前編に引き続き、 『甲虫王者ムシキング』(以下 『ムシキング』 ) インタビューです。 後編では、アニメや、GBAなど、アーケード以外での展開をみせる 『ムシキング』 の狙いをずばり直撃!
後編は、4月より始まるテレビアニメと、6月に発売が予定されているGBA用ソフトの話題を中心に、ひきつづき植村比呂志プロデューサーが登場。 『ムシキング』 はゲームを飛び出して、現実世界で活躍する 「ネブ博士」 や 「ムシキング・ジョニー」 といった人気キャラクターを生み出しています。さまざまに拡大していく、『ムシキング』 の世界についてお聞きします。
植村■ まず、 『ムシキング』 を 『コロコロコミック』 を読んでいる世代 (幼稚園、小学校低学年を中心とする世代) に訴えていきたいと思っていたんです。その時、「ムシキングはじゃんけんを使ったゲームだけど、ただのじゃんけんゲームじゃないんだよ。面白い対戦のルールがあるんだよ」と伝える目的があったんです。
やはり幼稚園くらいの子供が遊ぶことを考えれば、じゃんけん程度の簡単なルールでなければ、市場的に拡がっていくことは難しいと思ったんです。ただ、実際にやってみると奥深いということに、気づいてもらいたかった。……それで始めたのが、『コロコロコミック』 にふたりの博士が出てきて、 『ムシキング』 の解説をするコーナー。そこでネブ博士とブラック博士は生まれたんです。
その後、大会やイベントの時に、「ムシキングの象徴となるようなキャラクターが欲しいね」 という営業サイドの発案で、ムシ王、クワ王、ハニーが誕生したんです。
ムシキング・ジョニーは、イベントの盛り上げ役として誕生しました。彼は、普段から 「ムシキングの人気を維持するためには、全国の大会を活性化するのが重要だ」 という強い意志を持っている男です。 実際に、ジョニーは毎週、全国を飛び回って各地の大会を盛り上げています。メディアで展開されているようなセガの公式キャラクターが、自分の街の大会に来てくれるのはうれしいじゃないですか。
――4月からテレビ東京系でアニメ 『甲虫王者ムシキング〜森の民の伝説〜』 の放映が始まりますね。
植村■ 最初の企画はまったくゲームと関係ない話だったけど、紆余曲折あって、ゲームの中のポポ、ムシキング、アダーが出てくるお話になりました。
もともと、森の妖精ポポが日本の森を守るために戦っているのが 『ムシキング』 の世界です。その世界を変えてしまっては 『ムシキング』 ではなくなってしまう。アニメの影響力は大きいので、主人公はポポでなければいけないと主張しました。
アニメをなんとかいいものにしたいという気持ちから、最初の頃は週に2回、往復3時間かけて、4時間も続くシナリオ会議に出席していました。その甲斐もあって、ポポもアダーも登場するし、 『ムシキング』 らしくなってきたかな、と思います。
――どんなストーリーのアニメになったんですか?
植村■ アダーという悪者がムシを操って、赤い目をしたムシがポポたちの住む平和な森を荒らしています。ポポは、それを解決するために旅に出るんです。チビキングと呼ばれる、かわいいカブトムシといっしょに……。
実は僕 (ブラック博士) もちょっとだけ登場します。「ネブ博士とブラック博士のムシキング教室」 というコーナーが “実写” でありまして、次回予告前に25秒だけムシキングの紹介をしてるんです。
もちろんアニメ本編は、ゲームをやってる人にも楽しめると思いますし、ゲームをやってない人にも面白い作品に仕上がってると思いますよ。
――今年の夏にはGBAで『甲虫王者ムシキング』の発売も予定されていますね。
日頃、小さな子供たちが学校や遊びの現場で、大勢のギャラリーを前にしてガチンコ勝負するなんて機会はないんですよ。勇気を出して大会に出るまでのハードルは高いんです。 子供は自信を持ったらすごく伸びるので、自信を持たせてあげたいな、と。 そのためには、まずこういったゲームの中で対戦を実感してもらって、勝つコツがわかり始めたら、それをきっかけに 「今度は本当の大会で優勝してみたいな」 と思ってもらいたいんですよ。
そのためのステップアップのソフトなんです。「実戦・遊べるムシキング攻略法」 みたいな (笑)。つまり、我々はコンシューマー (家庭用) だけで完結するのではなく、コンシューマーとアーケードの連動を考えているんです。
―― 『ムシキング』 にも 「強い」 「弱い」 ってあるんでしょうか?
植村■ 強いプレイヤーは偶然で勝っているわけではなくて、毎回勝つプレイヤーは地元の大会でも強いし、全国の大会でも強い。強いプレイヤーは明らかに存在するんです。で、強いプレイヤーが存在するということは、がんばれば強くなれるということです。
『ムシキング』 では、この強いプレイヤーが子供であるということが重要ですよね。 『ムシキング』 のプレイヤーは、小学生でも本気の大人を負かすことができるんです。相手の心理を読んで、時にストレートで、時に裏をかいて、わざを出す。 じゃんけんの強い弱いって昔からあると思うけど、 『ムシキング』 の場合は 「必殺わざ」 という要素を加えることで、じゃんけんのバランスを崩しているから、そこに様々な駆け引きが生まれてくるんですよね。上級者になると、あえて相手の 「必殺わざ」 に負ける技を出したりしてね(笑)。相手の予想を裏切ることが、 『ムシキング』 で勝つ秘訣だから……。そこに深い読み合いが生まれてくる、というわけです。
勝負も真剣そのもので、手の動きが見られないようにする 「手隠し」 だけじゃなく、最近はマイタオルを手元にかけて、万全の体制で試合に臨む選手も多いです (笑)。
――ところで、植村さんは2年前に現在のこの大ブームを思い描いていましたか?
植村■ 思い描いてないですね。 とにかく子供たちに飽きられないように、一生懸命やってきたら、今の状態だったという感じです。自信があったわけでも、確信があったわけでもない。我々は、子供たちにいつまでも楽しんでほしいという気持ちで続けてきただけなんです。
とにかく自分たちのつくってきたゲームで、子供達が楽しんでくれたことが純粋にうれしいんです。 だから、その子供たちを失望させたくない。……今でも飽きられないよう常に危機感を覚えながら、バージョンアップやユーザーサービスを続けるだけです。
――最後にメッセージをお願いします。
植村■ 子供たちは、カードを集めてくれているんだから、突然やめることは 「裏切り」 になるわけです。だから、僕は 『ムシキング』 をやめない。 『ムシキング』 は10年、20年と続くかぎりやっていきます。ムシキングチームのスタッフは 「子供たちのためにも、続けていくのは当然」 という意識を持っている。
だから、もしも僕が交通事故で今突然死んだとしても、 『ムシキング』 は続いていくと思います。それだけ僕はまわりのスタッフを信頼しているし、周りのみんなも、それに応えてくれると思う。
……だから10年、20年という言葉も安心して言えるんですよ。子供たちが望む限り、 『ムシキング』 は続いて行くんです。▲