1989年11月20日脱稿

 東証ダウの大暴落は既に秒読み段階!
   −歴史の必然は絶対避けられない−

                 
国際経済戦略家 金森 薫
 ▼完ペキにズレているディーラー、エコノミストのストーリー
 FRBは単なる私設機関
 CFRの最終目的とは
 ゴルバチョフとバチカンが東欧を変えた
 東証ダウ暴落の必然とドル相場の行くえ


完ペキにズレているディーラー、エコノミストのストーリー


  この拙文が読者に届くのは恐らく師走(注=1989年)も中頃。街中にはジングルベルが流れ、オジさんの仕切るカラオケ忘年会もピークをむかえていよう。年末が近づくにつれ為替・債券・証券ディーラーおよびエコノミストによる“来年の見通し”で各誌が賑う。そして毎年のように見事に間違う。

 数字としてのドル円レートや金利水準、株価水準についてはそれはそれとして多少のズレはむしろ当然かも知れないが国際政治の流れや経済大国日本の世界経済に果たす役割についてはあまりにもお粗末。相対的に高給取りと言われ知的水準の高い彼らがどうしてこうなるのか?


 私は当誌10月・11月号で

 「CFR(外交問題評議会)・TC(日米欧三極委員会)メンバーの動向を注意深く追うことで大局の流れ(日本も含め)は予測できる」

 とした雑文を書かせていただいた。


 今回は読者の皆さんが驚愕される幾つかの事実を通してヤルタ体制が事実上崩壊した今、次は「金満日本」と第三世界の累積債務問題とを継ぎ合わせる秒読みが始まったのだ、という事を是非知っていただきたく再びペンを握らせていただいた。


FRBは単なる私設機関

 資料1・を見ていただきたい。アメリカ合衆国憲法の一部抜粋である。これにより間違いなく米国の国債発行及び貨幣鋳造、価値を定める役割は米国議会にあることがわかる。では今日、世界経済の「要」となっているFRBとは一体何なのか?

 実は米国は既に1836年に中央銀行を廃止している。ところがその後、1913年、連邦準備法が通りFRBが設立されているのだがこの設立背景がスゴイ。

 当時既に国際金融資本に成長していたロスチャイルドの厳命を受けたP.ヴァールブルク(=ポ−ル・ウォ−バ−グ)及びロックフェラーの代理人F.ヴァンダーリップが1910年から議会工作を続けわざわざ、この連邦準備法への反対派まで作り上げた結果、1913年12月22日、下院298対60、上院43対25で可決成立。


 つまりこの時からホワイトハウスはその金融政策のイニシアティブをCFRの創設者達に握られたのである。


 国法・州法銀行はこれにより単なる商業銀行に格下げられ通貨の発行権は全てFRBに移ってしまった。この「FRB」の性格について当時、A.リンドバーク一世議員が議会で極めて的を得た発言をしているので紹介しておこう。


『この法案は史上最大の国際金融資本連合によるアメリカ支配を確立するものだ。もし、 大統領がこの法案を承認すれば、“見えざる政府”の巨大な資金操作が法律で合法化されよう。国際的な銀行家達はいつでも彼らが望む時にインフレをつくり出すことだろう』



CFRの最終目的とは

 そのFRBのヘラー理事が1989年4月6日ミズーリ州での講演で「各国の経済や金融市場の一体化に合わせ、通貨制度を世界規模で徐々に統合していくことが望ましい」と述べた。ここにCFR最終目的の片鱗が見え隠れする。

 CFRは定期的に論文を刊行しており、東京でも大きな書店で手に入るが古い物では1959年の「研究第7号」(Study No.7)に「平和と社会的・経済的変化に対する世界の要求に対応しなければならない・・・。新しい国際的秩序の建設、即ち自らを共産主義者と呼んでいる国々を含む一つの国際的秩序の建設を支持する」とある。


