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アフガン・遠い安定:パキスタンのタブー/下 「米追随でテロ急増」国民不満

 ◇中国台頭への期待感

 「もう限界だ。いつまでこんな苦しみを押し付けられるのか」

 パキスタン中部パンジャブ州の州都ラホールにある最大規模のムーン市場。昨年12月に45人が死亡した連続爆破テロで、経営する衣装店が全焼したラフィークさん(30)は、焼け跡を見ながら体を震わせ、激高した。

 テロは卑劣だった。買い物客で混雑していた路上で最初の爆発があり、逃げ惑う人々を狙うように次の爆発が起きた。しかし、市民の怒りの矛先はザルダリ政権に向かう。汚職体質への批判から孤立するザルダリ氏は、米国の支援で政権維持を図っているとみられている。米国の戦争に協力的な政府の姿勢が、テロを急増させているとの不満だ。

 「アフガン戦争開始後のテロは、市民の殺害に何の法的責任も取らない米国への反感に根ざしている。なのに、いつまで米国の言いなりでいるつもりなのか」。今回のテロで父親を失った大学生ウスマーンさん(21)の問いかけは重い。

 「アフガンの安定にはパキスタンの協力が不可欠」という米国の論理は、パキスタンでは「戦争失敗の責任転嫁」と映る。人々は今、アフガン増派で戦闘をさらにエスカレートさせようとしている米国の真意に疑念を深める。同時に、米国への新たな対抗軸として中国の台頭に期待感を高めている。

 北部カシミール。首都イスラマバード郊外から中国へ抜ける幹線道路「カラコルム・ハイウエー」の拡幅工事が昨年以降、中国人技術者の指導の下、急ピッチで進む。中国貿易に携わるジャミールさん(43)は、「これで貿易量は3倍に増える。パキスタンで今、唯一の明るい話題だ」と言った。

 南西部バルチスタン州。アラビア海に面した戦略的要所のグワダルには07年、中国の支援で大規模な港湾施設が完成した。中東などからの原油・天然ガスを中国に陸送するため、グワダルと新疆ウイグル自治区を結ぶ鉄道整備計画も進む。さらに州政府は昨年12月、ユダヤ人が幹部を務めるオーストラリア拠点の合弁企業との資源開発契約を打ち切り、中国企業との契約を決定。駐パキスタン米国大使が「懸念」を表明する騒動に発展した。

 パキスタンの親中政策は元来、インドをけん制する文脈にあった。しかし、中国が急速に国力を増すなか、米中間の「パワーゲーム」をにらんだものへと変質しつつある。【ラホールで栗田慎一】

毎日新聞 2010年1月28日 東京朝刊

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