――先ほどの模写の話ではないですけど、今は、谷口先生が模写されてる立場だと思うんですが、下の世代のマンガ家で気になる方は? いないかもしれませんが…。
谷口:いや、いますよ。気になるというか、読んでる作家は五十嵐大介さんとか。あとやっぱり、絵のうまい井上雄彦さんとか。他にもいますが、最近、すぐにどの人って名前が出てこない(笑)。
SQ:五十嵐先生は、三省堂・赤坂さんも大絶賛ですよ! なにかフシギな繋がりのようなものを感じます。やっぱり、絵の長けた方たちですねえ。
谷口:そうですねえ。絵からやっぱ入っちゃうかな、私の場合は。
SQ:同世代のマンガ家さんからは、時にはちょっと疲れた…なんてボヤキもあって、谷口さんは本当に疲れ知らずで羨ましい、なんて聞きますが。
谷口:いやいや、いろいろ言われてますよ、陰で(笑)。
SQ:何でしょう、そのチカラの源は。
谷口:昔のようなアクションものを描きたいなと思って挑戦してみるけど、ちょっと違う線になってしまったとかね。それはありますよ。量産はできなくなってきましたよね。前は、勢いで描けたようなものがね。でも、色々なものに興味を持つことが大切かな。
SQ:でも月産50枚とおっしゃっていますが。
谷口:ええ、多くないですよね?
SQ:この絵の密度を考えたら、普通の50枚とは違うと思うんですが。
谷口:40〜50枚は描かなきゃ生活成り立たないですよ(笑)。
――作画体制は、どんな感じでやってらっしゃるんですか?
谷口:今は、アシスタント4人なんですけどね、4人で月産40〜50ページだと赤字なので(笑)。もっと描かないといけないです。まあでも、自分の描きたいものが出来上がれば、別にいいかなあと思って。
SQ:これだけ密に密に、描かずにはいられないわけですね。
谷口:うーん、そうみたいですね。アシスタントに、物足りないからここ手入れろとか言っちゃうみたい(笑)。『孤独のグルメ』も、もう少し楽な絵で描こうと思ったんですね、でも、資料写真がくると、やっぱり密度の濃い絵にしてしまって…、しまった〜って思うんですけど、もう後戻りできない(笑)。孤独のグルメの後に、『散歩もの』っていう通販生活で連載してた作品があるんですけど、今度こそ軽い、もっと楽な絵でやろうと決意して始めたら、やっぱりおんなじことに…(笑)。それに、軽めにっていってもアシスタントがついてこれないというか。どこをどう抜けばいいのかわからないから、むしろみっちり描く方が楽なんですよ。
SQ:なるほど、抜きどころがわからないって…(笑)。
谷口:かえってデフォルメしたりするのは難しいって。で、こんな風になってしまう(笑)。本当は、もっと楽な絵で、一人でできればいいかなとも思います。いつか、最終的にはそうしようかなと思ってますよ。
SQ:アシスタントさん達は、ずいぶん長くいらっしゃるんですか?
谷口:どうかな、だいたい3〜4年かな。長い人は5〜6年いますけど。3〜4年で独立するぞって決めてくるみたいだね。でも最近はね、アシスタント募集しても、こないね(笑)。
SQ:それは確かにひるむと思います(笑)。この絵ですから。
谷口:最近の人は、この絵を見て、こんなに描くのヤダって人がいるからねえ。
SQ:そうすると、こういう路線っていうのは本当に貴重な役になっていきますね。画力も…描けないというか。
谷口:いや、画力持ってても描かないと思うよ(笑)。割に合わないってとこもあるし。私もいろいろ反省部分はいっぱいあるんですよ、描き込みすぎてコマが回らないとかね。目が止まってしまって、こう、ぱっぱと読めないとか。そういうの反省してますけどね。
SQ:ひえ〜、巨匠から、そんな反省点が。
谷口:描き込めばいいってもんじゃない(笑)。
SQ:もはや、ただの感想になっちゃうんですけど、『神々の山嶺』は、夢枕さんの原作を読んでからマンガを読みまして。で、すごく原作の空気感が表現されていて。ヘンな言い方ですが、原作とマンガって絶対違う、媒体が違うのに、同じって空気っていうのがすごいと思ったんです。
谷口:そうね、獏さんとは以前も、格闘技もので『餓狼伝』っていうのをやったんですけど、以来、気心が知れた知り合いで。私も『K』を描いたから、本格的な山の話はずっと描きたいと思ってまして。あの〜、山で亡くなったある登山家の書いた本をマンガにしたいって編集者に言ってたんだけど、ずーっと断られていたんですね、暗いからツライでしょ、みたいな感じで。で、獏さんはその話は羽生という人をモデルにしてで書いたって聞いて、あ、そのキャラクターならぜひやってみたいと思って。そこで『神々の山嶺』をやろうってことになったんですけどね。
SQ:山に登る人の顔ってものがある、自然から顔って作られるものなんだ、すごいなあって。
谷口:『犬を飼う』みたいなリアルな家族の話をずっと描いてるとね、それはそれで、ツライものがあるんですよ。だから、こう気持ちをガッと勢いよく出せるような冒険活劇とか、そういうものもね、交互にやっていきたいと思っていますね。
SQ:リアルな日常ものばかりだと、それはそれでストレス、負荷がかかるから、バランスよくやろうと。
谷口:うん。私の場合は、いろんなものに刺激を受けたら、すぐにそれやりたいってのが出てきちゃうから。今描いてるものをやめてでも(笑)。すぐあきてしまうんですかねえ。長いものは描いてませんからね。5巻くらいまではあるけれど…、10巻や20巻はないですしね。
SQ:そういう気持ち、新たな意欲っていう意味でも衰え知らずですね。
谷口:やりたいっていう気持ちは、若い頃よりも増したかもしれない。それはやっぱり刺激や経験…いろんなものを見たり読んだりで、溜まってくる。年がいくといろんな限界も見えてきますが、気持ちを吐き出せるものは、やっぱりマンガなんですよ。溜まる一方なんですよ。だから描きたいものはだんだん増えちゃう。
SQ:では、これからも谷口ワールド、あと50年以上は読めそうですね。
谷口:50年!!ははは(笑)。本当にね、描き続けたいですけどね。
SQ:ずっと楽しみに読ませていただきます。今日は、本当にありがとうございました。
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