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21世紀幕開け記念 特別企画

アンパンマンやなせたかし先生に聞く!

漫画新聞のレギュラーコーナーである「漫画家リレー訪問記」。今月は特別企画として、アンパンマンでおなじみ、(社)日本漫画家協会の理事長に就任したやなせたかし先生と本学院・木村忠夫院長との対談をお届けします。

協会を世界のマンガの窓口に―

木村 あけましておめでとうございます。昨年は少し体調を崩されたとお聞きしましたが、その後の経過はいかがでしょうか?

やなせ みなさんにはご心配をおかけしました。退院後少しやせましたが、いまは体力も回復し、無理のないように仕事をしています。

木村 それは安心しました。でもあまり無理なさらないで下さいね。さっそくですが、昨年から日本漫画家協会の新理事長に就任されましたよね。今後の方針などについてお話いただけますか。

やなせ 一番年寄りが理事長ですからね...本当は若い人にやってほしかったんですが、でも引き受けた以上、やらなければいけませんからがんばります。とにかく協会は若返りをはからないと時代についていかれませんからね。日本は世界最大のマンガ大国でリーダーシップをとっていると思います。あのマンガ先進国のアメリカの漫画家でさえも、いまでは日本の漫画家に憧れています。そういう中、日本には国立のマンガミュージアムもない。日本漫画家協会も残念ながら世界の中にあっては貧弱かもしれませんね。 日本の漫画家は外国へ行き、外国の漫画家協会のお世話になっているけど、日本に来た外国の漫画家に対して国際会議ができるかというと、ちょっと心もとないんです。マンガ大国としては恥ずかしい。その意味で新世紀を迎えて日本漫画家協会は革命と活性化が必要です。

木村 具体的にはどのようなことを?

やなせ いろいろやることがあるけど、まず協会の幹部の若返りと会報の充実化。それに漫画賞の見直しです。本当は財政が逼迫しているので、協会としても財源の確保が優先されるんですが、それらほやるのに若い人たちのアイデアと行動力が必要です。日本の漫画団体には、カーツーン(ひとコママンガ)の「漫画集団」、コミックの「マンガジャパン」という任意団体があるのですが、それらは親睦団体なので仕事もやりやすいし、まとまりやすいですね。それに対して協会は全国に会員がいるし、マンガのジャンルもさまざまで、図体が大きいので動きが鈍い。でも社団法人ですから、国際的なことをやるときは責任を持ってやらなければならないのです。やっぱり運営は若い人が率先してやってほしいですね。

木村 会報を定期的に出されていますよね。

やなせ 現在は年に四回ほど刊行していますが、もう少しページ数や発行回数を増やしたいね。地方の会員は会報が頼りですからね。それに地方の会員にルポさせて、ニュースを入れる。それにきちんとルポした時の必要経費を支払うようにしたいのです。それから今年から表紙はカラーになります。

木村 でも担当者はマンガの仕事をしながら会報の編集をしなければならないから大変ですね。

やなせ よく「協会に入るとどんなメリットが?」というようなことを聞かれますが、そのように考えるのは間違いです。漫画家が会費を出し合って日本のマンガ文化の中核になり、マンガ文化を推進していかなければならないわけですから、会員にがんばってもらうしかないんです。ぼくらの先輩も、忙しい合間を縫って協会を支えてきてくれたんですからね。

権威のある漫画賞が必要

木村 漫画賞についてはどのようにお考えですか?

やなせ ぼくはかねてからなぜこんなにマンガ文化が栄えているのに漫画賞の権威が低いのだろうと思っているんです。文壇で芥川賞、直木賞などはマスコミもすごく取り上げますよね。でも協会の漫画賞は、新聞のすみっこにちょっとしか報道されません。いまや日本の文化の中でもマンガは世界で注目されている最先端の分野です。単行本についても文壇では100万部も出れば大ベストセラー。マンガなんて何千万部なんてざらで、何億部という作品もあるんですよ。それが評価されないのはおかしいですよね。そこで協会の漫画賞は、大賞のみにして、優秀賞はいらないという考えなんです。名誉賞ではなく、権威のある賞にすべきです。

木村 私も大賛成です。やはり今までの選考はそれなりに評価しますけど、新世紀になり見直すことも必要ですよね。でも漫画界の発展を考えると、新人賞と女流漫画家への賞も必要かと思うのですが。

やなせ そのとおりですね。これだけ創作で女性ががんばって活躍している業界は少ないですよ。それにどうしても女性と男性のの作品では少し質が異なるわけですから、女流作家賞も必要かもしれません。また当然のことながら新人賞は将来のためにも絶対必要ですね。

