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アフガン・遠い安定:パキスタンのタブー/上 クエッタ タリバン指導部の「潜伏地」

 ◇対米闘争の火薬庫

 ◇物資輸送に安全保証料

 「アフガニスタン国境までの安全保証料として、武装組織に1日約40万ルピー(約48万円)を払っている」

 1月上旬。切り立つ岩峰に囲まれたパキスタン南西部バルチスタン州の州都クエッタ。アフガン駐留の北大西洋条約機構(NATO)軍から物資の輸送を受託している運送会社幹部が打ち明けた。

 200メートル当たり200ルピー(約240円)の「保証料」を支払わなければ、運転手が殺される恐れが高まる。支払い拒否が原因とみられる同州での襲撃は半年間で10件に上った。

 同州を通過する輸送車両は1日約50台。業者は「保証料」を通常の輸送費に上乗せして荷主に請求しており、NATO軍側から1日数千万円以上の大金がタリバン側に渡っている計算になる。

 ◇「経済損失狙い」

 武装組織はアフガンの旧支配勢力タリバンの傘下にある。「タリバン指導部は、アフガンに派兵している各国に対し、アフガンで人的損失、パキスタンでは経済的損失を与えることで、撤退を促す戦術を取り始めた」。運送会社幹部の指摘だ。

 タリバンは、バルチスタンにいたアフガン難民の神学生らが94年に旗揚げし、パキスタン当局も深くかかわったとされる。米国が、バルチスタンをタリバンの“子宮”とみなし、オマル師を頂点とする最高評議会(シューラ)があるとみる根拠につながっている。

 「アフガンの安定にはパキスタンの協力が不可欠」とするオバマ米政権は、パキスタン北西部に続いてバルチスタンでも無人機による攻撃拡大を計画。アフガンに増派予定の米兵3万人以上もバルチスタンとの国境付近に集中投入される。

 ベテランのパキスタン人記者は「米国は、これまでタブー視されていたバルチスタンに手を突っ込み、パキスタンを揺さぶろうとしている」と指摘する。

 クエッタ市内は今、極度に緊迫した雰囲気に包まれている。私服の治安要員があちこちで目を光らせる。外国人がスパイ容疑などで拘束される事件も起きている。米軍の無人機攻撃をけん制するように、街中に設置されたレプリカの対空砲がアフガン方面をにらむ。

 クエッタの治安当局幹部は「シューラに属する28人全員がアフガン各地にいる。一部はアフガン政府内に潜り込んでいる」とタリバン本丸の存在を強く否定する。その一方で、「米軍部隊がアフガン国境からパキスタンへ侵攻したり、バルチスタンで無人機攻撃が始まれば、パンドラの箱が開く。かつてない規模の対米闘争が起こり、この地域が世界最大の反米拠点になりかねない」と語った。【クエッタで栗田慎一】

    ◇

 アフガン開戦から8年。今後のカギを握るパキスタンの実情を報告する。

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 ◇米の無人機攻撃、拡大 昨日の盟友は、今日の最大標的

 米国が拡大しているパキスタンへの無人機攻撃は、79年にアフガニスタンに軍事侵攻したソ連に対抗するため反ソ勢力を支援した米国が「冷戦の負債」に手を焼く姿を印象づける。最大標的が、かつての米国の盟友、旧反ソ勢力のタリバン有力司令官だからだ。

 昨年末にアフガン東部ホスト州であった米中央情報局(CIA)基地での自爆攻撃。無人機攻撃に携わっていたとみられるCIA職員ら8人が死んだ。実行犯は生前のビデオで、昨年8月に南ワジリスタンでの無人機攻撃で死んだ武装組織「パキスタン・タリバン運動」(TTP)総司令官のための報復と訴えた。

 だが実際は、TTPやアルカイダ戦闘員らも従える、北ワジリスタンに潜伏中のタリバンのハッカーニ司令官の復讐(ふくしゅう)劇との見方が有力だ。同氏は08年、無人機攻撃で妻らを殺された。

 ハッカーニ氏はホスト州出身で、ムジャヒディン(イスラム戦士)司令官として対ソ戦を指揮。パキスタン当局を通じて米国の資金や武器支援を得る一方、対ソ戦中にワジリスタンへ移った。89年のソ連軍撤退後、アフガンは内戦に突入。「世直し」を掲げて組織されたタリバンは、多くの国民の支持を得て96年に政権を奪取。タリバンに参加したハッカーニ氏は、01年の政権崩壊後、オマル師の指示で軍事部門を統括し、対米闘争を指揮するようになった。

 18日のカブール大規模攻撃など、カルザイ政権への包囲網を狭める軍事攻勢も、アフガンにいるハッカーニ氏の軍勢が主導する。

 地域に根ざして「対侵略戦争」を戦うタリバン。その拠点を無人機で狙い、「正義」を掲げて過去の清算を図る米国。両者の対立が激化するほど、アフガンとパキスタンの人々の苦しみは深まる。【栗田慎一】

毎日新聞 2010年1月26日 東京朝刊

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