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続・児童虐待

柳美里

母が盗んだのは生活に関わるものが多かったが、父が盗んだのは自転車、犬、植木—、いつもワイヤーカッターや金鋸や金槌やたがねなどの七つ道具を持ち歩き、高そうな自転車を見つけると、チェーンロックを切って乗って帰ってきた。

父は「新しい自転車」を持ち帰るとかならずフレームに書いてある赤の他人の名前をベンジンで消し、母に家族の名前を油性マジックで書き込むように命じた(韓国で生まれ育ち、十四歳のときに日本に密航してきた父は、日本語の読み書きができない)。六人家族だったが、自転車は十台以上あった。

犬は、よその家の庭を覗き、純血種の洋犬を見つけると、留守を狙って鎖をはずし、散歩を装って家に連れ帰った。

ある日、学校から帰ると、狭い玄関に大きな犬がお座りをしていた。
「いい犬だ。ポインターといってね、イギリスの猟犬だ」

犬はひと晩中、玄関扉の前から動かず、キューンキューンと切ない鳴き声をあげたり、ウォォォンウォォォンと遠吠えをしたりした。

「あなた、やっぱり返してあげましょうよ」
と、母は言ったが、

「一ヵ月経てば、元の家族を忘れる。唾を舐めさせればなつくんだ」と、てのひらに自分の唾を吐いて、無理矢理犬に舐めさせた。

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COURRiER Japon
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    柳美里柳美里
    (ゆう・みり)
    1968年生まれ、神奈川県出身。劇作家、小説家。1993年に『魚の祭』で岸田戯曲賞を、1997年には『家族シネマ』(講談社)で芥川賞をそれぞれ受賞。『ゴールドラッシュ』(新潮社)、『命』(小学館)、『柳美里不幸全記録』(新潮社)など、小説、エッセイ、戯曲の作品多数。

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