木村 でも協会の財政が厳しくなると賞金が出せなくなりますよね。

やなせ そこですよ。そこが大切なんです。賞金が目的ではないけれど、やはり社団法人の漫画家協会が行う漫画賞だし、世界に通用できるようにしたい。ということでこの前、漫画賞賞金維持会というのを提案して、ぼくが会長となって協会の会計と別枠で賞金の寄付を会員に呼びかけたら、予想以上に寄付金が集まったんですよ。協会の財政がピンチでも漫画賞の賞金だけはだせるようになりました。本当は文芸春秋社が主催している芥川賞のように、別の財団法人にすれば一番言いのですが、基金が三億円は必要なのでいつになるやらです。日本文化のためにお金を出すスポンサーはいませんかねぇ...

木村 そうすれば漫画賞にもっと権威が出ますよね。でもコミックとカーツーンの関係からどうしても偏りが出てしまうのではないでしょうか?

やなせ 大賞を一人にするからですよ。二人だっていいじゃないですか。それも無理にコミックから一人、カーツーンから一人と分けなくても、二人選べば自然と両方から選ぶようになりますよ。

木村 協会はさまざまなジャンルの漫画家が会員ですが、コミックとカーツーンのバランスに尽力されているのではありませんか?

やなせ これは難しい問題ですが、時代の流れでやっていくしかありません。しかしこのままではひとコママンガは衰退してしまう恐れがあります。いくらコミック全盛でも、マンガの原点はひとコマや四コマにあるわけですから、何かやっていけば復活してくると思うんです。例えば、地方紙でマンガを募集していますよね。でもそれは年に一回とかです。毎月、毎週やってもらうとか、月刊の雑誌でも数枚ひとコママンガを入れてもらうとか、協会として働きかけたいですね。それと仕事がこないと嘆いていないで、自分からも働きかけるべきです。それにしてもコミックもカーツーンも、最近は面白い作品が少ないですな。漫画家の精神さえあれば、案、アイデアの中で生きていかれるわけです。漫画家もただ描いていれば売れる時代は終わったと思います。つまり良い作品を描いていかないと生きていけないということです。この世界は自分も含めて売れなくなったらおしまいです。誰のせいでもなく、自分の努力しかありません。

木村 そうですね。日本のマンガはひとつの節目にきているように感じるのですが...

やなせ 昔はカーツーンに勢いがあって、力もあった。現在はコミックが力を出している。いまの読者にとってマンガ=コミックなんですね。あの朝日新聞でさえ手塚治虫賞がコミックなんです。普通に考えれば朝日新聞は手塚さんの作品より、「サザエさん」の長谷川町子さんの作品でお世話になっているわけですから、賞はひとコマか四コマが妥当だと思うのですが。それだけいまの時代はコミックが中心なのです。しかしながらコミックとカーツーンは違います。でもはっきりと分けるわけにはいかない。辛いところだけど、協会はそれに対応できるようにしていかなければならないんです。ぼくも入院中にはコミックをたくさん読みましたよ。面白い作品が少なくなったとは言え、読んでみるとけっこう面白い作品もあるんですね。絵もストーリーも。ひとコマ作家も、全部読むのは大変だけど、人気のあるコミックぐらいは読むべきですね。

木村 しかしコミック業界も不況で、仕事がない作家も増えていますよね。

やなせ 不況になってきたというより、全体的に面白い作品が少なくなってきているんじゃないのかなあ...血まみれとか、セックス描写の激しい作品が多すぎて、それがエスカレートしている感じだね。それかぜ売れるからなんだろうけど、バイオレンスとポルノだけでは衰えていくよ。質を問われる試練の時代に入っているんです。これはある意味では大変良いことです。何故かというと、マンガ雑誌はページを厚くして購買を誘うわけですが、その中にはすごく良質なものもあれば、えっ、こんな作品も?というものまで入っているわけです。これじゃあだめですよ。質の高い作品なら現在でも売れる。好きな本は取っておきたい人もいるんです。手塚作品が根強い人気を保っているのは、良い作品だからです。編集者は作家に良い作品を描かせるように、一層の努力が必要です。テレビは多チャンネルの時代になってきたけど、いずれ淘汰されますよ。マンガも、これは儲かるという時代がありねたくさんの雑誌が刊行されましたが、増えすぎると質の悪いものもたくさん出てくるわけです。売れなくなったからポルノ化していくというのは残念です。知恵がなさすぎます。だから時代とともに淘 汰されるものは淘汰される、マンガだって同じです。

協会は著作権保護を強化する

木村 最近は新古書店が全国に広まり、それがマンガ市場に影響していると言われていますが。

やなせ 確かに新古書店の件は問題視されているけど、新古書店を無くすことは出来ないでしょう。ただ、作家の著作権、自分の権威をも守るというのは別問題ですから、その点では協会の役割は大きくなりますね。特にインターネットでのマンガの著作権問題は大切です。

木村 新世紀に入り、まさにインターネット時代。ますますマンガの形態が変わってくると思いますが...

