帰りが遅い息子は、その時何をしていたか
ある日、わたしは息子におつかいを頼んだ。
息子は、おつかいが大好きなので、黒い革表紙に金のペイントマーカーで「ランヤ本部手帳」と書いてあるスケジュール帳に、嬉々としてメモをしはじめた。
あいにく財布には五千円札しかなかったので、「お釣り、ちゃんと持って帰ってきてよ」と念を押して、自転車にまたがる息子を「気をつけて行ってらっしゃい」と門のところまで見送った。
息子の帰りは遅かった。
寄り道をしているのだろう、と思って仕事をしていると、門が開くギーッという音が聞こえた。
仕事を中断し、汗だくになっているであろうTシャツを着替えさせようと、新しいTシャツを用意して玄関で待っていたが、家の中にはいってくる気配はない。
窓から外を覗くと、金魚を飼っている水甕にビニール袋を逆さにして何かを放しているではないか—。
わたしは、慌てて外に飛び出した。
水甕の中には、二ひきのアブラハヤと一ぴきのニシキゴイの稚魚が泳いでいた。