かつてCIAの分析部でアルカイダ担当部長をつとめたマイケル・ショワーは、このテロ攻撃により、「米国が有するアルカイダ専門家のトップ5のうちの数人が殺害されてしまった」とまで述べている。「このタイプの専門知識を失った代償は大きい。すぐに取って代われるようなものではなく、短期間に彼らのような専門家を作ることは不可能」だからである。また元CIAの工作担当官であるロバート・ベアは、「これは陸軍で言えば一個大隊を失ったのに匹敵する甚大な損害だ」と米メディアにコメントしている。
泥沼のアフガン戦争
1月9日、アラビア語のニュースチャンネルに、バラウィが「パキスタンのタリバン(TTP)」の指導者ハキムラ・メスード司令官と並んで映っている映像が流された。ハキメラは、2009年夏に米国の無人機攻撃によって殺害されたベイトゥラ・メスードの息子である。
伝統的なアラブ衣装を身にまとったバラウィは、「われわれはベイトゥラ・メスード首長の血を決して忘れてはならない。米国内外で彼のための復讐を求め続けるのだ」とアラビア語で述べて、このパキスタン・タリバン指導者が殺害されたことに対する報復として、米国のターゲットに攻撃を加えると宣言していた。
TTPはこれまでアフガニスタン国内でテロ攻撃を行ったことはないとされていたため、今回TTPがハッカーニ・ネットワークやアルカイダと連携してCIAに果敢に攻撃を仕掛けたことに関係者は一様に驚いている。
しかも、本来ダブル・スパイを使った工作とは、非常に洗練された作戦であるため、彼らがこのような高度な技を使い、しかも目標を見事に達成してCIAに甚大な被害を与えたことは、非常に重要な意味を持っている。
今回のテロ事件によって、CIAは数少ないアルカイダやタリバン、そしてアフガニスタンの専門家を失った。またアフガニスタン東部のインテリジェンス網の再構築を余儀なくされることになった。
この分野の立て直しは容易ではないだろう。しかも、対アルカイダの情報戦における貴重なパートナーであるヨルダン情報機関GIDとの関係も、この事件を契機にギクシャクしたものになっているはずである。
言うまでもなく、今後GIDが連れてくる情報源をCIAの工作担当官は疑いの目で見るようになるはずであり、GIDも本来秘密にしておきたかったCIAとの関係をここまで公にされては、アラブ世界での立つ瀬がなくなる。今後の対米情報協力には消極的にならざるを得ないだろう。
オバマの対アフガン戦略は、本格的な米軍増派を前にして、早くも大きく後退させられたと考えて間違いない。2010年、米国は泥沼の戦いを強いられることになりそうである。
【主要参考文献】
“CIA bomber struck just before search”, The Washington Post, January 10, 2010
“How this suicide bomber opened a new front in Al-Queda’s War”, The Times, January 10, 2010
“In Afghanistan attack, CIA fell victim to series of miscalculations about informant”, The Washington Post, January 16, 2010
“CIA bomber calls for attacks on U.S. in video”, The Washington Post, January 10, 2010
“Jordanians question alliance with US after Human Al-Balawi’s CIA suicide bombing”, The Times, January 12, 2010
“The Meaning of al Qaeda’s Double Agent”, Wall Street Journal, January 7, 2010