼津支部であり、一連の公判で初めて被害にあった高校生少女(当時15歳)の捜査を担当した女性警察官の証人尋問が行われた。
当初、少女が事件発生日を「9月16日」としていたが、事件発覚から約10カ月後の02年7月になって「9月9日」と供述変更したことなどを根拠に、捜査の不十分さを追及され、女性警察官は「供述変更後は、少女の手帳や学校関係者の証言などを基に裏付け捜査をした」と述べたが、捜査内容については「記憶が定かではない」などと述べ、捜査のいいかげんさを露呈した。
姉川博之裁判長の「日付が変わり、事件をおかしいと思わなかったか」との問いに、「少女の証言を考えると事件はあったと思う」と話しただけで、裁判長の質問への直接の答えはしなかった。
この話は
2006年11月29(又は28)日付けの毎日新聞(静岡版)の記事がソースである模様(【Yahoo!ニュース過去記事検索サービス】を参照)。
控訴審判決雑感
結局、控訴審でも事件の疑問点に対し答えは出されなかった。
検察は有罪に持ち込めるだけの確度ある証拠を集めるものだと思うが、ここまでツッコミ所が多いというのは検察のヘタレっぷりを示している事に他ならない。
メインの控訴審は終わり、舞台は最高裁に移ることになるが、まだその前に、5月に一審判決が下りた人の控訴審と再審請求という2つの審理が残っている。
とりあえず検察には、この2つの場で事件の疑念を払拭できるだけの説明をしていただきたいものだ。
[関連記事]▼御殿場事件、20日に再審始まる[御殿場事件(PART5)][スポンサードリンク]
結局最高裁が家裁の判決を差し戻したことから、裁判所のメンツを立てるための判決という気がする。
記事の方で書いてますが、9日の御殿場市は一日中雨が降っていたんですよね。
となると、市内の地面はビショビショになってたと見るのが自然であって・・・。
裁判では「事件が起きた時に雨が降っていたのか?」を争点にしていますが、上述から「“その時”に雨が降ったかどうか」の議論は重要性が劣ると思っております。