流通業界最大手、セブン&アイ・ホールディングス(HD)が西武有楽町店を閉鎖する方向になった。バブル崩壊後、右肩下がりで落ち込んだ百貨店の業績は、ピークの7割以下の水準にしぼみ、堅実な消費を求める顧客意識の広がりで百貨店離れが反転する兆しはまったくない。これまでグループの赤字部門を補ってきたコンビニ事業などの収益にも陰りが出ており、ブランドイメージを守るために温存してきた都心店もリストラの例外にできなくなっている。【大塚卓也】
「食品部門がないのがボディーブローになった」。有楽町店を傘下に持つそごう・西武の幹部はこう語り、閉鎖を余儀なくされたことに悔しさをにじませた。昨年秋まで低迷し続けたグループ旗艦店、西武池袋店が食品部門改革で昨年12月の売上高を前年比2%増に押し上げ、改革の手を他店に広げようとしていた矢先だったからだ。
有楽町店が立地する東京・銀座地区は、百貨店業界の国内最激戦区の一つだ。若い女性の根強い支持がある有楽町マルイ、有楽町阪急とは数十メートルの距離で近接。三越、松屋、松坂屋などは銀座を最重要拠点と位置づけ、増床・改装投資を続けている。ファストファッションと呼ばれる海外のカジュアル衣料ブランドも続々とオープン。流通グループ最大手の収益力で支え続けても、収益回復どころか赤字が膨らむ懸念があった。
セブン&アイグループの鈴木敏文会長は今月のインタビューで、百貨店事業の将来像について「切り離すことは考えていない」と明言。その一方、「高級で質が高いというステータスは維持しながらも、安い商品もそろえて顧客層を広げる必要がある」と述べ、グループ内のスーパーやコンビニと商品や販売方法の連携を深める意向を表明していた。
ただ、そごう・西武の店舗では、西武池袋、横浜そごう、千葉そごうなどターミナル駅に近接した店舗でこうした改革の成果が見え始めている半面、それ以外の店舗は改革の青写真を描けていないのが実情だった。
昨年の百貨店業界の売上高は前年比約8000億円減の6兆6000億円弱。1年で大手百貨店1社の売り上げが泡と消えた計算で、数年以内に5兆円台に落ち込むことが確実視されている。高コスト体質があだとなって大半の店舗が営業赤字に沈み、当面の止血策として人員削減も本格化し始めている。好立地と高級感・ブランド力に代わる業界の存在意義は見いだせず、再編・淘汰(とうた)の動きは今後いっそう本格化すると見られる。
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◆08年以降の主な百貨店の閉店◆(予定含む)
<セブン&アイHD>
09年1月 ロビンソン百貨店札幌店(北海道)
8月 そごう心斎橋本店(大阪)
9月 西武札幌店(北海道)
10年末 西武有楽町店(東京)
<三越伊勢丹HD>
08年3月 小倉伊勢丹(福岡)
09年 三越武蔵村山店(東京)▽名
3~5月 取店(宮城)▽池袋店(東京)▽鹿児島店
7月 丸井今井旭川店(北海道)
10年1月 丸井今井室蘭店(北海道)
3月 伊勢丹吉祥寺店(東京)
<J・フロントリテイリング>
08年10月 横浜松坂屋(神奈川)
12月 今治大丸(愛媛)
10年 1月 松坂屋岡崎店(愛知)
<地方百貨店>
08年8月 ちまきや(山口)
09年2月 久留米井筒屋(福岡)
10年2月 中合会津店(福島)
4~6月 大和長岡店(新潟)▽上越店(同)▽新潟店▽小松店(石川)
毎日新聞 2010年1月27日 東京朝刊