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続・児童虐待

柳美里

第5回

わたしと息子の現在
〜万引き、虐待、あと五ヵ月で起こる事態

どういうときに、わたしは息子に声を荒らげ、手を上げてしまうのか—、やはり、いちばん激昂するのは、嘘を吐かれること、騙されることだと思う。

嘘を暴き立て、「嘘吐き!」と叱りつけ、嘘を吐くのはいけないことだと説き伏せたところで、嘘を吐くのをやめるわけではないことを、わたしはよく知っている。そもそも子どもは嘘を吐くものだし、常に親の意に適う行動をし、親の命令に喜んで従い、親が禁止したことは素直にやめる子どもなんて、この世に一人もいないだろうし、もしいたら、気持ち悪くて吐き気がする、ぐらいに思っているのだが—、怒りは「知っていること」と「思っていること」を撥ね除けてわたしの前に飛び出し、息子に向かって突進してしまう。
残念ながら「知性は感情の支配する領域には手が届かない」(アリス・ミラー『魂の殺人 親は子どもに何をしたか』)のであり、自分は自分の感情の外に立つことはできない—。

しかし、それも、いいわけの一つに過ぎず、もしかしたら、親という立場を利用して(教育や躾という血の通わない杖に凭れかかって)家から逃亡することができない九歳の息子を感情の捌け口にするという卑劣極まりない行為をしているのかもしれない、と息子を罵倒したり折檻したりしたあとにはかならず自己嫌悪に陥るのだ。
「子どもを教育すればその子は教育を学ぶのです。子どもに道徳のお説教をすればその子は道徳を説教することを学びますし、戒めれば戒めることを学びます。子どもをののしれば子どもはののしることを学び、嘲り笑えば嘲笑することを学びます。子どもを傷つければ子どもは人を傷つけることを学び、子どもの魂を殺してしまえば、子どもも殺すことを学ぶのです。そうなったとき子どもにはただ殺す対象に関して選択の余地が残されるだけです。自分を殺すか、他人を殺すか、それとも両方か」(同前)

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COURRiER Japon
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    柳美里柳美里
    (ゆう・みり)
    1968年生まれ、神奈川県出身。劇作家、小説家。1993年に『魚の祭』で岸田戯曲賞を、1997年には『家族シネマ』(講談社)で芥川賞をそれぞれ受賞。『ゴールドラッシュ』(新潮社)、『命』(小学館)、『柳美里不幸全記録』(新潮社)など、小説、エッセイ、戯曲の作品多数。

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