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社説

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米倉経団連―脱皮は献金の廃止から

 5月末に退任する御手洗冨士夫・日本経団連会長の後任に米倉弘昌・住友化学会長の就任が内定した。政府・与党と経済政策について議論する役回りを演じることになる。

 鳩山政権は、長らく二人三脚で歩んできた自民党政権に比べ、経済界と距離がある。経済政策も消費者をはじめとする需要サイドに力点を置く。経団連が企業活動の活発化を目指すだけの政策提言を繰り返すとしたら、議論はかみ合わないだろう。

 企業益を最大化するための組織という従来の役割から、いかに脱皮できるのか。米倉経団連に問われようとしているのは、そのことである。

 東西の冷戦が終わり、グローバル化が一気に加速したこの20年は、企業益と国民の利益とのギャップが広がった時代であった。中国などの新興国が成長し、グローバル競争は激化した。日本はバブル経済崩壊の傷が容易に癒えず、低成長の下で企業はリストラを伴う競争力強化で何とかしのいできた、というのが実情だ。

 この間、国内の雇用は劣化した。働く人の3人にひとりが非正規雇用を余儀なくされた。企業は効率化した半面、働く人たちの生活は不安定になり、企業業績が改善した時期も生活の向上を実感しにくくなった。

 戦後の長い間、企業の成長は国内の雇用を生み、所得を引き上げた。企業の成長と国民の豊かさが太いパイプでつながっていた。しかし、この20年は企業の成長が国民の豊かさに従前ほどは寄与しなくなった。企業益と国民益をつなぐパイプが細くなったのだ。

 経団連は政権与党を中心に企業の政治献金を呼びかけ、企業活動に利する政策実現を求めてきた。企業益が国民益に直結した時代はともかく、国民益との隔たりが拡大した今、献金への理解は得られまい。

 「政治とカネ」への疑惑と懸念が政権交代後にむしろ強まっていることも、企業献金に対する国民のまなざしを一段と厳しくさせている。しかも民主党は3年後をめどに企業・団体献金を廃止すると政権公約にうたった。米倉次期会長は、企業献金の廃止に向けて動き出さねばならない。

 経団連は存在価値をどこに求めるべきか。経済界の利害も一枚岩でなくなった。地球温暖化対策では内部に厳しい対立を抱えている。

 経済の語源は「経世済民」だ。経団連はそこに立ち返り、国民益に寄り添う社会的存在として政策提言に知恵を絞る組織に変わるべきだろう。

 もしも経団連が企業益のために「おカネも出すし口も出す」という組織のままならば、存在価値を失うばかりではないか。国際感覚にあふれ、決断力が買われる米倉次期会長が大胆な組織改革に乗り出すことを期待したい。

温暖化基本法―低炭素時代を引っ張れ

 2020年の温室効果ガス削減の中期目標について、政府は「90年比で25%削減」を国連の気候変動枠組み条約事務局に提出した。「すべての主要国による公平かつ実効性のある国際枠組みができ、意欲的な目標に合意すること」という条件がついている。

 中期目標の提出は、昨年末にあった締約国会議(COP15)での「コペンハーゲン合意」が先進各国に求めているものだ。ただちに法的義務が生じるわけではないが、地球温暖化防止に向けた各国の姿勢が問われる。

 「25%削減」は昨年9月、鳩山由紀夫首相が国連で表明し国際的に高く評価された。日本がそれを引き続き掲げることは、難航しているCOP交渉の打開にプラスに働くだろう。

 ただ、数字そのもののインパクトがいつまでも続くわけではない。

 すでに国際社会の一部に「日本の目標には実体がない」という冷ややかな声もある。こうした空気が広がるようだと、COP交渉における日本の発言力が損なわれかねない。

 京都議定書に続く新たな国際枠組みづくりをリードするには、「25%削減」の政策的な裏付けをできるだけ早くはっきりさせるべきだ。

 具体的には、国内排出量取引制度や環境税、自然エネルギー拡大など、必要な政策を総動員するための法的な基盤づくりを急ぐことが必要である。

 鳩山政権は、3月までに地球温暖化対策基本法案を国会に提出する。

 中期目標を絵に描いた餅にしないためには、それぞれの政策を基本法に盛り込むだけでなく、骨格や工程も具体的に示す必要がある。「50年に80%削減」という長期目標を見すえたものにすることも大切だ。

 そのためにはグリーンな産業と雇用を創出する成長戦略を、そこに組み込んでいかねばならない。

 COP交渉の先行きが不透明ないま、日本が高い目標を掲げることや、それに向けた大胆な政策を進めることには慎重な声も根強い。

 だが、地球を低炭素時代に向かわせなければどうなるかを考えたい。

 欧州では08年にできた包括的な温暖化対策の下、各国が社会や経済の低炭素化に向けた具体的な取り組みを着々と進めている。

 米国でも、温暖化対策法案が連邦議会に提出ずみだ。オバマ政権を取り巻く厳しい政治状況の下で審議は停滞しているが、成立後は速やかに各種の政策が動き出すだろう。

 高い目標に向かって政策を積極的に展開し、他国に先駆けて経済や社会を低炭素型に脱皮させる。そうすることで競争力を高めることこそ、新たな時代を生き抜く術(すべ)だ。

 基本法は、新時代を引っ張る機関車の役割を担う。

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