アニメ様365日[小黒祐一郎]

第283回 『美少女アニメ くりぃむレモン PoP CHASER』

 1980年代半ばには、活きのいい若手アニメーターが集結した、お祭りのような作品が何本もあった。『美少女アニメ くりぃむレモン PoP CHASER』は、そんなお祭り騒ぎを代表するタイトルだ。成人向けOVA『くりぃむレモン』シリーズの第4弾であり、リリースされたのは1985年3月13日。西部劇風の世界を舞台にした、コメディ調のSFアクションである。
 原作、脚本、監督、キャラクターデザイン、作画監督を兼任している人物は、佐倉大という名前でクレジットされている(キャラクターデザインのみ、もとやまゆうじと共同)。後の「アニメージュ」の特集(1995年10月号)で、彼自身が『PoP CHASER』との関わりを語っているので、本名を出しても構わないだろう。佐倉大は、後に『老人Z』や『BLOOD THE LAST VAMPIRE』を手がける才人・北久保弘之のペンネームだ。
 『PoP CHASER』は原画メンバーが豪華だった。クレジットされているメンバーは、以下のとおり。


もとやまゆうじ 小山内宏 たんくくんた 水越薫 ○島×彦(仮名) TAKASHI 前田明 ぬるちひるこ チャノチロトシ 大木金太郎 綾歌軍 家紋我路 住友太郎 ゴーダ君 比久保弘之 かみなりねこのO.P 某、井上俊之 鳥本起矢 大広間由美 土器手某 あんのひであき 円谷映三 亜呂沢秀部 渡辺浩


 ほとんどがペンネームだが、本名がうかがえるアニメーターも何人かいる。某、井上俊之や土器手某なんて、どう考えても名前を隠す気がない。ちなみに、かみなりねこのO.Pとは、見事なアクション作画が話題になっていた海外との合作作品のオープニングにちなんだペンネームだ。
 『PoP CHASER』の作画クオリティは、当時のアダルトアニメとしては、驚くほど高いものだった。『うる星やつら』に参加していたアニメーターが多く、キャラクターデザインも『うる星』を連想させるものだったし、コミカルな崩し顔も『うる星』的だった。また、この作品はやたらとメカアクションが多い(主人公のリオがエアバイクを駆り、ウォーカーマシン的なロボットと戦う)。クライマックスは濡れ場ではなく、メカアクションだ。そして、メカアクションの作画も立派なものだった。たとえば、あんのひであき(クレジットママ)が担当した背動カットなどは、本格メカアニメでも滅多に見られないような密度の高い原画だった。
 アダルトアニメは、作画に関してはチープなのが当たり前だった。だから、『PoP CHASER』の仕上がりに多くのファンが驚いたし、皆がよくこの作品を話題にした。「アダルトアニメなのに、すげーよくできているんだよ」とか、「アダルトアニメなのに、メカアクションも凄いんだよ」とか、そんなふうにこの作品について話した。ポルノであるはずの『くりぃむレモン』シリーズで、アクション主体の作品を作った事を、僕達は、スタッフの暴走だととらえていたような気がする。『うる星』の若手スタッフの暴走が、そのままアダルトアニメというアングラな場所で展開している。そんな印象であり、妙な高揚感があった。
 それではこの作品が面白かったかというと、困った事に、僕にはあまり面白いとは思えなかった。濡れ場は2度あって、それも作画的なクオリティは高いのだが、まるでいやらしくなかった。そうなったのは、作り手の照れが出てしまったためかもしれない。だったら、ストーリーが面白いかというと、そちらも薄味だった。『PoP CHASER』を手がけた頃の北久保弘之は20代前半であり、いわば若描きの作品だ。今なら、多くを求めるのは可哀想だと思える。その年齢であれだけのフィルムをまとめたのだから、大したものだ。ただ、当時は、作画クオリティが高いのに、淡白な作品になっているのが不思議でならなかった。
 『PoP CHASER』については「くりぃむレモン メモリー PART4 POP CHASER 記録写真集」というタイトルのムックが出ている。これがインパクトのある本だった。ハードカバーで、本編に参加したアニメーターは勿論、参加していないアニメーターや、マンガ家までがイラストを寄稿。アニメーター座談会はわけのわからない超盛り上がり。『PoP CHASER』のお祭り気分が堪能できる一冊だった。

第284回へつづく

くりぃむレモン Part.2

カラー/50分/カラー/スタンダード 4:3
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発売元/フェアリーダスト
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(10.01.12)