 信じられないかも知れないが、つまりは最終的に東西両陣営の大合併を実現して、世界連邦・世界政府樹立を目指しているのだ。私とて信じたくはない。しかし、この1919年にパリで創設されたCFRの創設メンバーがロシア革命の時点から極めて深く世界史にコミットし、第二次世界大戦が必然的に勃発せざるを得ない環境を作り上げていった張本人であることを確信するに至り、一連の東欧諸国の“自由化”の動きも“必然”と判断できるのである。


 しかもCFRの構成メンバーは世界のあらゆる分野に確認されており、その数も、直接メンバーだけで1500名にも及び各分野のエスタブリッシュメントばかりで占められている。中でもマスメディア関係はロイター社は勿論、NYタイムズ・ワシントンポスト、NBC、CBC、フォーチュン、ニューズウィーク、ビジネスウィークなど主要各社を押さえている事実は見逃せず、一般人がCFRの存在とその役割に気がつかぬ使命を持っているのである。


 私はここで再び読者に問いかけたい。 貴方は恐らく、この様な“陰謀”“謀略”などある訳がないとお考えであろう。「世の中が不透明で漠たる不安の時代であるが故、“陰謀説”捏造が人々の不安心理に付け込みやすい」とも思うかも知れない。しかし私は私自身、所詮物書きで生計を立てているわけでもなく一介の為替ディーラーにすぎない。おもしろ可笑しくデッチ上げ臭い話しをしても何の得にもならない。


 それでは、なぜ、一介のディーラーにすぎない私が、イラン・イラク戦争の1988年停戦一次産品のプライス動向、プラザ合意以降の円相場動向、アフガン停戦、ブッシュ大統領当選、東欧自由化などの予測を的中させることが出来たか!? 決して「まぐれ当たり」でもなければ「超能力者」でもない。ましてや「ユダヤが解かると世界が見える」式の宇野正美論者では毛頭ない。


 根気よく、新聞の海外記事(特にベタ記事)を切抜き、これにまた毎日、根気よく海外論調の雑誌に眼を通し、日米関係や米国論を展開している本を購読し続けることで大体、予測できるものなのである。つまりCFRメンバー(至近ではブッシュ大統領、ベーカー国務長官、FRB主要メンバー、キッシンジャー氏、ニクソン元大統領、ブレジンスキー氏等)の動向を追えば大局がつかめるのである。





ゴルバチョフとバチカンが東欧を変えた

 まず写真(11月14日毎日朝刊)を見ていただき度い。11月12日、ポーランド公式訪問を再開したコール西独首相とマゾビエツキ・ポーランド首相が第二次大戦以来の和解をミサの形で行なっているところである。

 バチカン。この言葉で「P2事件」(1981年3月)を頭に浮かべる読者は相当の国際感覚をお持ちの方と思う。「フリーメーソン」を連想する方も同様。このバチカン=ローマ教皇庁の元首・首長は現在、ヨハネ・パウロ二世も彼はポーランド出身でありポーランドの「連帯」活動資金1億ドルを提供した張本人である。つまりポーランドの自由化を支えて来たのはバチカンということになる。

 世界のカトリック信者総数8億5千万人。まさに「反共陣営の大本山」であり1965年以降、「エキュメニカル」(教会一致)戦略とともに他宗教への対話の精神を打ち出した。資産3千億ドル。終局的には全てのキリスト教連合により有神論の復興と統合を目指し、さらには諸宗教を無神論に向けて連合させるものである。

 つまりバチカン主導による「政治」に対する「宗教者の力の復権」であり宗教者による政治権力の奪還へと連動してゆくのである。ここに対共産戦略が見える。「宗教の自由」を基本的人権としてとらえ、それを共産主義政府に認めさせること、これがバチカンの“東方戦略”だ。

 教皇は世界各国をあちこち飛び回る。世界全体48億人中、信仰者30億人。残りが無神論者。その代表が共産主義者とあらばバチカン戦略は見事に、今、東欧の自由化を計らんとするゴルバチョフ・米国グローバリストの戦略と一致する。

