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政府は26日、昨年12月の国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)でまとまった「コペンハーゲン合意」に基づき、20年までの温室効果ガス削減目標をこれまでと同じ「90年比25%減」とする方針を正式決定、条約事務局に提出した。1月末の期限までに各国の目標が出そろうことが期待されるが、対立構図はより複雑化。13年以降のポスト京都議定書の枠組みを話し合う11月のCOP16成功への道のりは険しい。日本政府も目標達成の道筋が描けていない状態だ。【足立旬子、柳原美砂子、大場あい】
「米国や中国など主要排出国の背中を押して、我々も頑張るから、みんな頑張ろうという思いで申し上げている」。鳩山由紀夫首相は26日の地球温暖化問題に関する閣僚委員会で、日本の目標の狙いを改めて強調した。
政府は昨年12月のCOP15で「すべての主要国による公平かつ実効性のある国際的枠組みの構築と意欲的目標の合意」を前提に、90年比25%減を掲げたが、中国など新興国は削減の強化や義務化を受け入れなかった。産業界からは「目標は高すぎる。見直すべきだ」との指摘が出たが、政府はCOP16に向けて戦略を貫く考えだ。
小沢鋭仁環境相は3月に「25%減」実現に向け、家計への影響の試算や、産業や家庭など部門ごとの割り当てなど具体策を示す方針。だが、これまでも先延ばしになってきただけに実際に示せるかは不透明との見方も出ている。東京電力の清水正孝社長は、年始の経済団体の会合で「企業の活力をそぐ政策は避けるべきだ」とけん制。御手洗冨士夫・日本経団連会長も25日の定例会見で「国民の理解を得ながら最終的な目標を決めていったらいい」と注文をつけた。
政府は昨年末、環境を軸にした成長戦略の基本方針を公表したが、工程表の策定は6月になり、10年度導入を見送った環境税(地球温暖化対策税)の議論もこれからだ。国際協力銀行の本郷尚・環境ビジネス支援室長は「13年以降の枠組みが混とんとしているため、排出権を生み出す新たなプロジェクトへの投資を控える傾向がある。だからこそ、日本が(資金協力や排出量取引などの)全体の仕組みを提案し、日本経済に有利な枠組みを作るチャンスにすべきだ」と提言する。
「今は(難航を極めた)COP15後の冷却期間」。気候変動枠組み条約のデブア事務局長は21日、COP15後初の記者会見で語り進展に期待をにじませた。
コペンハーゲン合意に基づき、31日までに先進国は削減目標、途上国は削減の取り組みを提出する。COP15で同合意は全会一致で採択できず「留意」にとどまった。それだけに、各国の提出状況は同合意の実効性を占う重要なものになる。
条約事務局によると、バングラデシュやサモアなどが同合意に賛同する見解を提出。「BASIC」と呼ばれる新興4カ国(ブラジル、南アフリカ、インド、中国)は24日の閣僚会議後、31日までに自主的な排出削減の取り組みを提出すると表明した。
ただし、デブア事務局長は「期限厳守を求めない」と話し、各国が提出期限を守るかさえ楽観できない。ニュージーランドは31日に間に合わない公算が大きいと、地元紙が伝えた。また、中国と並ぶ排出大国の米国では、民主党が今月の上院補欠選で敗北。温暖化対策に熱心なオバマ大統領の政権運営は厳しく、削減目標を盛り込んだ温暖化対策法案も成立の見通しが立たない。
各国の対立も深まっている。BASICは同合意に盛り込まれた12年までに300億ドルの途上国支援のうち、今年分(100億ドル)の早期拠出を要求し、先進国への圧力を強める。日本などの先進国は、新興国の参加を支援の前提としており、「支援が先か、新興国などの取り組み強化が先か」で、交渉が暗礁に乗り上げかねない。海面上昇の危機にさらされるツバルなど島国と新興国の対立も解消しそうにない。
公式交渉は5月末に再開するが、それ以外の日程は決まっていない。日本の交渉担当者は「COP15前の1年間と比べてもCOP16の準備が遅れている」と懸念する。
毎日新聞 2010年1月27日 東京朝刊