ジャンプSQ.
ジャンプSQ.
谷口ジロー先生 直撃インタビュー 完全版






――そういう境地を経て、「新分野開拓への大きい手がかりになった」ということですね。

谷口:そうですね。こういう家族の話も自分に描けるんじゃないかって思ったきっかけですね。その後は私の田舎時代の話…『父の暦』とか『遥かな町へ』とかへ、つながっていきましたから。

SQ:それは現在にもつながっていますか? 今後も家族ものをお描きになりたいとか。

谷口:そうですね、色々もっと描きたいものが増えてきたかな…。今描きたいのは、家族の年代記っていうのかな。祖父、母、…まあ自分と。もちろん全部フィクションになるんですけどね。それと、その家族にずっと飼われてた犬の系譜というか、三代記。そういう構想もあります。

SQ:人と犬の三代記。おもしろそうですね! 今後描きたいものっていうお話が出たので、ちょっと飛んじゃいますけど、2年ほど前、フランスの雑誌・エポックからインタビューされた記事を見つけまして…。

谷口:インタビュー? 覚えてないです(笑)、何をしゃべったかな…。

SQ:当時は、フランスのBD(※)でオールカラーでお描きになってみたいとおっしゃっていて。

谷口:ああ、今ね、ちょうどやってるんですよ。日本の仕事を中断して(笑)。

SQ:おお〜…。それは発表してもよい話ですか?

谷口:いいですよ。ただ、日本では発売されないんじゃないかな。60ページくらいのハードカバーで、左開きで。だから日本では無理なんですよね。

SQ:ちなみに、大きさはどのくらいですか?

谷口:えーと、B4かな。SQ.のサイズより大きいんだよね。

SQ:向こうのは大きいんですよね。A4、B4とか。

谷口:だから原稿描くの、大変ですよ。思ったよりも時間がかかって、最初4か月くらいで描けるかと思ったけど、もう3か月経過したのに終わりが見えない(笑)。

SQ:そうなんですね。ちなみに題材はどんなですか?

谷口:なんでも好きなものを描いてくれって言われたんだけど、フランスを舞台にした話にしたいって言ったんですね。フランスの家族の話。向こうの原作者がつくんですが、取材にも行ってきました。

SQ:現地にはよく行かれるんですか?

谷口:よくは行ってないです(笑)。あの〜、実際の生活がわからないから、細かいアドバイスや、いろんな資料をくれるんなら、やりますって言ったのね。ところが、いざやり始めてみると、やっぱり難しいものですねえ…。

SQ:家族の機微、感情、生活習慣から何から、日本人とは違いますしね。

谷口:そうなんです。それとBDは、日本のマンガほど感情描写がなく、物語を読ませるという感じなので、その兼ね合いも悩みます。

――日本マンガとは大きく異なる、フランスのBDですが、谷口先生は数々の賞もとられて、向こうでは日本人作家として一番有名と聞きます。書店でも物凄い扱いで。

谷口:そうみたいですね…。私も一昨年か、行った時は驚きました。日本では考えられないような新聞広告を入れてくれるし、書店でも一番目立つ所に置いてくれてる(笑)。

SQ:フランスでそれほど高く評価されるのは、ご自分で分析されるには?

谷口:それは、よく聞かれますけどね(笑)。答えられないというか、自分ではわからないですよね。

SQ:やはり絵なのかな…と思いますが。絵の雰囲気がフランスの人にはすごくなじみやすいっていうか。あっちの作品はリアル思考なとこがあるので、読みやすく、入りやすいのかなと。

谷口:うん…、絵ですかねえ。

SQ:BD界では谷口先生の絵はすごくなじんでいて、最初見たとき、谷口先生と気づかないで、あーすごく似てる作家さんがいるなあと思ったくらいです。

谷口:そういえば、前に集英社のヤングジャンプでやった読みきりがあったんですよ、それもBDで出してくれてたね。カラーにしてくれて、ハードカバーで。

SQ:でもそれって、右開きですよね?

谷口:それを左開きに変えちゃったんですね。

SQ:すごいですねフランス!!

谷口:話では、それもけっこう売れたと聞いています。日本より売れたりして(笑)。

SQ:いやいや、日本でも三省堂一店だけで月50冊ですからね。

谷口:それは、『孤独のグルメ』だけだと思うよ。

SQ:そこは、赤坂氏の泣かせるPOPで、『犬を飼う』などもグイグイと。これは文庫版ですが…先ほど版形の話が出ましたが、やっぱり、BDの豪華さというのは、作家さんにはうれしいものなんでしょうか。

谷口:それはうれしいです。まあ、そういう大きいのもあっていいと思うし、私、基本的にはA5サイズが一番好きですね。読みやすいから。

SQ:BDの豪華さだと、画集、って感じがしますね。ハードカバーだし高いけど。

谷口:でも向こうで出てる私の作品は、だいたいソフトカバーですよ。フランス綴じ?フランスカバーていうのかな、そういうつくりで。ただし『遥かな町へ』『父の暦』はハードカバーで、400Pくらいかな?そんな本にしてくれてます。

SQ:「書物」ですね。日本だったら特別コーナーに設置するような…。

谷口:向こうはクリスマスとか、そういう節目に本をプレゼントするような習慣があるから、4000〜5000円するような本でも、けっこう売れるって聞きました。こんなの売れるの?って聞いたんだけども。

SQ:へー…。そうなんですね。ちょっと手にとってみたいです。

谷口:仕事場にあるんですけどね。初めて見たときは、びっくりしちゃった。

SQ:じゃあお仕事場へ…なんて図々しいことは言えないですが(笑)。では今は、家族など日常ドラマを描きたい感じでらっしゃると。

谷口:いや、それだけじゃないですけどね、やりたいことは、いっぱいあるんです(笑)。

SQ:なんだか、そんな抱負を伺っていると、このままフランスに移住されてしまうんじゃないかっていう気がしますが…。

谷口:今ね、そういう話もありますよ。部屋を用意してくれてるんです、アパートを。そこでいつでも仕事できますよっていうことで。

SQ:まずい。国宝流出です!!

谷口:いやいや(笑)。行っても、3か月滞在するくらいですよ。向こうで何か描いてみたいっていうのは…『歩く人』のパリ版はどうかなあと。言葉は通じないけど日本人のビジネスマンが、パリに出張に行って、いろんなことに出会うみたいな。

SQ:おもしろそうっす! ちょっと裏道に入ったりとか…。

谷口:その時の取材はどうしよう?て言ったら、通訳ちゃんとつけますからって言うので。

SQ:それは、実際に滞在されないと…。

谷口:だから、ちょっと普段行けないような所…観光で行けないようなところでも連れてってくれって言ったのね、あの〜危ない所でもいいから、ちゃんとガードしてくれるなら(笑)。

SQ:ボディガードつきで、知られざる道を…すごくおもしろそう!

谷口:実現するかはわからないけど。

SQ:でも、さっきの2005年のエポック誌でおっしゃっていた目標を叶えているわけですから、有言実行ですね。

谷口:ああ、BDですか? それはもう、5年も前からお話があって、ようやく取材に行けて、今描き始めたとこですから。