 東ベルリンではプロテスタント教会の礼拝からデモがはじまり、ハンガリー・チェコスロバキア、ポーランド、ソ連邦内のバルト三国の自由化もこの地帯がカトリックであることから容易に予測ができるのである。12月1日、ゴルバチョフがバチカンを訪問する。重大である。恐らくソ連邦内のバルト三国の取扱いをめぐる話しになろう。しかも時期は未定も「ローマ法王、訪ソへ」(11月2日毎日朝刊)と歴史的実現が決定された。

 12月2日、3日に行なわれる米ソ首脳会談は実は7月段階に決定していた。東欧の自由化の戦略は既に全てのプログラムを米ソが作り上げていたのである。バチカンも、1960年代から東欧自由化へのシナリオ作りを始めていたのである。自由化への、スピードが早すぎると見るのは我々凡人だけであり何十年も前からのシナリオ・プログラムが最後の段階で一気に開花しただけのことなのである。

 ソ連の首脳陣をはじめ東欧諸国の人事はゴルバチョフの一言で決定付された。東ドイツ・ホネッカー議長、ブルガリア・ジフコフ共産党書記長。恐らくルーマニア・チャウシェツク書記長・チェコスロバキア・ヤケシュ書記長もゴルバチョフの一言で解任されるであろうし、東ドイツのクレンツ書記長も就任わずか二ヵ月で12月中旬には解任されるだろう。

 そして、11月19日、CFRのキッシンジャー元米国務長官が「今後5年以内に東西ドイツは再統一される」と“予言”したが如く、1992年のEC統合前後にドイツは連邦として統一されよう。




東証ダウ暴落の必然とドル相場の行くえ

 紙面制限上、ひとまず、この辺で結論らしき“まとめ”に入ることにしよう。

 私は本誌11月号で11月中旬以降、「中南米累積債務問題」に注意せよ!と述べ、それが「デフォルト」に至ると東京株式市場は金融株中心に大暴落・円相場も対ドルで150円方向へ、その後110円方向へ、と予測したが今現在も、その見方に変化はない。

 この拙文で述べて来た様に、

 東西デタント(米ソ・中ソ・米中関係を含む)・中東和平への展望、そして地域紛争(南ア・アパルトヘイト解決への展望、
朝鮮半島和平へのニクソン・キッシンジャーの動き、イ・イ戦争終結、アフガンからのソ連撤退、カンボジア和平への展望)そして最後に、ロックフェラー家のファミリー結束・資産の現金化・効率化への動きを総合判断すると、間もなくジャパン・マネーと第三世界累積債務の“合体”を狙った“ビッグ・クラッシュがWASPグローバリスト達に演出されるのは間違いない。

 その為にこそ米銀カナダの民間銀行、欧州各行は巨額にのぼる貸倒引当金を計上し、その日に備えて来たのである。しかも、ここ半年間に集中的に計上しているのである。

 日本の民間レベルはわずかに15%の償却邦銀のダメージは計り知れない。米ソ首脳マルタ会談は12月2・3日、ブラジル大統領選決定は12月17日。米国が意図的に「リオ・クラブ」に共同デフォルトを演出させ邦銀等に債務の大幅削減と新規融資を迫る日は近い。

 ソ連・東欧への資金援助も“形”だけのペレストロイカから“具体的経済改革を伴うペレストロイカ”へ移り行かねばならない重要な時期に差しかかって来たがゆえ、ジャパン・マネーを何等かの激的な動きにより一気に奪取せねばならない。

 本日(11月23日)、日経朝刊に「都行上位行、メキシコ債務圧縮で今期10%−15%の大幅減益」との記事が出た。しかも、外為市場では“アルゼンチンへの債権で某邦銀が1千億円の焦げ付きを出したらしい”との噂が流れただけに短時間で1円以上の円安にブレた。

 これだけで1円のブレであるから“本番”では10円位ブッ飛ぶかも知れない。勿論、東証ダウは一日で4、5千円の下落。一週間で1万円位の下落はまぬがれまい。

 *図表は省略させていただきました。      (1989年11月20日脱稿)