やなせ 時代の流れというか、これは仕方がないことです。歳をとって売れなくなるというのも仕方のないこと。それだけ感覚が鈍っているのですから。ぼくなんかもインターネットの仕事が来れば積極的に引き受けるようにしていますよ。もちろうパソコンのことなど全然わからないけど、わからないからといってそのままにすれば、はい、終わりです。時代に合わせて、わからないなりにとにかくやっていくことが大切なんですよ。協会も遅ればせながらモンキーパンチさんに手伝っていただき、まもなくホームページを開設します。情報の入手と発信をしていきますので、会員の方はそれを利用して、特にひとコマの方々は世界の漫画賞にどんどんチャレンジして欲しいです。また、漫画家も自分のホームページを持って自己アピールしていくことが必要かもしれませんね。現にやっている人は大勢います。パソコンは苦手といわないで、大いに役立てるべきです。今はもう漫画家は携帯電話やFAXと同じようにパソコンも必需品ですよ。「俺はできない」なんて言ってたら、時代に取り残されます。

木村 最近パソコンでマンガを描く人が増えましたからね。

やなせ でもね、マンガは将来すべてデジタル化されるかというとそうではないと思う。ある程度見ていると飽きてくるんですよね。アニメでもパソコンで処理しているけど、冷たい感じがするんですよ。絵を手で描くことが大切なんです。うちに出入りしているデザイナーは、ほとんどがパソコンを使っていて、手描きでは無理だと言ってるんです。ちょっと悲しくなりましたね。やっぱり手描きの個性は重要なので、なくならないと思いますよ。特にマンガの場合はね。

新会員さん、いらっしゃい

木村 マンガ大国の日本、協会の役割がますます重要ですね。そうすると出版社との連携強化も...?

やなせ 著作権問題、ひとコママンガの発表の場、漫画賞...どれをとっても出版社との関係を強化していかないと、日本のマンガは国際化から遅れてしまいます。また協会もどんどん新会員が入れるようにしなくてはいけないわけですから、出版との情報交換などの強化は必然的です。またベテランや中堅で活躍している作家も協会に入ってもらうように呼びかけたいですね。聞くところによると、どのように入会したらよいのか、そのきっかけがないようなんです。会員の方たちにも協会をPRしてもらうように呼びかけたいです。これも準備中なのですが、協会のパンフレットも作ります。当面は日本版ですが、英語版も作り世界にもっとアピール出来ればと思っています。

アンパンマンがビタミン剤

木村 先生個人の今後の抱負を聞かせてください。

やなせ とにかくこんな年寄りが協会の仕事をやらなければいけないのですから、やれるところまでやって、一日も早く若い人へバトンタッチしたいです。私個人の仕事もおかげさまで「アンパンマン」が相変わらず人気で、その関係の仕事が多すぎ、対応するのが大変です。富良野にアンパンマンショップが出来たり、生まれ故郷の高知県に出来たアンパンマンミュージアムには、大勢の方に来館していただきました。そんなわけで作品を描いたり、施設を増設したり、アニメも二本放映していますから、関係者との打ち合わせで、休む暇もないくらいです。でも精神的に圧迫されるとダメにので、楽天的にやるようにしています。

木村 それにしても「アンパンマン」の人気は世界的ですよね。スゴイの一言につきます。

やなせ 自分でも驚いています。テレビアニメは金曜日の午後四時で、地方の方は午前五時からの放映なんですが、それでも視聴率はよく、ちびっこのゴールデンタイムになってしまったようです。でも漫画家である以上、私は原稿料と印税で食べていくべきだと思ってますから、もっと質の高い作品を目指して描いてみたいのです。今年はそちらにも力を入れます。期待していてください。

木村 楽しみにしております。21世紀を迎え、理事長としての舵取りに責任が重くなることと思いますが、更なるご発展を期待します。先生もお体に十分注意してご活躍ください。本日はありがとうございました。


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